【ビジネスパーソン大航海時代】AI時代を先取りし“カオスを調和” 通信大手傘下企業の取締役~航海(8)
今回は、KDDIと博報堂とのジョイントベンチャーで取締役COOを務める丹野豊さん(40歳、株式会社mediba)についてお話させてください。
現代はSNSによって個人のエンパワーメントがしやすい時代と言われます。そのさなか、丹野さんは取締役として自分個人ではなく組織をより良くしていく責務に取り組まれています。最初は「立派な人だな」と感じながらお話をうかがっていましたが、聞くにつれ、実はこの先に訪れるAI時代を先取りした新しい在り方だと思い至りました。
組織に属する方にとって勇気を持つ道しるべになるのではないでしょうか。
グループ会社史上初、プロパー社員が取締役に
昨年5月、大手通信会社であるKDDIグループのmediba社はある選択をしました。
親会社であるKDDIや博報堂以外のプロパー社員である丹野さんを取締役に選任したのです。一般的にはグループ会社の取締役人事は親会社からの出向者で固めるのが通例であるように思われ、なかなか聞くことはありません。
このことを丹野さんご自身はどう思っているのか、なぜ昇格できたのかを知りたいと思い、インタビューを打診しました。
「なぜ取締役になれたか?ですか…すみませんがそれは私にはわかりません」
丹野さんの表情を見ると本気で困っているようです。
「なぜなら、取締役になるために仕事をしていたわけではありません。だから指名された説明が難しいです。今も偉くなったとも思っていないですし、これからも偉くなりたいとも思っていません」
これでは読者の方に大企業グループで取締役になれたエッセンスを伝えることが出来ない…。でも、初のプロパー取締役として選任されたのだからその理由はどうしても探していきたい。
彼は14年間medibaに勤続しているといいます。一定程度長く務めたことによる名誉的な人事なのでしょうか。
「ただ、責任感だけはあると思ってもらっているかも知れません。経営陣からというよりも働く仲間がそう思ってくれていると信じたいです」
なるほど、掘り下げられそうな予感がしてきました。
自分のエゴを気にしない 働く美学は“状況をより良くする”
丹野さんのキャリアを聞いてみます。
「中学生くらいのときにモテたいなと思って洋楽にハマりました。“あるある”ですよね(笑)。大学時代にその延長で音楽情報サイトを作ったんです。さらにその延長でネット系の会社に就職することになります」
趣味だったことがビジネスとして開花していったそうです。
「インフォシークというポータル(玄関)サイトを提供する会社では音楽・エンタメの情報発信を担当しました。多くのユーザーの方に使ってもらって嬉しかったです」
そしてmedibaへ。
「2004年でした。medibaはKDDIブランドであるauのフィーチャーフォンのポータルサイトを運営しており、より多くのユーザーに情報を発信したいと思っていた私にとって魅力的な会社でした。エンタメ・ライフスタイル担当としてディレクター職で入社したのです。やがて、たった3日間で約1000万人に利用されるauポータルのトップページなども担当していくことになります。トップチームと言われプライドを持って働きました」
丹野さんの仕事は難易度が上がり続けます。
「ガラケーからスマートフォンへのパラダイムシフトが起こったことによる関連サービスの立ち上げや、auスマートパスとauポータルの連携の調整など、振り返るとサービス企画開発だけでなく、利害関係者が多い仕事の取りまとめをさせていただくことが多かったです。カオスの状態で案件化されたものを解きほぐしたり、関係者の方に協力をお願いすることでサービスを形にしていきました」
謙虚な丹野さんの目に自信が宿っています。
「昔から必要があれば頭を下げるべきだと思っています。カオスを調和していくのが私の使命です」
AI時代になると人に求められるのはコミュニケーション能力
ここから先は丹野さんの言葉に迷いはありません。
「私は生粋のプロジェクトマネージャーなのです。サービスを使う人の立場に立つプロデューサー、開発言語を駆使して具現化するエンジニア、UI・UXを担当するデザイナー、社内外を活用して組み立てていくファシリテーターなど、それぞれが役割に集中できるようにチームをマネジメントしていきます」
丹野さんには美学があります。
「それぞれの個性が響き合ってユーザーの課題が解決できるサービスづくりに向き合いたい。関係者同士のエゴがぶつかりあうなど、調和できないならやらない方が良いと思います。これから出来るだけヒトに寄り添ったサービスをつくり続けることにチャレンジしていきたいです」
丹野さんは今後どうキャリアを描いていくのでしょうか。
「自分がどうなるかは考えていません。世の中は不確実ですから自分のキャリアを考えても仕方がないと思っています。変化としておおづかみにわかっていることはこれから先AI時代になるということ。そうなると人しか出来ない仕事の価値が高まるでしょう」
「例えばAIは効率的な管理はできたとしても、プロジェクトがカオスな状態の時に頭を下げるというコミュニケーションをテコにした解決策はやりようがないでしょう。AI時代というテーマは大げさかもしれませんが、小さいところではすでに変化は始まっています。テクノロジーの進化によって開発言語や開発手法、デバイスは常に変化をしつつづけているのです。しかし仕事とは人と人とのやりとりというのは変わることはありません。仕事にはコミュニケーションというカオスが必ずあります。私はヒトとともに生き、カオスがある限り自分の使命を全うしていきたいと思います」
なるほど。SNS社会になったり、テクノロジーが進化してもそれらは道具にしかすぎないしそれらは変えればよい。人間たらしめる、変化しない仕事は何かというと、例えば丹野さんの語る“カオスを調和する”ということは筆頭です。
そしてその力は、組織で働く人間こそ磨かれます。私はスタートアップと組織の両方を経験したからそのことを腹で理解できます。
いま、通信会社は事業モデルにパラダイムシフトが求められています。そのような環境の中でのグループ会社の役員人事では、親会社からの出向者だけではなく、カオスを調和する能力が磨かれたプロパー社員を選任するのは必然だったのではないでしょうか。実際のところはわからないが私にはそう映りました。そしてこれからの日本の先例のように感じました。
丹野さん、ありがとうございました。
【プロフィール】小原聖誉(おばら・まさしげ)
1977年生まれ。1999年より、スタートアップのキャリアをスタート。その後モバイルコンテンツコンサル会社を経て2013年35歳で起業。のべ400万人以上に利用されるアプリメディアを提供し、16年4月にKDDIグループmedibaにバイアウト。現在はエンジェル投資家として15社に出資し1社上場。
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【ビジネスパーソン大航海時代】は小原聖誉さんが多様な働き方が選択できる「大航海時代」に生きるビジネスパーソンを応援する連載コラムです。次回更新は5月22日の予定。
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