【経済を知る】人手不足と終身雇用制度の終焉 求められる「日本株式会社」での人材育成
3月下旬、東京・大手町のパソナ本社で、エルダー(シニア)とシャイン(輝く、社員)をかけて名付けられた、定年のない65歳以上の新規採用社員「エルダーシャイン」の入社式が行われた。初年度の今年は通年で80人超を募集し、同社グループの各部門で直接雇用する。式には50代後半も含む65人が出席し、南部靖之代表から一人ひとり辞令を受けた。
採用が決まったエルダーシャインは身だしなみや歩き方などに関する研修を受け、入社式に臨んだ。自動車部品メーカーの再雇用後に、キャリアチェンジを目指して会社を辞めた男性(61)は「30ほどの会社を受けてどこも門前払いだったが、エルダーシャインに合格し、社会で必要とされていると感じることができた。38年ぶりの入社式とあって、朝から元気が湧いた。(自らの)成長と社会貢献と収入の3つのSの実現へ、一生働きます」と力強い口調で語った。
こうした働く意欲のあるシニアがいる一方、中小企業などでは人手不足が深刻だというミスマッチが起きている。南部代表は「パソナの試みが、他の企業にも広がればいい。大企業からベンチャーへとぐるぐると人材が回っていく仕組み。一企業でなく、『日本株式会社人事部』として社会課題のシニア雇用に取り組む」と話す。
人手不足を背景に人材の流動性が高まり、日本型の終身雇用制度が崩れ始めている。平成初期のバブル経済崩壊後の相次ぐ大規模リストラや給与水準の抑制で、大企業に入り、定年後再雇用まで勤め上げる「寄らば大樹の陰」的な発想は薄れた。ここ数年は優秀な大学生の起業や外資系志向が高まり、ミドル層の転職や健康寿命が延びたシニアの起用につながっている。
米国のGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コムの頭文字)が世界経済を席巻し、デジタル革新で後れをとる日本企業が、国際競争力を回復するためにIT技術者などを確保する動きも、通年採用や中途採用を強めている。
今年1月、トヨタ自動車の豊田章男社長は本社での年頭あいさつで、同社の人事制度改革に触れ、「みんなプロになろうよということ」「みなさんは、自分のために、自分を磨き続けてください」「トヨタの看板がなくても、外で勝負できるプロを目指してください」と呼びかけた。
大学生の口コミが多く集まり、就活サイトの「食べログ」と呼ばれる「ONE CAREER」を運営するワンキャリアの北野唯我執行役員は「日本を代表するトヨタ自動車のトップが、転職を前提にした思考法を示したことはインパクトがある」と話す。
ワンキャリアの東大、京大卒業予定者の就職人気ランキングでは、外資系のコンサルティング会社や投資銀行が上位を占める。北野氏自身、大手広告代理店の経営企画から外資系コンサルを経て独立という、若い世代の憧れのようなキャリアを歩んだが、その目にも、トヨタの変革は、今後の日本の雇用改革を牽(けん)引(いん)する象徴事例と映る。
では、新卒一括採用-新入社員教育-賃金や昇格の年功序列人事によって、人材力を底上げしてきた日本型雇用慣行が崩れた場合、人材育成はどうなるのか。
パーソル総合研究所の「日本的雇用慣行」に関する調査(人事責任者100人対象)では成長企業(過去3年の売上高が増加)は非成長企業(同横ばい、減少)に比べ、ローテーション人事と併せて早期選抜人事制度を導入している割合が高いことが分かった。
日本総合研究所の山田久理事は「(企業を選ぶ)会社軸から(プロを目指す)仕事軸に変わっても、若いうちは営業で顧客志向を学び、総務でリスク管理を身に付けるなどいろんな仕事を経験することで、変化に対応できるスキルや物事の本質を捉える力が育つ」と指摘する。
一方で、「トップ企業の人材育成力」を出版した北野氏は、人材の流動性が一層高まることを前提に、最高経営責任者(CEO)の右腕として、外資系にみられるような経営に直結した採用や人事管理、人材育成を担う最高人事責任者(CHRO)ポストを置く必要性を説く。
さらに、転職が当然と考える時代にあっては、「一企業だけでなく日本全体で人材を採用し、育てていくということ。そのために企業は人事制度や働き方を透明化する。経営トップが他業界から来ることも違和感はない」という。
まさに、「日本株式会社」の人材育成が、日本の競争力回復には求められている。
関連記事