【Fromモーニングピッチ】ウィズコロナで消費者の価値観も変化 リテールテックベンチャーが伴走する

2020.8.28 07:00

 デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげるのがねらいです。残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のためオンライン開催となっていますが、いずれ会場(東京・大手町)でのライブ開催に戻す予定です。

 モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回は小売業向けの先端技術「リテールテック」です。テーマ概観を説明するのは、DTVSでオープンイノベーションやエコシステムの分析などに携わっている羽渕麻美です。

 ユニコーンの1割占める

 リテールテック系のスタートアップは電子商取引(EC)や、倉庫保管からラストワンマイルの配送に至るサプライチェーン、商品とサービスの即時配信など6つの分野に分類され、その中から2020年も次々と新しい企業が誕生しています。

 2015年以降のリテールテックスタートアップを巡るお金の動きを見てみましょう。世界的な資金調達の動向は、事業が軌道に乗って安定成長している「レイターステージ」への投資にシフトしています。国別投資件数のシェアは、15年時点で米国が半分近くを占めていましたが、徐々にアジアが拡大し、19年には米国を上回りました。中国のスタートアップがアジア全体をけん引するという構図が鮮明になっています。

 また、2019年には、評価額が10億ドル以上で未上場のスタートアップを指すユニコーン企業が310社誕生しましたが、そのうちの1割に相当する31社がリテールテック系でした。さまざまな産業の中で注目領域となっています。

 OMOで顧客の接し方に変化

 次に「リテールテックはどのように変化していくのか」というテーマで、新しい概念を紹介します。キーワードは「OMO(Online Merges with Offline)」。オンラインとオフラインを融合させるマーケティングです。

 これまでオンラインからオフライン(実店舗)へ送客していましたが、OMOによって顧客との接し方は大きく変化していきます。企業目線による販売やサービスに代わって、顧客視点の考え方を取り入れているからです。そのための顧客接点の手法はオンラインが主流となり、オフラインは信頼を獲得するための手段となります。オンラインとオフラインとの接点ポイントは(1)広告メールなどテクノロジーによって量産可能なデジタル(2)店舗などで複数の顧客に同時に接する場所(3)顧客別に対応するリアル-という3つの条件が重要になります。

 無料配送で顧客接点を強める

 ここでOMOの事例を紹介します。中国の4大保険会社、平安保険が展開する「グッドドクター」というアプリでは、デジタル接点で健康食品の紹介などを行うほか、医師がオンラインで相談に乗ったり、実際の病院を紹介したりするといったサービスを提供しています。

 中国のアリババが運営する生鮮食品を中心としたスーパーマーケット「フーマーフレッシュ」では、宅配ECを展開しており、店舗から半径3キロ以内の地域には無料で30分以内に配送します。また、顧客が興味を抱き実店舗に足を運んでもらえるように、生け簀で泳いでいる魚をその場で調理してレストランで提供するなど、新しい形の業務を展開しています。

 視力測定などに特化した店舗

 日本では眼鏡販売のJINSの事例がユニークです。人工知能(AI)を活用した次世代型の新店舗は、フレームの選択と度数計測に特化して決済はアプリから行います。商品在庫を抱えずに運営できるため、視力測定などの接客に注力できます。

 三陽商会はディープラーニングを活用したAIの社会実装事業を展開するABEJAと連携し、同社の解析技術を活用して店舗内の回遊率と接客力を高め、売り上げを伸ばすことに成功しました。

 このようにオンラインとオフラインの在り方が大きく変わる中、今回は店舗とECが抱える課題を解決する5社のベンチャーを紹介します。

 1秒で数百個を読み取る

 RFルーカス(東京都港区)は「Locus Mapping」というシステムを展開しています。在庫や物品管理はアナログ的な作業が中心ですが、デジタルトランスフォーメーション(DX)によって生産性の向上を実現します。品物にRFIDタグを貼り付けてハンディリーダーをかざすだけで、わずか1秒の間に遠隔から数百個までの品物を読み取って、何がどこにどれだけあるのかを、デジタルマップ上に表示します。

 DXで3密対策

 北海道大学発ベンチャーのAWL(東京都千代田区)は既存の防犯カメラ事業で培った技術を活用し、DXを通じ新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う“3密”対策に力を入れていきます。具体的には店舗の状況を分析し可視化するAIカメラソリューションによってカメラに映る人物を認識し、性別と年齢を推測。集計結果はダッシュボードでリアルタイムに確認できるシステムです。

 数えない在庫管理

 ZAICO(山形県米沢市)はITリテラシーが高くない中小・零細企業をターゲットとした「数えない在庫管理」が特長のクラウド在庫管理ソフトを展開しています。アプリにはRFIDと画像認識、品物を上に載せるだけで個数を読み取るIoT重量計の機能を搭載しており、製造業や小売りを中心にユーザー数は10万を突破しています。在庫品の中古市場での価値をAIが分析し、同市場で売るケースもあります。

 コンバージョン率を2.5倍に

 ユーザーに最適な提案を行うセールスオートメーションAI「SELF LINK」を提供しているのが、SELF(東京都新宿区)です。

 これまでのウェブ接客・会話AIは聞かれたことに答えるだけの機能でしたが、このAIはユーザーの状態などあらゆることを記憶し、ユーザーに適した情報や会話を提供し企業側のマーケティング活動に貢献します。東急百貨店でのECサイトでは、コンバージョン率を2.5倍にした実績があります。

 スマホ、カード決済を1つに

 日本でもスマートフォン決済の事業者が増えており、クレジットカード決済も含めるとその数は膨大です。導入店舗側は経理業務などに負担を感じていますが、これらの決済を1つにまとめることができるのが、Take Me(東京都港区)が運営する決済サービスです。現在、世界で展開されている100種類以上のキャッシュレス決済に対応でき、ハードウエアや月額手数料は無料とコストをかけずに導入できる点も強みです。

 COVID-19によってテレワークが普及し、ECサイトでの購入が増えるなど消費者の価値観は大きく変わりつつあります。リテールテック系ベンチャーの活躍の場は確実に広がりそうです。

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羽渕麻美(はぶち・あさみ)

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中央官庁勤務を経て、デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社へ参画。パブリックセクターを中心とした調査業務、ベンチャー企業支援プログラムや大企業向け新規事業創出アドバイザリー業務、アクセラレーションプログラム、スカウティングサービスに従事。

【Fromモーニングピッチ】では、ベンチャー企業の支援を中心に事業を展開するデロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)が開催するベンチャー企業のピッチイベント「Morning Pitch(モーニングピッチ)」が取り上げる注目のテーマから、日本のイノベーションに資する情報をお届けします。アーカイブはこちら

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