【ビジネスパーソン大航海時代】現代ならではの「哲学起業」 元転職苦労人の熱い想い~航海(5)
【ビジネスパーソン大航海時代】今回は、30歳まで稼げなかったことの挽回をするためにサラリーマンとなり、時代の変化とともに現在ではITを活用して起業家になった高橋さんについてお話させてください。
高橋さんの仕事「業務効率コンサルティング」とは?
パソコンを使って仕事をする方であれば、マイクロソフトのエクセル、グーグルのスプレッドシートはよく目にするでしょう。
それどころかとくに使っているソフトという方も多いのではないでしょうか。
私もそのひとりです。
「シートをコピーして、別のシートにして、グラフ化して、パワーポイントに貼り付ける」なんてことは日常茶飯事でやりますよね。
これが複雑になると「シートを横断してセルをコピーして、アレ?、ココはどのシートのセルを参照しているんだっけ? なんか数字がおかしいぞ。決算資料なのにまずい…」なんていうことは日本でたくさん起こっているのかもしれません。
高橋さんは、そのようなエクセルやスプレッドシートで複雑な業務をしている会社を対象に、『マクロ』と言われる自動化プログラムを開発・提供されています。
「私の仕事はITを通じて人の働く価値を上げていくことなんですよ」
笑顔でインタビューにご対応いただきました。
30歳まで売れないミュージシャン、会社員で事業部長の大逆転も再度転落
今でこそIT“バリバリ”な高橋さんですが、実は30歳までミュージシャンを志していたそうです。
「大学院まで行きました。そこは就職に強い学校で、教授が企業の推薦を取り付けてくれるんです。でも自分の中では企業に入って仕事をすることに魅力を感じていなかったので周囲の反対を押し切ってサックス奏者を目指したのです」
突っ張って活動をするものの、ついに30歳まで稼ぐことができなかったそうです。
「30歳までに稼げなければこの道は諦めると決めていました。好きなサックスを吹くことを辞め、サラリーマンになりました。次はきちんと稼ぐ仕事をやろうと。運良く成長企業に入ることが出来ました」
ここで獅子奮迅の活躍をします。
「拡大するモバイルコンテンツ業界に属していた我々の会社はどんどん成長し、テレビCMまで実施するようになります。社員も爆発的に増えました。過去の失敗もあって私は仕事に熱心に取り組んでいましたので、あれよあれよといううちに事業部長を任せていただけるようになりました」
売れなかったミュージシャン時代からは想像がつかない見事な復活劇を果たしたのです。しかし、残念ながら良い時は長くは続かなかったそうです。
「その会社はモバイル市場の変化についていくことが出来ず、自分は退職することを決意します。そこからが地獄の始まりでした」
“事業成長を実現させた事業部長”と聞くと就職先に困らないのかな?と思うのですが…。
「その時年齢は30代後半にさしかかっており、もう若くはありません。それに加えて年収も良かったので転職先のポストがずっと見つからなかったのです。そこで条件をかなり落とした転職を余儀なくされました」
転職先は大変でした。いわゆるブラック企業だったのです。
「今はもうないと思いますから言えますが、新卒は家に帰れないほどの会社でした。社内の雰囲気も良いわけがありません。すぐに転職をしました」
転職につぐ転職。
「次の会社は悪くはなかったですが長時間労働が常態化していました。この時、“転職は運”だと思いました。入ってみないとその会社の実態はわかりません。たまたま自分に合っていない会社に入ってしまうこともある。いや、合う会社に入れる方が少ないのではないでしょうか。この時に、『転職して宝くじを見つけるよりも、確率的には自分で会社経営をした方がよっぽど正しいな』と腹に落ちたのです」
起業家として花がひらいた! それも狙い通りに
思い立ったら急に起業したのでしょうか?
「いえ、私には家族がいますし、無計画な行動はできませんでした。起業するテーマを見つけてから起業したのです。長時間労働が常態化していた会社で、経営者・働く仲間が喜ぶ価値を提供できたのです。それを起業テーマにしました」
もしかしてそれって…!
「はい。マクロを活用した業務改善だったのです。エクセルで、複雑だけれど単純な作業を繰り返しやっていたことも長時間労働になっていた要因だったのです。ミスも出ます。私はマクロを使ってフォーマット化し、誰でも簡単にミスなくすぐに作業が出来るように一つひとつのエクセルを改善していきました。『人間が人間らしい仕事をするべき』って言いますよね。まさにそれを現場で支援していきました」
とても合点がいきました。思わず心が熱くなります。
「日本の多くの会社に非効率はあるでしょう。私はそれを改善する会社を立ち上げることにしました。しかし、私はそれまで一般的な法人営業をしたことはありませんでした」
ではどのように立ち上げていったのでしょうか?
