【ビジネスパーソン大航海時代】日本女性のキャリアリセットと向き合う 女性起業家の志~航海(6)

 
大東めぐみさん

 【ビジネスパーソン大航海時代】 今回は、だんな様の香港転勤と出産に伴い、大手企業でのキャリアをリセットせざるを得なくなり、ネットで稼ぐ選択をした後に現在では女性を対象にした起業支援スクールを手掛ける大東めぐみさん(ProjectF代表取締役)についてお話させてください。

 直面した人生の岐路、キャリアリセットされた香港時代

 大阪大学出身、しかも大学院で博士号取得。オランダへ国費留学経験アリ。そののち世界最大の消費財メーカー、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)で重ねたキャリア。

 こんなにピカピカな経歴があるにも関わらず自身のキャリアに断絶を生んでしまう人生があるのはご存知でしょうか。

 ご本人である大東さんにお話を伺いました。

 「仕事は順風満帆でした。『パンテーン』というグローバルトップシェアのシャンプーの市場調査やマーケティングはやりがいもありました。しかし、0歳の子供を産んだばかりで夫の香港転勤が決まったのです。私は家族のことを考えると退職せざるを得ませんでした」

 これは多くのキャリアウーマンの現実ではないでしょうか。家族と仕事、どちらを優先するのかを男性以上に突きつけられます。実際は男性も同じく突きつけられますが仕事を辞めて専業主夫になる方はまだ一般的ではありません。

 「もちろん、香港で仕事は探しました。しかし、自分の会社員キャリアが活かせる仕事がないのです。びっくりするほどに。この時に自分はグローバルトップの会社という枠組みの中で最適化したスキルや経験しか持っていないということが理解できました」

 「そんな気持ちで香港の駅を歩いていると、スマホケースを売っている女性がいました。それを見て思ったのは、彼女は商売するスキルを持っているが、自分にはそのスキルがないのだと認識したのです。悔しくて涙が出てきました」

 そこで専業主婦の道を選ぶかと思いきや、あるイベントが大東さんを奮起させます。

 「0歳の子供を連れて買い物をしていました。疲れてカフェに入ったのです。となりに座っていた香港の方が声をかけてきました。『あら、かわいい赤ちゃん! 私の赤ちゃんと同じくらいね』と。それを聞いてハッとしたのです。香港はヘルパーを雇うのが普通なのです。だから彼女たちは外を出歩くことができます。子供を産んだとしても家に閉じこもる必要はないのです」

 確かに日本では子供の面倒は他人に任せるのではなく、お母さん自身がみるのが当たり前、そうでないと恥ずかしいという文化が前提になっている気がします。誰も強要はしていませんが重い空気があります。

 「その時私は決めました。日本の女性がもっと自由に生きることができる世の中にしなきゃと。香港のように。私自身が経験者なのです。体を張っていこうと決めました」

 香港からネットで稼ぐ挑戦

 大東さんはその決断をすると、持ち前の根性ですぐに実行に移します。

 「もう会社員になる気はありません。女性がいつでもどこでも稼げることをやらなければならないのです。おのずとネットビジネスをやることにしました。ネットで “副業”“起業”というワード検索を行って情報を探します」

 しかし当然、簡単にはいきません。

 「『3万円を払うとネットで稼ぎ方を教えます』という情報商材を買ってみました。そこには、異なるテーマのブログを300個作って一番アクセスがあるブログを伸ばせば良いと書いてありました。ちゃんとそれをやったのです。利益は7000円しかありませんでした。労力は大変かかったのに…」

 しかし大東さんは根性があるので諦めません。

 「成果報酬型の広告(アフィリエイト)で毎月100万円近く成果を出している人とご縁がありお話を伺いました。アフィリエイトというと怪しいイメージがあったのですが、その方が取り組んでいた内容はロジカルであり、なにより自分のサイトを使っている人たちに喜ばれているサービスでした。その方にコンサルをお願いしたのです。」

 「私はP&Gでマーケティングをしていました。つまりシャンプーや美容については詳しい。その情報はユーザーに喜んでもらえます。それを軸にサイトを開設しました。そうすると毎月80万円前後の収益が生めるようになりました。そして香港から日本に戻ってきたのです」

 香港の駅でスマホを売っていた方を見かけてビジネス力がなく泣いた大東さんはもういませんでした。見事に会社員時代を超える収益を出し、しかも“いつでもどこでも”というネットビジネスで実現させたのです。

 女性が活躍する社会を目指すために上場企業を目指す

 日本に戻った大東さんはさらなる挑戦に打って出ます。

 「私は自分と同じ境遇の人を救いたい。80万円稼げるノウハウが身についた私はそのノウハウを積極的に開示することにしたのです。アフィリエイトビジネスは怪しいと思われることがありますが売っている商材が怪しい人が一部いるだけであって、理屈としてはサイトへの集客とサイトのポジショニングやユーザー満足度を高めていくということでした。これはP&Gでのマーケティングと本質的になんら変わりはないのです。」

 3年で300人の女性にそのビジネス手法を教え、いまや60人の方が起業や自ら稼ぐビジネスをしているそうです。

 「一番嬉しかったのは『人生が変わった』と言われることです。『自分で人生を決めることができるようなった』と言われ、涙が出ました。そこに昔の自分を見るのです」

 今では本も2冊出版されるに至っており、著作の1作目「好きな場所で、好きな時間に、愛される仕事を手に入れる本」も好評だそうです。

 これから大東さんはどこを目指すのでしょうか。

 「日本では重要な意思決定の場には女性がいません。経営者に女性はどれほどいるでしょうか。私は活躍する女性を増やすために、まず自分自身が上場していきたいと考えています。」

 男性が悪いかもしれませんね、すみません…。

 「いえ、実はそうでもないのです。女性の自助努力がカギなんです。日本の空気にながされて、助けてくれるのを待つ女性はいますね。こういうと『めぐみさんほどはできない』と言われます。でも待ってください。私は自分の経験した分野でネットビジネスをしただけなのです。能力やポテンシャルがあったわけではありません。自ら経験していることを軸にすれば良いのです」

 最後に我々男性に対してメッセージをいただきました。

 「私の香港の経験から、日本の女性は自己犠牲を強いられています。でも、妻がもっとハッピーになると、あなたがハッピーになる。妻がビジネスできるようになると会話の幅も広がりますよ」

 大東さん、ありがとうございました。

【プロフィール】小原聖誉(おばら・まさしげ)

株式会社StartPoint代表取締役CEO

1977年生まれ。1999年より、スタートアップのキャリアをスタート。その後モバイルコンテンツコンサル会社を経て2013年35歳で起業。のべ400万人以上に利用されるアプリメディアを提供し、16年4月にKDDIグループmedibaにバイアウト。現在はエンジェル投資家として15社に出資し1社上場。
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【ビジネスパーソン大航海時代】は小原聖誉さんが多様な働き方が選択できる「大航海時代」に生きるビジネスパーソンを応援する連載コラムです。次回更新は4月10日の予定。

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