【東京商工リサーチ特別レポート】企業の休廃業・解散が急増中 なぜか業績好調の会社も…支援策待ったなし

 
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 2018年に全国で休廃業・解散した企業は前年から大幅に増加した。休廃業・解散した企業の中には、業績好調ながら後継者難で事業継続を断念するケースもある。経営者の高齢化や人手不足が深刻さを増すなか、「廃業」を負の側面と強調するだけでは前に進まない。多面的で具体的な成長支援策が求められる。(東京商工リサーチ特別レポート)

 2018年に全国で休廃業・解散した企業は4万6724件(前年比14.2%増)だった。企業数が増加したのは2016年以来、2年ぶり。2018年の企業倒産は8235件(同2.0%減)と、10年連続で前年を下回ったが、休廃業・解散は大幅に増加した。休廃業・解散と倒産した企業数の合計は、判明分で年間約5万5000件に達し、全企業358万9000者の1.5%を占めた。

サービス業が1万件超と目立つ

 2018年に休廃業・解散した企業の従業員数(判明分)は、合計13万3815人(前年比24.1%増)で、2年ぶりに増加した。事業譲渡に伴う休廃業・解散もあり、すべての従業員が失業したわけではないが、休廃業・解散で13万人超が勤務先の変更や離職を余儀なくされたことになる。

 法人格別では、最多は「株式会社」の1万9684件(前年比16.2%増)。2019年度より事業承継税制が拡大される見込みの「個人企業」は8001件(同12.5%減)で3位だった。2位の「有限会社」は1万5898社(同30.7%増)。有限会社は2006年5月の会社法改正後、新設されていない。

 産業別では、最多は飲食業や宿泊業、非営利的団体などを含むサービス業他の1万3698件(構成比29.3%)。次いで、建設業の9084件(同19.4%)、小売業の6508件(同13.9%)と続く。

 参入障壁が低い産業は新規参入が多いが、その分競合も激しく退出が進む新陳代謝が目立つ。

70代以上の経営トップが4割近く占める

 休廃業・解散した企業の代表者の年齢別(判明分)は、70代が最も多く37.5%だった。次いで、60代の29.0%、80代以上の17.1%と続き、60代以上が全体の83.7%を占めた。

 2016年まで60代の構成比が最高だったが、2017年から最多は70代にシフトし、事業承継の遅れが休廃業・解散につながりやすいことを示している。2018年は60代の構成比が前年より3.9ポイント低下する一方、70代以上は4.4ポイント増加した。また、80代は17.1%で50代を6.8ポイント上回り、経営者の高齢化が休廃業・解散に至る大きな要因であることを示している。

 政府は、2017年度で531兆円の名目GDP(国内総生産)を、2020年頃に600兆円まで引き上げる方針を打ち出している。急速に進む少子高齢化で、国内人口と生産年齢人口は減少をたどっており、生産性の低い企業の市場撤退と労働力の流動化はプラス材料にも映るが、実態は単純ではない。

優遇税制にも「死角」がある

 休廃業・解散した企業のすべてが生産性に課題を抱えているわけではない。休廃業・解散した企業の中には業績好調ながら後継者難で事業継続を断念するケースもある。また、地方ほど地域の雇用や経済に影響を及ぼすケースも少なくない。

 中小企業庁は、2017年度を初年度とする「事業承継5カ年計画」を策定。各都道府県に事業承継ネットワークを展開し、事業承継診断を含むプッシュ型の支援などに取り組んでいる。

 中小企業庁は同時に、事業承継税制を拡充し、2018年度より法人資産の承継では贈与税・相続税の猶予割合を80%から100%へ引き上げた。2019年度には個人企業にも拡充される見込みだ。

 こうした事業承継の優遇税制は、様々な分野で特色ある事業活動を行い多様な就業機会を提供している中小企業の事業継続を目指している。

 ただ、納税猶予の条件の一つである「特例承継計画」は、企業の特色や生産性向上の取り組みを必ずしもすべてチェックしているわけではない。

 経営者の高齢化や人手不足が深刻さを増すなか、「廃業」を負の側面と強調するだけでは前に進まない。円滑な事業承継や事業譲渡に向け、多面的で具体的な成長支援策が求められる。

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