「ITで業務効率を上げることをテーマにしたブログ『いつも隣にITのお仕事』を開設したのです。起業した時からほぼ毎日欠かさず更新しており記事本数は1200本を超えています。テーマ設定もはまったのか、おかげさまでPV数は右肩上がりで増え、月間で100万PV近くいく月も出てきました」
ブログを熱心に更新される苦労が報われたのですね。ところで当初目的にしていた法人からの問い合わせは実際に来たのでしょうか?
「業務効率にテーマを絞っているので、企業からのマクロ開発のお問い合わせも右肩上がりで増えています。サプライズもありました。なんとブログを見た出版社の方から書籍化しませんか?というお話もいただいたのです。今まで2冊上梓しています」
思わずうなりました。サラリーマン時代の成功体験を元にテーマを絞り込んでしっかりとその道の第一人者というポジションを獲得されたのです。
正しい努力をする人が認められる世に貢献したい
私は高橋さんに聞きました。もう売上には困ってないでしょう。ブログと比例して伸びているはずです。そしてブログがある限りおそらく当面売上は無くなりません。ここから先はどうされるのでしょう?
「実は今期、売上は前期と横ばいの見込みです。理由は簡単です。マクロ開発を請け負った案件はプログラムの更新があるたびに追加収益が生まれる、いわば “自動販売機”のビジネスモデルなのですが、私がプログラム更新はその会社の方ができるように研修もはじめたからなのです。すると私への更新依頼はなくなります(笑)」
私の頭のなかにクエスチョンマークが浮かびます。
「私は喜ばれることだけで売上を上げたいのです。先方の企業がプログラム更新できないように情報を隠すことで売上を上げる仕事はしたくありません」
理想郷のような話です。しかし…これからどのように拡大させていくのでしょうか?
「会社ではなく、個人のキャリア支援をしたいと思っています。非効率な業務は日本中どこにでもあるでしょう。RPA(ロボットによる業務効率化の仕組み)が導入されはじめていますがこれは大企業に限定されます。日本のほとんどは中小企業ではありませんか?エクセルのムダはたくさん散らばっているのです。私は、私のように解決できる人材を育成しています。今の時代誰でもコミュニティーサービスの提供が可能です。そのコミュニティーメンバーになってもらえれば実践的な解決方法をシェアします。このような人材は社会から求められ食いっぱぐれません。昔の私はこのコミュニティーがあったら入っていたでしょう」
「あなたならではの領域は必ず見つかる」
資金調達をして一気に数字の拡大を目指す派手なスタートアップがある一方で、高橋さんのように自分自身の痛みを多面的に解釈し、まず『ムダな長時間労働をせずにITを使って業務効率を支援する事業』を手がけ、次に『自分自身がロールモデルになって、業務効率向上に貢献する人材教育を行う』という、情緒的に美しいビジネスラインを描いていく起業モデルもあるのだと理解しました。
これは現代だからこそ実現できる“哲学型起業”ではないでしょうか。ブログ・SNSなどでの情報発信がしやすくなり、閲覧者も増えているからこそ、特定の領域でも課題を持つ法人や取り組みに共感を持つ個人を集めやすいのです。
大学院時代、同級生の皆がなんとなく就活に流された時に、自らの意思でミュージシャンを目指し努力するも、残念ながらサックス演奏市場は小さいため稼ぐことができなかった高橋さん。その“出る杭になる熱い魂”はずっと消えることはなかったのです。時代の変化を捉え、40歳を超えた後にビジネス大航海を行い、名実ともに社会から認められました。
高橋さんからのメッセージです。
「私に領域が見つかったように、あなたならではの領域は必ず見つけられる。その領域でコツコツ行動しつづけると認められる。市場から求められる領域で正しい努力をすれば報われる」
高橋さん、ありがとうございました。
【プロフィール】小原聖誉(おばら・まさしげ)
1977年生まれ。1999年より、スタートアップのキャリアをスタート。その後モバイルコンテンツコンサル会社を経て2013年35歳で起業。のべ400万人以上に利用されるアプリメディアを提供し、16年4月にKDDIグループmedibaにバイアウト。現在はエンジェル投資家として15社に出資し1社上場。
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【ビジネスパーソン大航海時代】は小原聖誉さんが多様な働き方が選択できる「大航海時代」に生きるビジネスパーソンを応援する連載コラムです。次回更新は3月20日の予定。
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