【働き方ラボ】社会人がOB訪問に協力すべき理由 就活生と触れ、己のキャリアを考える
最悪だ。大手ゼネコン大林組の社員がOB・OG訪問アプリでマッチングした女子大生にわいせつ行為をし、逮捕された事件である。長年、就活に関して論じてきた者として悲しい。(常見陽平)
就活ハラスメント問題
事件発覚後もウェブメディアで「就活セクハラ」に関する特集が組まれ、その実態が明らかとなった。就活とハラスメントの問題は、新しいようで、古くからある問題だ。これまでも、大手企業でのOB・OG訪問や、面接でのハラスメントは問題となり、いくつかの事件に関しては、メディアで報じられてきた。
ここ数年の売り手市場の中で話題となったのは「オワハラ(就活終われ・終わらせろハラスメント)」だ。全国紙の社説でも取り上げられたし、「ユーキャン新語・流行語大賞」にもノミネートされた。「ウチに決めろ」「他は内定を辞退しろ」と人事が就活生に迫るものである。毎日のように選考と称して接点をつくり、他社を受けさせないようにしたり、その場で各社に辞退の電話を入れさせるなどの取り組みが問題視された。
なお、「就活ハラスメント」では社員から学生に対してのセクハラ・パワハラが問題視されるが、それだけではないことを確認しておきたい。学生同士のトラブルも起こる。
就活では男女の出会いも多い。互いに将来のことを考えつつ、不安を抱えて就活をしている中なので仲良くなることもある。ただ、中には就活をナンパの機会と捉えていたり、相手に対して過剰にしつこくする輩がいる。当初は就活相談をしていたはずが、途中から異性への執拗な電話やLINEが飛ぶなど、ストーキングのような行為が展開されることもある。就活生同士の恋愛「リクラブ」をこじらせたものとも言える。
学生同士のハラスメントは別にセクハラだけではない。グループディスカッションなどでの、学歴ハラスメントというものもある。大学名を聞いた段階で、偏差値や知名度の低い大学の学生を見下したり、無視したりする者がいる。よく学歴フィルターと呼ばれる、学校名などで説明会への参加やエントリーシートの通過などにおいて差別する企業があるが、学歴差別を行うのは別に企業側だけではなく、学生が行うこともあるということを認識しておきたい。その方がより残酷だとは言えないか。
学生から社会人へのハラスメントも
さらには、学生から社会人へのハラスメントというものもある。業界・企業・職種を見下した発言をする、人事担当者への過度なアプローチなどである。他ならぬ、私が被害者である。大手玩具メーカーで人事をしていた頃は「玩具を仕事にするのは社会人としてどうなのか」「せっかく玩具メーカーに入ったのに、人事なんてやっていて楽しいのですか?」などの暴言をよく受けたものだった。
話がやや拡散したが、売り手市場と言われているとはいえ、学生は将来に不安を抱えた存在である。求職者と企業の関係は対等であるべきだ。とはいえ企業は雇用する側である。そうであるがゆえに、学生は自分のことを弱い立場だと捉えがちである。大林組社員の被害にあった女子学生は本当に気の毒だった。就活で学生が傷つくような悲劇をこれ以上、繰り返してはならない。
とはいえ、OB・OG訪問は有益なのだ
ただ、この問題をめぐる報道や意見については、やや首を傾げる部分もある。論理が激しく飛躍し、就活やOB・OG訪問、マッチングアプリの「全否定」とも捉えられるような意見が散見される。これもまた乱暴な意見ではないか。くれぐれも言うが、大林組事件のような悲劇は二度と起こってはならない。ただ、だからと言ってこれらのものを否定するのもまた暴論だ。
現状の日本の就活には、問題が多々あるが、未経験で必ずしも専門性が高くない若者の可能性にかけて採用する点には評価するべきポイントがある。企業も採用時期がある程度決まっているがゆえに、取り組みやすい。
OB・OG訪問は、ここだけの話を聞くことができるし、先輩を通じて企業の組織風土を体感することもできる。自身の就活からまだ時間が経っていない若いOB・OGに会えば、内定獲得のコツを聞くことも可能だ。エントリーシートの添削だってお願いできるかもしれない。社会人とのコミュニケーションにも慣れることができる。マナーだって学ぶことができる。
企業にとっても、様々な魅力を伝える場にもなる。ミスマッチ解消にもつなげることができる。
OB・OG訪問マッチングアプリの運営企業には、学生を守るための規約づくりや会員管理などに力を入れてもらいたい。ただ、このアプリを学生の側が利用するのは、使う価値を感じているからに他ならない。行きたい企業について、自分の大学のOB・OGがいないこともある。その点、このアプリは便利だ。
逆鱗に触れる“失言”もあったが…
自分語りになるが、私は就活が嫌いだった。物書きになってから、就活・採用活動をテーマにしているのも、就職氷河期時代の就活の苦労、そこでの理不尽な体験がきっかけである。ただ、就活で数少ない良かったことと言えば、OB・OG訪問である。「御社とは合わないということを確認するためにOB訪問しました」「やっぱり電通って、博報堂より体育会系なんですね」など、ときに失礼な言動(正直すぎる言動だとも言える)で逆鱗に触れてしまったことがあったが、それも含めて良い社会勉強だった。良い話もひどい話も含めて、メディアには載らない仕事のリアルがそこにはあった。OB・OG訪問でお会いした方とは今も交流がある。
このように、今回の事件は残念だったが、OB・OG訪問の意義は否定してはいけないのだ。学生も企業もメリットを感じるものなのだ。
OB・OG訪問を自分の仕事を見直すキッカケに
このコラムを読んでいるビジネスパーソンに呼びかけたい。ぜひ、依頼があったらOB・OG訪問に協力してほしい。忙しい中、時間をつくるのは大変だろう。やってきた学生の失礼な質問にがっかりするかもしれない。それでも、OB・OG訪問には協力してほしい。それは、個人にとってもメリットがあるからだ。
人事部時代、社員にOB・OG訪問の対応を依頼したこともある。忙しい社員に依頼するのは、申し訳ない気持ちもあった。実際、嫌な顔をされたこともある。ただ、終了後に多くの社員から感謝されたことを覚えている。「自分のこれまでの歩みを振り返るキッカケになった」「自社や、担当商品がどう見られているかがよくわかった」「自分の経歴を棚卸しするキッカケになった」「今どきの若者の気持ちがわかった」「母校の今がわかって、嬉しかった」など感謝の声が多数だった。
OB・OG訪問の対応は、真剣勝負だとも言える。いつの間にか、他社の社員と比較されているからだ。尊敬される社会人になれているかどうかを見直す機会だとも言えるだろう。自分もまた面接されているのだ。
若者の声から自分や自社を振り返ってほしい。学生の相談にのる場でありつつ、自分のキャリアを考える場にもなり得るのだ。
前田敦子風に言うと「大林組社員を嫌いになっても、OB・OG訪問を嫌いにならないでください」と言いたい。これはこれで有意義なのだ。そうであるがゆえに、今回の事件はOB・OG訪問の停滞につながりそうで残念なのだ。
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【働き方ラボ】は働き方評論家の常見陽平さんが「仕事・キャリア」をテーマに、上昇志向のビジネスパーソンが今の時代を生き抜くために必要な知識やテクニックを紹介する連載コラムです。更新は原則隔週木曜日。アーカイブはこちらから
【プロフィール】常見陽平(つねみ・ようへい)
働き方評論家 いしかわUIターン応援団長
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。主な著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。
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