【Fromモーニングピッチ】20~30代社長が牽引 大企業発ベンチャーが時代の波に乗る

2020.7.17 07:00

 デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげることがねらいです。残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のためオンライン開催となっていますが、いずれ会場(東京・大手町)でのライブ開催に戻す予定です。

 モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回は大企業発ベンチャーです。

 テーマ概観を説明するのはイノベーションプロデュース事業部ビジネスインキュベーションユニット長の福島和幸です。ベンチャー企業の創業などに携わり、当社に入社した後は大企業による新規事業の創出支援に携わっています。

 ベンチャー企業との協業が活発化

 過去5年間のオープンイノベーション活動を振り返りますと、ベンチャー企業との協業に注力する大企業が急増しております。特にアクセラレーションプログラムを通じたベンチャー企業の探索や協業推進に注目が集まっていました。また、ベンチャー企業との協業の加速やM&A(企業の合併・買収)を見据え、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を設立し、本体とは異なる独自の方針、意思決定フローで投資活動に取り組む企業も増加傾向にありました。

 オープンイノベーション活動を通じて新規事業創出の実績が生まれている一方で、DTVSには「自社の活動が新規事業創出に繋がらない」といった相談が増えています。アクセラレーションプログラムを実施したものの、(1)発表会後に活動がトーンダウンしてしまう(2)「有望ベンチャー」として紹介された企業へ投資したが、その後の事業連携や協業がうまく進まないーなどが主な理由です。積極的に活動していたにもかかわらず成果に結びついていないため、今後の活動を見直したいといったケースも決して少なくはありません。

 新規事業に重要なポイント

 ベンチャー企業との協業という手段を活用して新規事業を創出した企業は3つのポイントを押さえているケースが多いのではないかと考えています。

 1点目は、新規事業案の考え方です。「経営資源」「未実現の需要」「自社で実現したいこと」の円を描いて、3つの円が重なっているスイートスポットに該当するアイデアに対して、ビジネス仮説を検討できているかという点です。

 2点目は、パートナーとなるベンチャー企業の選定です。ビジネス仮説を具現化するために、「同じ目線で取り組むコミットメントはあるのか」「技術力を備えているのか」など、評価基準を設定したうえで判断する必要があります。ビジネスパートナーとして苦楽を共にするわけですから、両社の企業文化の適合も忘れてはいけない観点です。

 3点目は、ビジネス仮説の検証です。ターゲットとなる顧客ニーズの有無や技術の精度など、目的と目標を設定した上で、事業としての確実性の度合いを確認することが重要です。

 この他にも論点はありますが、こうしたポイントを押さえずに進めると、ベンチャー企業との協業につまずくことが多いようです。

 経営経験のない若手やミドルを抜擢

 これまで大企業の子会社社長は、本社の部長以上など特定の役職が就くルールや前例踏襲で制限されていた事例が多かったのではないでしょうか。しかし、レガシーな大企業も重点施策としてイノベーションや新規事業を掲げるようになり、専門部署の新設や新規事業にチャレンジできる仕組みの整備に伴って、事業を立ち上げた若手やミドルに経営を任せるケースが顕在化しています。一部で注目が集まっているのが30代社長です。

 経営経験のない若手やミドルの抜擢によるリスクに目を向ける方もいらっしゃいますが、経営者という立場で事業を俯瞰し、赤字に苦しみながら限られた情報を基に意思決定をする経験は、次世代リーダーを育成する絶好の機会と捉えることもできます。

 今回は、大企業の中で様々なハードルを乗り越えて事業を立ち上げた20~30代社長がどのような事業を展開しているのかについて、ご紹介します。

 無人AI決済システム

 店舗に足を踏み入れた時からカメラが追って、手に取った商品を自動認識し、清算ゾーンで交通系ICをタッチすれば完了する無人AI決済システムを提供するのが、JR東日本スタートアップ発の「TOUCH TO GO」です。先行して導入した高輪ゲートウェイ駅の店舗では認識精度が90%を超えています。将来的には、JR東日本グループ以外の小売・飲食店などにも展開し、省人化モデルを全国に広げていきます。

 “飛び地”のアイデアを事業化

 三井不動産の事業提案制度から生まれたベンチャー、GREENCOLLARは、日本品種の高級ぶどうを日本と、季節が反対のニュージーランドの2拠点で栽培、販売する事業を展開しています。これまでは供給時期の偏りや大規模な生産者が存在しなかったため、日本品種のぶどうは海外での認知度が低く、国内消費が9割を占めていました。今回の事業で通年供給を行えるようになり、世界市場を目指します。

 印鑑に代わる電子契約サービス

 三井住友フィナンシャルグループ発のリーガルテックベンチャーが、SMBCクラウドサインです。紙と印鑑で行っていた契約業務をオンラインで完結する、日本の法律に特化した弁護士監修の電子契約サービスを提供しています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴って注目されているリモートワークの推進にも寄与するため、パートナーとの連携を強化して市場を開拓していきます。

 三菱地所では社内の新規事業制度を活用して、2人の20代女性がMedichaという新会社を設立しました。瞑想とアート、煎茶文化を体感できるスタジオを東京・青山で運営しています。COVID-19 を踏まえオンラインメニューも展開しています。リモート疲れによるメンタルヘルスへの関心が高まっているため、独自の瞑想コンテンツを活用した新規サービスやプロダクトの共同開発などに期待が集まります。

 450年の“歴史”を変革

 東芝発のベンチャーであるIDDKは、450年にもわたって変化がなかった光学顕微鏡の基本原理を変えました。適用したのは半導体のメッシュによって観察する技術です。レンズで拡大する技術を使わずに小さなデバイスでの観察が可能になるため、操作性や携行性に優れたデバイスを自社で開発するとともに、オープンイノベーションによる医療用検査キットの開発などにも力を入れていきます。

 大企業は時代の要請に即した子会社を生み出してきました。ウィズコロナによって新たな事業モデルが求められる中、大企業発ベンチャーの活躍の場は広がりそうです。

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福島和幸(ふくしま・かずゆき)

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デロイト トーマツ ベンチャーサポート(株)イノベーションプロデュース事業部ビジネスインキュベーションユニット長。スタートアップ企業でマーケティング、IT企業で広告、デジタルマーケティングに携わった後、共同創業者として起業。当社入社後は、大企業向け新規事業創出に係るアドバイザリー業務に従事。ベンチャー企業との協業ハンズオン支援、CVCの設立、運営支援に取り組む。

【Fromモーニングピッチ】では、ベンチャー企業の支援を中心に事業を展開するデロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)が開催するベンチャー企業のピッチイベント「Morning Pitch(モーニングピッチ)」が取り上げる注目のテーマから、日本のイノベーションに資する情報をお届けします。アーカイブはこちら

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