【元受付嬢CEOの視線】経営者は現場に耳を傾けよ 私が実践する働き方改革は「リセット」と「投資」

 
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 昭和から平成、そして令和へ。時代は移り変わります。私は今、アプリ開発の会社を起こして、サービスを展開しています。小学生の頃の私が今の私を想像できていたかというと、全くできていませんでした。それはそうでしょう。その時にはそもそも「インターネット」は今ほど身近ではありませんでしたし、「アプリ」も日常的に耳にするものはありませんでしたから。

 私が最初に出会ったビジネスマンは父です。私の父が仕事をしていた昭和の時代は個人向けPCすらもなかったと思います。ビジネスは当時、基本的に「電話」「紙」「電卓」「対面」がメインといった、“THEアナログ”時代でした。日本の人口はどんどん増え、働き手も増える一方だったと思います。当時の日本は人手に頼りながら経済成長を続けてきました。

 当時と今を比べると、時代や私たちを取り巻く環境は随分と変わり、ビジネスシーンも大きく様変わりしてきたと思います。今回はこうした時代の変化を踏まえつつ、今年4月に施行された「働き方改革関連法」にどう対応するのか、ビジネスパーソンとして、またスタートアップ企業の経営者として、弊社の事例を紹介しながら私なりに提案していきたいと思います。

時代は変わった! 「場所」と「時間」の概念をリセットする

 今やインターネットがない生活は考えられません。インターネットは様々な「モノ」同士を繋げてくれます。ビジネスにおいても、今までは海外の相手ともPCで顔を見ながら会話ができ、同時に資料もシェアできます。しかも安価な通信料で。インターネットは、物理的に移動せずとも、私たちをいろんなところに連れていってくれます。そして、会社に行かずして業務をこなすことも可能にしてくれます。

 弊社ディライテッドでは、こういったインターネットのメリットを生かし、開発系・クリエイティブ系の業務を担う従業員にリモートワークを認めています。弊社のオフィスは東京・渋谷にありますが、神奈川、埼玉、茨城に住む従業員の中には、在宅で作業し、週1回の開発会議に参加するときだけ出社する人がいます。原則、出社義務のないフルリモートの山梨在住者もいます。

 リモートワークは、オフィス賃料などのコスト削減にも貢献しています。全員出社してくれば手狭になるオフィスが、リモートワークする従業員と出社ベースの従業員を分けることにより最低限のスペース確保で済むからです。

 リモートワークというと、時間管理の難しさを理由に、導入に難色を示す会社もあるでしょう。たしかに、自宅で8時間きちんと働いているか確認するのは困難です。しかし、出社して8時間勤務していても成果物を多く上げる人とそうでない人がいます。つまり、8時間きっちり作業してもらうことより、最低限のルールに則した上で、成果や勤務態度が会社やサービスに貢献していればそれで良いと思うのです。職務が異なれば成果を出しやすい環境も異なります。受付嬢だった私は当時「カウンターにいること」が職務のひとつでした。反対に、営業職の人なら社外にいることのほうが多いでしょう。場所を問わないシステム開発に従事するなら最も集中しやすい自宅での作業が効率的だと考える人も多いかもしれません。

弊社ではリモートワーカーの時間管理を3段階で行っています。(1)業務につく前にビジネスチャットアプリでその日の業務予定を報告してもらう(2)業務終了後に実際の成果を報告してもらう(3)各上長が成果を確認。これである程度のことは把握できます。タイムカードのように細かな時間管理は行いません。

 リモートワークはさらに、通勤時間や交通費の削減にもなります。子育て中の従業員は朝夕のストレスフルな通勤時間を子供の送り迎えに充て効率的に使うこともできます。私自身も、出社ベースの働き方をしてはいるものの、10年ほど前から通勤時間が無駄だと考え、会社の近くに住むようになりました。私にはぴったりだったようで、仕事の生産性や精神的にも肉体的にも健康的だと感じて続けています。

 このリモートワークのおかげで、地方で働く優秀なスタッフを採用することができ、彼らの生活環境を守ることもできていると思います。従業員自らが、コミットすべき業務に最適な場所・環境を選べる制度を会社としても提供し続けていけたらと思っています。

業務効率化ツールへの投資を惜しまない!

