【ニュースを疑え】地方議員「うさん臭さの向こう側へ」 兵庫・尼崎前市長に聞く
約970の首長選、議員選挙が実施された今年の統一地方選だが、近年、とくに地方議員には政務調査活動費の不正受給問題や暴言、セクハラ問題など悪いイメージがつきまとう。誰のため、何のために議員を続けるのか。地方議会は必要だろうか。一市民から兵庫・尼崎市議会議員、同市長を経験した白井文・グンゼ取締役(58)の眼に、地方議員の「いま」はどう映る?(聞き手 大谷卓)
多様な人が存在意義を発揮できる仕組み必要
-地方議員の何が問題なのでしょう
「名誉職だった時代が長く続いて、その頃の慣習やルールがいまも残っている。議員に求められる素質も意識も違うにもかかわらず。いつ来ようが、いつ帰ろうが決められておらず、勤務形態はボランティアそのもの。現状をみれば不信感や無駄だと感じるのも当然です。(議員)当時の私も、利権で動き、支援団体のためだけに発言している人がいたと感じたことがあります。質の悪い人ばかりが注目され、議員はうさんくさい、お金に汚い人がなる仕事というイメージになっている。でも、そうでない人も多いんですよ」
-どう変革すればよいと
「地域を改革したいと強い意欲を持つ人や、職業として議員を選んでいる人、とにかく多様な人たちが自らの存在意義を発揮できる仕組みが必要です。例えばサラリーマンのような本業をしながら議員をできる仕組みを考えてはどうでしょう。すると議員屋、政治屋みたいな人はいなくなりませんか。本業を持ちながら議員ができるのなら議会開会の曜日や時間帯はいつがいいのか、議員報酬はどうなのか、議員数がどうなのかという議論に発展していくはずです」
八戸を「はちど」と読む“とんでも議員”
-議員のなり手不足は深刻です。その上に不正問題が相次ぐ。地方議会って必要ですか
「町村議会で非常に低い報酬で頑張っている人もいるし、幅広く、足で稼いで問題を見つけて解決しようとする人もいます。行政が気がつかないことに目を向けて問題提起をし、対策につなげた事例もあります。行政の施策からこぼれ落ちた人をどう救うかこそ議会、議員の役割です」
「例えば、尼崎市長時代に社会福祉の施策を巡って、現場を知らず、聞く耳を持たない兵庫県職員との応対に辟易したことがあります。この人たち、全然現実知らんって。大そうな学歴で、頭のいい人ばっかりの行政組織を監視する議会は絶対に必要です」
-白井さんが平成5年に尼崎市議選に立候補された契機は、当時の議会のカラ出張問題だった
「問題が発覚して、全国で初めて市議会が住民運動で解散するというとき、テレビで報道をみたら、当時の現職議員が『自分は“はちど”に行った』と言っていた。青森県の八戸(はちのへ)市のことです。この人は絶対に八戸に出張していない。私のような普通の市民がもっと政治に関心を持って立ち上がらんといかんと感じて政党、会派に属さず挑戦したんです」
虫けら扱い「白井なんかと組むからあかんのや!」
-当選した時は33歳と若く、無所属の女性議員。ひどい扱いを受けたとか
「議員仲間、職員の対応いずれも虫けら扱いでした。小児救急医療態勢の問題に取り組んだことがあって、息子さんを亡くしたお母さんと一緒に署名を集め、小児救急医療の充実という陳情を出したのに議会では採択してもらえなかった。審議した委員会の委員長で、最大会派の古参議員に呼び出され、お母さんに『うちに来たら一発で議会を通した。白井なんかと組むからあかんのや』と言われたんです。議会って誰の方向をみて何のために仕事してるんだろうって。愕然としました」
-孤独な戦いだったのですね。「女性を阻むガラスの天井」という言葉があります。女性の政治進出は低すぎませんか
「いま市区町村長の女性の割合が1.3%で、市議会議員に占める割合は全国平均14.1%だそうです。全然低い。私も議員当時、女性で会派に入っていないこともあってか、『レベルが低い発言を議会でするな』ってヤジが凄かった。議案についての市職員の説明もごく簡単。会派に属する議員ととても差がありました。市長に就任すると『あんたみたいな経歴で、尼崎の舵取りは無理や』『客室乗務員あがりで政治ができんのか』って」
市民としてどうあるべきか
-「質の悪い」議員を選ぶ有権者にも問題がありませんか
「施策によって住民の方も総論賛成、各論反対ということがある。シチズン(市民、公民)としてどうあるべきか、住民も考えないといけない時代になっていると思います。それが賢い税金の使い方につながる。住民として何を我慢して何を得ていくのか」
「ただ市長時代の市民のみなさんには感謝してるんです。車座集会を開いて、財政難のことを話すと『誰のせいなんや』『市民のせい違う』って。でも子供にツケ回していいんですかって言い続けると最後は分かってくれた。税金の使い方を真剣に考えてくれる市民がいたんですね」
-社会から「良心」が消えつつあると言えませんか
「8年前に市長を辞めましたが、私は死ぬまで尼崎市、尼崎市民に対する責任を持ち続けるつもりです。責任は役職を辞めたからって終わらない。そう思う市長、議員もいるんです。有権者の方にもそれを感じていただきたい」
「人間の嫌な部分、利己的な部分ばかりが目につくけど、誰にも認められることもなく、淡々と活動している人はいます。そういう人たちが1人でも2人でも増え、活躍できる社会であってほしい」
地方議員は社会のチェンジメーカーに
-メディアの伝え方に問題はありませんか
「大変生意気ですけど、どこの業界も悪い意味でサラリーマン化していませんか。足で稼ぐとか、寝る間も惜しんでとか、駆けずり回るとか、そういう人が減っていますよね。いい活動を掘り起こして長くフォローして、きっちりと伝えてほしいとは感じます」
-米国では議員に多くの政策スタッフがつき、政策立案能力も高いと言います。日本の地方議会はどうあればいいと
「議会がないほうがいいという発想を逆手にとって、じゃあ、どういう議会だったらいいのって議論にもっていきたい。恵まれた環境や立場にいる人たちよりは何か苦労を抱え、しんどい経験をした人のほうが社会の課題に気づきやすい。そういう人が(議会に)入れるような制度設計をすべきです。許せない、おかしいという怒りを持って一歩踏み出した人が社会のチェンジメーカーになれる。議会にも同じことを求めたい。会派とか、政党にこだわらず、市民も議員と一緒に視察に行き、意見交換する。そうなれば地方議会のイメージは必ず変わります」
-若者の政治離れは深刻です
「先日、女性の活躍をテーマに元弁護士の北嶋紀子さん、国連ウィメン日本協会副理事長の三輪敦子さんとでイベントをしました。参加者90人のうち中学生、高校生、大学生が結構いた。女性対象だったのに来てくれた男子中学生が『公民の話題、とても面白かった』と。イベント後も残って話しをしたんです。若い子たちも捨てたもんじゃないですよ」
【プロフィル】白井文(しらい・あや)
昭和35年、兵庫県尼崎市生まれ。大阪外大(現大阪大フランス語学科)入学と同時に全日本空輸の客室乗務員に。その後、人材コンサルタントを経て、平成5年に尼崎市議会議員を2期務め、14年からは当時全国最年少の女性市長となる尼崎市長に就任した。現在はグンゼ社外取締役を務めるほか、男女共同参画をテーマに講演活動などをこなす。
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