【近ごろ都に流行るもの】「高卒で働く」(下)学歴の壁低く「自由な就活」で広がる可能性

 
高校生就活イベントで、思いや不安を書き出す生徒を見守る永田謙介さん(中央)=東京都千代田区

 人手不足を背景にした高卒求人の急増と就職者の活躍を伝えた「高卒で働く(上)」、先月産経新聞の紙面に掲載された後、多様な意見が寄せられました。「教育費から解放されて少子化対策にもなりそう」といった声の一方、「高校生は就活情報や企業の分析力に乏しく、雇用のミスマッチにつながっている」との指摘も。厚生労働省によると、平成27年の高卒就職者の4割が3年以内に辞めているという。そんななか、「高校生にも自由な就活を」と、元高校教諭が立ち上がった。(重松明子)

 「IT時代になっても、戦後一貫して変わらない就活制度に縛られている。生徒の選択肢が少ないことが問題で、自分で選んだ就職先という実感が持てなければ、少々のことで簡単に辞めてしまうでしょう」

 就活支援事業「ニューゲート」を展開する「スパーク」(東京都渋谷区)の永田謙介社長(36)は昨年末、都内で開かれたイベントで、高校生らにこう呼びかけた。

 高校生の就活には規制が多い。活動期間は実質数カ月間。学校を通じて受験できるのは、1人1社だけだ。永田さんは「『こんな人になりたい』という職業のロールモデルをたくさん見て、自分の興味と適正を早く知ることが大切です」と強調した。

 ニューゲートでは今月末から、ウエブサイトで高校生向けの就活情報の提供を開始する。企業情報を見た生徒が「気になる」ボタンを押すと、同社が高校と企業の間に入り、マッチングを支援する仕組みだ。

 インターンなど職業経験の場も設け、興味の「一歩先」に踏み出す手助けをする。掲載が決まった中にはプロジェクションマッピングを駆使した空間演出で注目される「ネイキッド」(東京都渋谷区)などの先端企業も。求人の質にこだわり、大手やメガベンチャーを中心に、1、2年でまずは500社の掲載を目指すという。

 「プロ野球では高卒入団がすごいといわれるように、職人やベンチャーなど、若いうちに戦い(働き)出すほうが有利な仕事はたくさんある。空前の売り手市場の今、高卒の選択肢は広がっています」

 こう語る永田さんは、元都立高教諭だ。大学卒業後にサントリーホールディングスに入社し、30歳目前で念願の教師に転身した。高校生に就活指導をするなかで立ちはだかった壁が、旧態依然とした就活制度だった。

 「バイタリティーがあって頭の回転も速い子が経済的事情で就職を選んだとき、『どうせ高卒では良い仕事に就けない』と無気力になり、自分の可能性を閉ざしてしまう姿を見てきた」。高校生の就活を変えたいという思いから教職を辞し、人材・IT系のベンチャー企業で専門知識を磨いて昨年、会社を立ち上げた。

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 永田さんは高校を回り、生徒や学校のニーズを吸い上げている。1月下旬、埼玉県立川越工業高の訪問に同行した。

 さまざまな事情を持った生徒が通う定時制電気類型は、大半が就職希望だ。2年生の男子生徒(17)は、「安定してお金を稼げて、休みがきちんと取れる会社に入りたい。ブラック企業は絶対にいや」と話す一方、「ベースが趣味で音楽関係に興味があるし、高校で取った資格が生かせる仕事もいいかなと思うけど、世の中にどんな職業があるか、全然イメージできていない」と率直に明かした。

 第1志望の高校を落ちて2次募集で入学したという2年の女子生徒(17)も、「高校受験で親に迷惑をかけて自分も苦労したので、進学は考えていない。建築関係の父の仕事を手伝っており『継げ』と言われるけど、もっと自分に合った違う職業があるんじゃないかと漠然と考えています」と語った。

 「就活以前に、働く大人との接点をつくり、大変なことも含めた仕事の実態を見せて、体感させることが大切」。こう話す同校の新井晋太郎教諭(37)も、かつての永田さんと同じサラリーマンからの転身組だ。

 これまでにも中卒社長や定時制高卒で管理職になった人を講師に招いたキャリアデザイン授業を実施。今後は「ニューゲート」とタッグを組んで、職業教育や就活指導を行っていく予定という。

 中・高卒で活躍する経営者は少なくない。高卒就職支援サイトの草分け「JOBドラフト」を運営する「ジンジブ」(東京都港区)を傘下に持つ「人と未来グループ」創業者、佐々木満秀社長(50)も、自身が高卒で働き出した経験から「生徒の未来を広げたい」と、同事業を立ち上げた。契約する企業は前年度からほぼ倍増し、今年度は667社にのぼっている。

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 学歴に加えて、地域による格差解消を目指す取り組みもある。

 その名も「ヤンキーインターンシップ」。中・高卒の若者が東京で就職するのを支援する「ハッシャダイ」(東京都渋谷区)が、田舎でエネルギーを持てあましている18~24歳の“ヤンキー”を対象に、マナーや営業、プログラミングのノウハウを教え込む無償の研修制度(1カ月~6カ月)だ。

 平成27年9月の開始から300人以上が卒業、就職を果たしている。現在は25人が研修中だ。参加するには地方からの上京が条件になるが、インターン中の家賃光熱費や食費はかからず、お金がなくても「やる気」さえあれば飛び込める。運営費は、卒業生が入社した企業からハッシャダイが受け取る「人材紹介料」が資本となっている。

 100社近い入社先には、超有名企業の名前も。担当者は「もともと大卒限定というわけではなく、中・高卒者へのアプローチ方法がわからなかっただけという話も聞いており、学歴の壁は低くなりつつある」と手応えを語った。

 大学を増やしすぎたツケで定員割れが深刻な「大学全入」時代。それに付随するかのように、奨学金の返済に追われて貧困の連鎖に陥る若者も増えている。外国からの“移民”に頼ろうという改正出入国管理法が成立する未曾有の労働力不足の中、「高卒で働く」を選んだ“金の卵”たち。その羽で、社会の諸問題を吹き飛ばす新しい風を巻き起こしてほしい。