CONNECT in 丸の内

今知るべきIPO後の成長戦略 未来世代に引き継ぐ産業を創出するために

東京21cクラブ

 「丸の内フロンティア定例会」は、スタートアップ企業や大企業のビジネス展開に役立つ知見の拡大やメンバー同士のコミュニティー強化を目的として、新丸ビル10階にある東京21cクラブにて開催しています(現在はオンラインで開催)。

 未来の産業を牽引するスタートアップを創出するには、何が必要なのか-。

 2021年6月9日の丸の内フロンティア定例会では、「これからの日本のスタ-トアップが大きな成長を実現させるには?」をテーマに議論が交わされました。

 今回登壇したのは、上場の前段階に差し掛かるレイターステージからマザーズ上場後、比較的まだ事業規模の大きくないポストIPOのスタートアップを対象にリスクマネーや経営知見などを提供するグロースファンド「THE FUND」を運営する、シニフィアン株式会社共同代表の朝倉祐介さん、そして、2011年に東証マザーズに上場した東大発ベンチャーであり、「イメージングAI」の研究開発を行う株式会社モルフォ代表取締役社長の平賀督基さん。モデレーターは、東京21cクラブ運営統括の旦部聡志が務めました。

 右肩上がりで成長する国内スタートアップの資金調達額

 コロナ禍において、スタートアップにとってお金を集めやすい環境が続いています。イベントでは、スタートアップが成長を止めずに、新たな産業創造を実現させるためには何が必要かといった内容が語られました。特に議論が盛り上がったのは、「IPO後におけるスタートアップの成長」についてです。

 朝倉さん「日本のスタートアップ資金調達額は、2012年から右肩上がりとなっています。1982~1987年における米国のスタートアップ資金調達額は年間45億ドルなので、ようやく日本もその水準に追いついてきました。産業を牽引するスタートアップを創出するためには、起業家の絶対数を増やすほか、M&AやIPO後に継続成長するための支援も必要です。マザーズの新規上場数も増えている一方で、上場時に高騰した初値を株価が上回らないことも多い。なぜならアセットクラスの都合上、IPO後もVCが継続支援することは難しいうえに、長期保有を前提とする機関投資家の投資対象にならない水準の時価総額規模に留まる会社が多いからです。結果、目先の株価や業績の上がり下がりばかりに目が向きがちな投資家が集まりがちになります。中長期の視点がないため、スタートアップが思い切った投資や挑戦をしづらく、新産業創出のボトルネックになってしまう可能性があります」

平賀さんは朝倉さんの意見にうなずきながら、モルフォでの実体験について語ります。

 平賀さん「モルフォの株主は個人投資家が中心です。株主構成でみると、代表の私が約10%、デンソーさまが約5%、あとは機関投資家や社員など。その他の70~80%程度は、個人投資家となります。朝倉さんがおっしゃるように個人投資家は短期的な業績を気にされることが多いため、あまり要望を聞いてばかりいると中長期的な戦略が立てられなくなります。モルフォは昨年、上場以来2度目の赤字決算で、今期も赤字を見込んでいます。コストカットや人員削減を行えば黒字にすることはできますが、それでは中長期的な成長が見込めない。赤字であったとしても、将来に向けた投資を行う考え方を大事にしています」

 Post-IPO後の資金調達に関する難しさが語られる中、朝倉さんは「一方で、状況は変化しつつある」と強調します。東証マザーズにおけるパブリックオファリング(公募増資)は2017年に3件だったものの、2020年には6件と倍増していることを挙げます。

 朝倉さん「特徴的なのは、2017年のパブリックオファリングは国内で資金調達をしていましたが、2020年は全て海外市場のみを対象としていることです。あまり時間をかけずにできる『ABB(アクセラレーティッド・ブック・ビルディング)』がマザーズ上場企業の鉄板の手法として定着しつつあり、Post-IPOに対する資金提供もだいぶ進んできました。また、上場前ではありますが、2021年6月に発表された株式会社SmartHRの資金調達も印象的です。THE FUNDも出資しておりますが、今回のラウンドでは未上場と上場後の継続成長を支援する米国の投資家が中心となり、156億円という規模の金額を調達しました。全てのスタートアップが必ずしも上場前に大きく資金を調達していなければいけないわけではありませんが、産業を牽引するスタートアップになるためには、SmartHRのように戦略的に資本政策を講じることも今後重要になると思います」

 既存事業の成長に取り組みつつ、新規事業を生み出すには

 産業を牽引するスタートアップへと成長するため、戦略的な資金調達を行うだけでなく、新規事業も生み出していけるような組織づくりも求められます。

 平賀さん「モルフォでは、将来大きな利益をもたらすかもしれないと思う取り組みに20%の時間を費やすGoogleの『20%ルール』を導入したり、社内合宿で社員に経営理念を考えたりしてもらうなど、自発的に手を挙げて実践する取り組みを行っています。しかし、まだまだ受け身な印象も多く、もっと積極的にチャレンジしてほしいと思うことが多いです。新規事業にも取り組む場合、どのように社員を引っ張っていけばいいか難しいと感じています」

 この課題に対して、朝倉さんは「社員を引っ張る必要はないと思います。“混ぜるな危険”ではないが、既存事業の担当者に新規事業をやらせないほうが良いかもしれない」と語ります。既存事業と新規事業は求められる能力や風土が異なる部分が多く、ミクシィ時代には新規事業部門と既存事業部門のオフィスを分けようとしたことまであったそうです。

 朝倉さん「新規事業を作れるのは、与えられて実行するのではなく、誰にも頼まれてもいないのに自ら使命感を持って事業に取り組むアントレプレナーシップを持った人材です。そういった意識を持たない社員を変えるのは難しい。そのため、新たに採用をするか、もしくは新規事業には社長自身が主体的にコミットすることなどが求められると思います。例えば、印刷・広告のシェアリングプラットフォームを提供するラクスル株式会社は印刷通販の価格比較サイトサービス『印刷比較.com』から始まり、物流のシェアリングプラットフォーム『ハコベル』、運用型テレビCMサービス『ノバセル』など複数の新規事業を展開しています。どれも立ち上げフェーズは社長がコミットし、成果を上げていましたね」

 イベントの最後、両者からスタートアップに向けたメッセージが送られ、イベントは幕を閉じました。

 朝倉さん「社会課題を解決し、新たな産業を創出するプレイヤーが輩出できなければ、世の中の信認を得ることはできません。だからこそ、成功事例を増やし、スタートアップの取り組みを日本に根づかせ、多くの起業家を生み出すようなサイクルを作っていきましょう」

 平賀さん「日本の産業を盛り上げるためには、大企業はもちろん、スタートアップも関わりながら相互作用で良い影響を与えていくことは必須です。ぜひ我々にお声がけいただいたり、お聞きいただいた企業同士で連携したりしながら、頑張っていきましょう」

三菱地所が運営する「東京21cクラブ」は、ビジネス・アクセス共に利便性の高い東京駅前・新丸の内ビルに拠点を構え、国内外の先端スタートアップや大企業、その他様々なプロフェッショナル約600名が集うオープンイノベーションに特化した起業家支援コミュニティです。オンラインを含むイベントやセミナーなどを通じて、ミートアップなどの企業同士の交流の場を提供し、新規事業開発支援を行っています。

【CONNECT in 丸の内】では、三菱地所が運営する国内外のスタートアップとそのサポーター約600名が集う起業家支援コミュニティ「東京21cクラブ」による、イノベーション創出支援を目的とした活動の一部をご紹介します! アーカイブはこちら