SankeiBizの読者のみなさんだけに客室乗務員(CA)がこっそり教える「ここだけ」の話。第50回は中東系航空会社で日本人CAとして乗務2年目の辰巳彩菜がお送りいたします。
CAとして採用された! …と言っても、すぐに乗務することはできません。入社したてはまだ何の知識もありません。まだまだ「卵」の状態ですね。この状態からCAとして空に羽ばたくためには、トレーニングが必要不可欠です。
みっちり週6日間 ハードな訓練スケジュール
私が勤める会社では約2カ月の訓練期間がありますが、一日約8時間、週に6日間ぶっ通しで行われます。この2カ月間は、大きく分けて3項目を学びます。
〈1〉安全(Safety)〈2〉応急処置(First Aid)〈3〉サービス(Service)
訓練は〈1〉→〈2〉→〈3〉の順番で行われますが、この順番が私たちCAにとって優先すべき順位になのです。「何よりも安全を優先しなさい」と教わるわけです。
それでは具体的に何を学ぶのか紹介していきます。
期間の半分を費やす「安全」訓練 予測できない炎にドキドキ
どれだけサービスが良くて、食事がおいしいと評判の航空会社であっても、安全面に不安があったら当然、使う気になりませんよね。私たち航空会社の根本的なゴールはお客様を目的地まで無事に送り届けることです。そのため、この項目はCAにとって最も必要であり重視するべきもので、訓練期間の約半分である4週間もの時間を割きます。
「安全」は本当にカバーする内容が多く、ここで全てを説明すると何百ページにも及んでしまいます。そこで、簡単に挙げてみますと、非常事態への対処、機材の基本的な知識、航空法について、機器の取り扱い方などが主な項目です。
いろいろある中で、最も重きを置くのがやはり非常事態への対処です。昨今、飛行機はとても安全な乗り物と言われますが、万が一の際私たちCAが常に保安要員として迅速に動くことができるように備えておく必要があります。
「非常事態」と一口に言っても内容は様々で、例えば、▼機内での火災▼ディコンプレッション(機内の減圧)▼ディッチング(不時着水)▼陸上での乗客の避難▼ハイジャック▼暴れる乗客…などがあります。こういった事態への対処法は航空会社によって定められた規範があり、それを全て暗記しすぐに行動できるようにしなければなりません。もしもの時に迷えば、命取りになるかもしれないからです。
脱出の訓練では、モックアップという機体を再現した教室で実際に避難指示を叫ぶ練習があり、本気で叫びます。少しでも文言を間違えたり、声が出ていなかったり、恥ずかしがって笑顔を見せたりすると、教官から厳しい喝が飛んできます。
スライドでの脱出や不時着水は実物のスライドを使って滑り降りたり、プールを使って脱出ラフトの訓練を行ったりします。また、消火訓練も、実際に炎が出るモックアップ(実物大の模型)で、防火マスクを被り消火器を使って行います。このとき、どこから火が出るか分からないのでかなり緊張します。また、暴れる乗客への拘束の仕方も、実際にクラスメイトと練習し実際に拘束します。
これら全て、1つの項目が終わる度に実技テストがあり、それに合格しないと次のステップに進むことができません。とても厳しいですが、安全は客室乗務員が第1事項ですので、みな必死で勉強します。
フライトに体調不良はつきもの 「応急処置」訓練は英語で苦戦
飛行機にはお子様からご年配の方まで様々なお客様が搭乗されます。何十人単位、あるいは、大きな機材であれば何百人単位のお客様が機内にはいらっしゃいます。当然、体調が万全で元気なお客様だけとは限りません。狭い機内、気圧の変化、疲れや乱気流による揺れ、または持病など、お客様が体調不良になる原因は数え切れません。
私の経験上、フライト毎に少なくとも1人は体調不良を訴えられるお客様がいらっしゃいます。そんな時、機内というのは限られた空間・設備しかありませんし、体調不良のお客様が出る度ダイバート(当初の目的地以外の空港などへの着陸)するわけにもいきません。そこで私たち客室乗務員は、機内で起こりうる様々なメディカルケースに備え応急処置の訓練を受けるわけです。
訓練では、機内で起こりうる様々な症状への処置を、軽いものだと傷の手当から、人工呼吸や心臓マッサージ、分娩補助など緊急度が高いものまで幅広く学びます。それらひとつひとつに処置規範があり、人形を使い実際に行い練習します。この分野は、処置を間違えると大変なことになりますので、間違えることは許されません。
英語での専門用語もかなり難しく、全て暗記するのには苦労しました。また、機内に搭載されている薬の種類や処方規約も一通り暗記します。そして約1週間の訓練の後に、筆記試験と実技(心臓マッサージ・AED)試験がありこれを合格しないと次に進めないのです。
最も難儀した「サービス」訓練 泣いてしまうクラスメイトも
さて、安全と応急処置の訓練を終えた後は、いよいよ「サービス」の訓練です。お客様にまた選んでいただける航空会社になるには、この分野で、競合他社との差別化を図りたいところです。
サービスの訓練では、基本のお食事の出し方や、商品知識を学び、様々な状況を仮定したシミュレーションロールプレイングを行います。お客様のニーズは十人十色ですから、臨機応変な対応能力を培わなくてはいけません。教官やクラスメイトがお客様役になり、様々な台本で練習します。
例えば、私の会社は中東の航空会社ということで、「ムスリムの女性のお客様が男性の隣に座れず、しかも機内は満席」、「食べたかったメニューがなくなってしまい、お客様が機嫌を損ねる。そのお客様にどう対応し、また快適にお過ごしいただけるようにするか」といったシチュエーションと課題を想定し、マニュアル通りではなく自分で考えて工夫し解決する練習をします。
対応能力も必要ですが、同じくらい気を遣わなければならないのが立ち居振る舞いです。表情、仕草、言葉遣いを状況に合わせ使い分けなければなりません。サービスは会社のブランド力に大きく影響するため、かなり厳しく審査され、少しでも言葉遣いを間違えたり、ずれた提案をしたりすると、細かくチェックを入れられます。サービスの訓練中泣いてしまうクラスメイトもいるほど厳しく、正解を自分で導き出さなければならない、私にとってはある意味一番難しい訓練でした。
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いかがでしたか?
これらの3項目に加え、身だしなみやコミュニケーションの授業など、細かく訓練を受けながら、毎日勉強を繰り返し、ひたすら避難指示を暗唱したり、救命措置の練習をしたり、言葉遣いや笑顔を模索したりと日々努力を重ね、ようやく「ひな鳥」として翼がもらえるのです。ここから一人前の客室乗務員になるため、実際に乗務し様々な経験を重ねていくことが必要になるのですが、それはまた別の話…。
すべての客室乗務員は訓練を乗り越え、みなさまの安全・快適なご旅行のため責任を持って働いていますので、安心して空の旅をお楽しみください。
【CAのここだけの話♪】はエアソルに登録している外資系客室乗務員(CA)が持ち回りで担当します。現役CAだからこそ知る、本当は教えたくない「ここだけ」の話を毎回お届けしますので、お楽しみに。隔週月曜日掲載。【CAのここだけの話♪】アーカイブへ