今も動員右肩上がり レジェンドの語る宝塚、ミュージカルの未来とは
いまや、演劇の一ジャンルとして日本で市民権を得た感のあるミュージカル。長年、日本のミュージカル界を牽引してきた宝塚歌劇団の観客動員は右肩上がりだ。同劇団の作曲家、吉崎憲治氏(85)は今年60周年、演出家の岡田敬二氏(78)は55周年を迎えた。ミュージカル作品とともに、歌と踊りで華やかに魅せる「レビュー」と呼ばれるショー形式の作品が特徴の同劇団。“現役レジェンド”として活躍する吉崎、岡田の両氏がミュージカルやレビューの今昔、未来を語った。(橋本奈実)
かつての日本では、ミュージカルはなかなか定着せず、時に「物語の中で突然、歌い出す」と揶揄されることもあった。だが、製作者や演者の努力が実を結び、認知度は高くなってきた。
近年、映像で活躍する俳優がミュージカル作品に出演したり、反対にミュージカル俳優がテレビ番組に出演したりする動きが活発化。米映画「ラ・ラ・ランド」がアカデミー賞を受賞し、完全にブレークした。今では海外作品のほか、オリジナル作品など多様化。テレビの音楽特番では、ミュージカル・コーナーが設けられるなど一大ブームとなっている。
劇団四季、東宝とともに、日本のミュージカル界の3大柱としてその一翼を担った宝塚歌劇団。2014年の劇団100周年以降、観客動員数は右肩上がりだ。
同劇団に1959年に入団以降、3000曲以上を手がけた作曲家、吉崎氏は「入団したころ、作曲も指揮もでき、外国に行くチャンスもある場所は、宝塚歌劇団しかなかった」と振り返る。63年入団の演出家、岡田氏も「入団当時は、ミュージカルやレビューとはなんぞやという時代。ストレートプレイの新劇が全盛でしたから。ミュージカルが市民権を得たのはとてもうれしく思う」という。
“市民権”を得るまでには、長い歴史がある。
吉崎氏は67年、宝塚歌劇初となるブロードウェー・ミュージカル「オクラホマ!」の上演に携わった。
その数年前、航空会社の米国東海岸就航を記念し、「現地でショーを」との依頼を受け、劇団員数名を連れてニューヨークでショーを実施。「オクラホマ!」の打ち合わせも渡米目的の一つだった。
「オクラホマ!」は、ウエスタンもののミュージカル。「女性だけの宝塚歌劇でウエスタンものをやるのは、という不安の声もありましたが、音楽がしっかりしている。生徒(劇団員)が歌える音域にすれば大丈夫だと思っていた」。公演時、自身はオーケストラボックスに入って指揮棒を振り、海外ミュージカルの宝塚版の礎となった。
一方、岡田氏は、吉崎氏の4年後に入団。大学時代、ミュージカル映画「ウエストサイドストーリー」を見て、ミュージカルの中に、人種問題など社会的なテーマを内包していることに衝撃を受けた。「それまでミュージカルは恋愛ものが主流」だったというが、「将来、日本にもリアリズムを基本にしたミュージカルの時代が来る。当時、“歌入りの芝居”を上演していた唯一の劇団、宝塚歌劇で勉強したいと思いました」。
入団後、ブロードウェー・ミュージカル「グランドホテル」(93年初演)を手掛けた。ミュージカルの魅力は「歌と踊りと芝居の良さが合理的にミックスしていること」だと話す。
■ ■ ■
宝塚劇団の発展には、ミュージカルのほか、「レビュー」の成功がある。
明確な台詞や筋書きよりも、歌と踊りで演出するショー形式のレビュー。欧州で人気を集め、宝塚では1927年から上演。宝塚の演目は芝居(ミュージカル)と、レビューやショーの2本立てで上演されるのがオーソドックスなスタイルだ。
自身は84年から「ロマンチック・レビューシリーズ」と呼ばれるレビューを手掛け、昨年20作目を送り出した。岡田氏は「歌や踊りをただつないでいるわけではない。さまざまな物語が詰まっているんです。レビューこそドラマ」と解説する。例えばシリーズ19作目の中には、ロシアの館を舞台に軍人と令嬢の切ない物語を描いたシーンがある。「トルストイの小説に、こんな世界観があったわね、とうっすらと感じてもらえる場面。メッセージをほのかに感じる作品が私のベース」と話す。
■ ■ ■
今、これからの宝塚歌劇のミュージカルやレビューに対し、愛情を込めて警鐘を鳴らす。吉崎氏は「昔は、歌として個性的な響きを持ったスターが多かった。今はみな、器用だけど、同じように聞こえる。歌う人の個性や意志が自主的に出ない」。
一方、岡田氏は、大切なのは伝統を大切にした上で次のステージに進むための創意工夫と感じている。「たとえば、宝塚伝統の(衣装の装飾の)オーストリッチの羽根や、スパンコールに代わるものは何かとか。色彩でボリュームを出すとか、幅広い視点で考えてみることですね」と話す。
関西への訪日外国人客を増える今、「舞台を通じてさらに日本の文化や日本人の心を伝えたい。ひいてはそれが、日本オリジナルのミュージカルの隆盛にもつながると思います」。
◆ ◆ ◆
「吉崎憲治&岡田敬二 ロマンチックコンサート」(構成・演出、岡田氏、作曲・編曲・音楽監督、吉崎氏) 吉崎氏と岡田氏にタッグによるロマンチック・レビューシリーズの楽曲や、「この愛よ永遠に TAKARAZUKA FOREVER」など吉崎氏作曲の楽曲、宝塚の名曲を、宝塚OGと現役生が歌うコンサート。6月1、2日、大阪市北区の梅田芸術劇場メインホールで。
関連記事