【ローカリゼーションマップ】ブランドは変幻自在の存在 ミラノデザインウィークの肥大化

 

 昔、「国際理解とは誤解の集積である」という言葉を初めて聞いたとき、良く言ってくれた!と思ったものだが、最近「ブランドとは誤解の集積である」とも言えるなあと考えている。誤解によって「美しい国際交流」が生まれ、「ブランド認知の向上」が図られる。(安西洋之)

 4月9日から14日にかけミラノのデザインウィークが開催された。このデザインウィーク発祥のイベントであるミラノサローネ国際家具見本市は、およそ38万人の入場を記録した。

ミラノデザインウィーク開催中、こうした展示が市内500以上の場所でみられる

 この家具見本市の期間にあわせ、20数年前よりインテリアデザイン雑誌の出版社のオーガナイズにより、市内の各所でさまざまな企業や団体が新作発表を実施するようになったのが、現在「デザインウィーク」と称されるようになった動きの発端である。

 今年、市内でどれだけの数のイベントが開催されたかの正確な数字は不明だが、500は下らない。動員数は少なくても60~70万人はいくだろうと想像される。なにせ街を普通に歩いている人が、小さなイベントの場も含めて、合計何人が足を踏み込んだのかは誰もカウントしていないから、実数は想像するしかない。

 昨今、世界各地でデザインをテーマにしたイベントが多数あるが、規模と動員数からミラノのデザインウィークがトップレベルであることに異論を挟む人はいない。デザインイベントとしてのブランドは揺るぎがない。

 デザインの範囲も、インテリア家具や雑貨だけでなくテクノロジーやインタラクションあるいは地域づくりと広がってきている。そうすると、何が起こるか?

 「世界でトップをいくデザインの祭典だと聞いて楽しみにやってきたが、多くはインテリアデザインではないか!」と不満を言う人が増えてくる。

 デザインの祭典がインテリアデザインの文脈から離れて独り歩きしはじめたことで、デザインという言葉だけに惹かれてきた人が増加する。まさしく、この現象がミラノデザインウィークの注目度を後押しする。

 ここで大きくポイントは2つある。

 ソーシャルイノベーションにおけるデザインの活用やデザインシンキングの普及により、デザインのエキスパートではない人たちもデザインの世界にアプローチするようになってきた。こうした人たちが「デザインの祭典」に足を向けるわけだが、彼らはデザインの定義に含まれてきた審美性や美意識についてあまり意識してこなかった。

 したがって、インテリアデザインにおけるそれらの要素を読み解こうとしない。(「誤解」を恐れずに表現するなら)審美性や美意識とは関係なくデザインと付き合えると思ったら、ここには審美性や美意識の話題が溢れている。そこで大いに戸惑う。

ミラノデザインウィーク開催中、こうした展示が市内500以上の場所でみられる

 「美しい、美しくない」と感覚で掴むことが、何かを議論・判断する際の根底にないと自分の考えのオーナーシップがとりにくいはずだが、他人の声や定量的なデータを第一の信仰対象としていると、自分の足元の弱みに気づかない。または気づかないことにしてしまう、という不誠実な態度に走る。

 もう1つは、インテリアデザインがファションや食と並んで人の生活の中心にある意味を忘れている。自分のビジネス領域がクルマであろうが、インフラ関係であろうが、人々が日々の生活に何を求めているかを知らないですむわけがない。

 しかしながら、例えば電子部品を作っている人は、インテリアデザインは「関係ない」と言いがちだ。そこにあるリンクを見いだすことができなかったら、敗北感を抱くくらいに覚悟して良いはずなのに。

 いずれにせよ、それもこれも、「ミラノデザインウィーク」ブランドの肥大化による現象だ。

 こうやってうわばみのように誤解を飲み込みながら、ブランドは大きくなっていく。

 ただ、自浄作用のプロセスもある。「本ブランドにおいて、この要素は相応しくない。排除すべきだ」という議論は必ずおきてくる。そして、誤解の一つ一つが分別され正されていく。

 この議論の質が高いと、そのブランドもより質が高いものになってくる。その内容が、時にマニフェストとして表現されることもある。そして、このマニフェストの解釈と誤解の歴史が、またブランドを作っていくのだ。

 ブランドとは、思ったよりも変幻自在な存在なのである。

【ローカリゼーションマップ】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが提唱するローカリゼーションマップについて考察する連載コラムです。更新は原則金曜日(第2週は更新なし)。アーカイブはこちらから。

 安西さんがSankeiBizで連載している別のコラム【ミラノの創作系男子たち】はこちらから。

【プロフィール】安西洋之(あんざい・ひろゆき)

モバイルクルーズ株式会社代表取締役
De-Tales ltdデイレクター

ミラノと東京を拠点にビジネスプランナーとして活動。異文化理解とデザインを連携させたローカリゼーションマップ主宰。特に、2017年より「意味のイノベーション」のエヴァンゲリスト的活動を行い、ローカリゼーションと「意味のイノベーション」の結合を図っている。書籍に『イタリアで福島は』『世界の中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』。共著に『デザインの次に来るもの』『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか?世界で売れる商品の異文化対応力』。監修にロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』。
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ローカリゼーションマップとは?
異文化市場を短期間で理解すると共に、コンテクストの構築にも貢献するアプローチ。