 人がやるべき業務とそうじゃない業務―。それらをすべて人力で行なっていたのが昭和・平成だと思います。私がやっていた受付の「取次」もそのひとつと言えます。しかし、人口が減ってきている中で一人一人の業務の効率化は避けて通れません。そのためには様々なツールの活用が欠かせないと思います。

 今、みなさんのPCにはたくさんのITツールが入っていると思います。「会社側が全社導入してくれないから、こっそり個人で使っている」なんていう話をよく耳にしませんか? それではせっかくの業務効率化ツールの持ち味が充分に発揮できません。

 弊社でリモートワークがうまく機能している背景に、タスク管理などを兼ね備えたビジネスチャットツールの導入があります。現在採用しているサービスは、他社のものに比べると高いのですが、特に開発系の業務を円滑に進めるためには最適でした。

 ツール導入は会社にとって単なるコストと考えがちですが、従業員のパフォーマンスを上げるための投資ともいえます。弊社では経営会議でツールの導入を積極的に検討するようにしています。現場から、導入したい理由などの具体的な声を拾い上げそれも考慮します。

働き方改革のカギは経営層 現場が発信しやすい環境づくりをする

 働き方改革の政策を作っているのは国です。しかし実践するのは働く現場の人々です。しかし、その国と現場の間に、自社でどういった施策を実践するのか意思決定をするのは経営層です。私はこの「意思決定者」が重要な役割を担うと考えています。

 国が推進する働き方改革には様々な方法で応えられると思います。ただ、経営者が自分の会社に合った方法を取り入れなければ、現場で働く従業員を逆に非効率な働き方をさせてしまい、仕事が逆に増えてしまった…なんていうことになりかねません。現場の声に耳を傾け、自社に合った方法を探す努力が必要だと思います。

現場も働き方改革を取り入れるマインドセットを持つ

 私の場合、スタートアップ企業の経営者なので「なんでも全部一人でやるんでしょ?」と思われがちです。しかし、そうではありません。最初はやっていました。やりたいと思っていましたし、やるべきだと思っていました。

 でもそうじゃないんですよね。私、つまり経営者の仕事は、それぞれの分野の得意な人を見つけてきて、その人たちにその特技を発揮してもらう環境を整えることであり、それも重要な仕事のひとつだと思います。

 いわゆる「属人的な組織」では企業は成長していけない。私は自分の仕事を振るだけでなく、それを担ってくれるみんなが働きやすい、そして彼らも他の人たちに仕事を分け渡していけるような環境を作りたいと思っています。それは私にしかできない仕事です。

 こう考えて「肩肘張らない経営」をすることでそれが従業員のみんなにも伝わり、自らが実践すべき「働き方改革」を従業員自身で考えられるようになると思います。働き方改革も、トップダウンで行うのではなく、現場からの提案・発信をベースに行うほうが無理なく円滑に進むのではないでしょうか。

「精神的な働き方改革」

 弊社はこれを実践しています。そして、私自身も経営者として、弊社ならではの働き方改革を模索し続けます!

【プロフィール】橋本真里子(はしもと・まりこ)

ディライテッド株式会社代表取締役CEO

1981年生まれ。三重県鈴鹿市出身。武蔵野女子大学(現・武蔵野大学)英語英米文学科卒業。2005年より、トランスコスモスにて受付のキャリアをスタート。その後USEN、ミクシィやGMOインターネットなど、上場企業5社の受付に従事。受付嬢として11年、のべ120万人以上の接客を担当。長年の受付業務経験を生かしながら、受付の効率化を目指し、16年にディライテッドを設立。17年に、クラウド型受付システム「RECEPTIONIST」をリリース。

【元受付嬢CEOの視線】は受付嬢から起業家に転身した橋本真里子さんが“受付と企業の裏側”を紹介する連載コラムです。更新は隔週木曜日。

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