【今日から使えるロジカルシンキング】なぜビジネススキルである「ロジカルシンキング」を子供が学ぶ必要があるのか
第1回
はじめまして。学習塾ロジムの苅野進と申します。学習塾ロジムは、東京都内で小学生~高校生向けにロジカルシンキングのスキルを身につける講座や問題設定・探究・解決型のワークショップを開講しています。その私が、SankeiBiz読者のみなさんのようなビジネスパーソンに向けてロジカルシンキングがいかに役立つかを伝えていくのがこの連載「今日から使えるロジカルシンキング」です。よろしくお願いいたします。
「ロジカルシンキング」とは
「ロジカルシンキング」は、ビジネスに欠かせないスキルです。そのため、多くの方は一度は耳にされたことがあると思いますし、実際に仕事に役立てている方も多いでしょう。ロジカルシンキングとは、複雑な状況の中で上手に考えて名探偵のように「切れ味鋭くズバッと答えを出す!」という印象をお持ちの方が多いようですね。しかし実際は少し違います。みなさんの普段の仕事のように「明確な正解がない状況」の中で、「少しでも良い結果」を探していくための羅針盤のようなものです。
なぜ私がロジカルシンキングを子供向けに教えているのか。ロジカルシンキングがどのようなものなのかを、従来の学習と比較しながら簡単に紹介したいと思います。
学校での勉強と社会との大きな違いは「正解」の性質です。学校ではすでに「正解」が確定しているものや、「正解」を出せる形に加工した問題に取り組みます。たとえば、「この図形の面積は?」や、「鎌倉時代に民を救済するために出された借金帳消しの法令は?」といった問題です。小学校からこのタイプの問題を「正解」とセットで覚えこんできました。先生たちの「良い指導」とは、このセットをいかにうまく覚えてもらえるかという点にありました。先人たちが試行錯誤の末に編み出した手法や、いろいろな失敗の末の成功事例がまとめられた形で勝ちパターンを「効率よく」教わっていたと言えるでしょう。
しかし、実際に社会に出ると「正解」はどこにも書いてありません。
今日訪れる顧客との契約をまとめるためにすべきことは何か?
顧客が一番気にいる案は次のうちどれか?
上司が許可する予算はいくらか?
職場での評価が高くなるには何をすべきか?
常に皆さんが頭を悩ませているこれらの問題には模範解答などないのです。正解が含まれる選択肢が示されるわけでもないのです。学校での問題演習と指導に慣れた子供たち、大学生や若い社会人もこういった状況だと思考停止してしまうことが少なくありません。上司に対して「答えを知らないくせに、難題をふっかけてくるな」などストレスを感じることも多いのではないでしょうか。
ロジカルシンキングは、このような状況でもパニックにならずに「情報を正確に集めて、整理し、理解する」「仮説を立てる」「相手に伝える」「実行して結果を理解して、次に活かす」ことができるようになるための各種技術の総称です。「そんな感じの状況にはまずはこんな風に対応する」というようなレベルからスタートすることで、「大きく外れてはいない」という手を打てるようにするものです。
社会に明確な模範解答はない
私は、答えが明確な学校の問題で養った時間内で正確に問題を解く能力と、実際の社会で求められる試行錯誤や関係者とコミュニケーションを取りながら仕事を進める力とのギャップを埋めたいという思いでロジカルシンキング教室を開講しています。
みなさんの今までの「学び」の感覚からすると、「ロジカルシンキング」は、少しあやふやな感じがするかと思います。「こんな場合はこうする!」と明確に方法論があれば良いのにと期待する方も多いでしょう。しかし、それは逆に大きな的外れを生み出す可能性があります。ロジカルシンキングはもう少し「柔らかい」スキルなのです。そして“上手な試行錯誤”の能力は社会人のアウトプットの質の向上に「じわじわ」効いてくるものなのです。
<上手な試行錯誤>
目の前の複雑な情報を扱いやすく分類・整理する
数値化できるものを明確にして的確に判断する
情報を正確に伝達する
もちろんロジカルシンキングだけですべての問題は解決しません。人間が絡む世界ですから、心理的・政治的な様々な問題も存在します。
しかし、ロジカルシンキングを学ぶことによって、それが使える場面を正確に把握できるようになります。そうすることで、論理的に判断できる部分を増やし、それ以外の心理的・政治的な問題と区分して考えることができるようになります。
明確な模範解答がない世界では、自分の考えは常に、
それは本当か?
答えはそれだけか?
という疑問の目に晒されます。自分自身でもそのような視点に立つと100%の自信は持てないでしょう。絶対的な模範解答ではなく、自分も含めた関係者が「とりあえずそのように仮定して進めても良いのではないか」という納得感を生み出すことがロジカルシンキングの目的なのです。
ロジカルシンキングの基本を身につけることによって、もやもやした景色がだいぶスッキリしてくることを目指しましょう。
次回のテーマは「事実と意見を分ける」です。次回以降、この連載は基本的に2回を1セットとして、(1)解説メインの<基本>と(2)問題を実際に考えてみる<応用演習>を掲載していきます。読者をビジネスパーソンに設定して、身近な事例を豊富に紹介していきたいと思っていますのでよろしくお願いいたします。
【プロフィール】苅野進(かりの・しん)
経営コンサルタントを経て、小学生から高校生向けに論理的思考力を養成する学習塾ロジムを2004年に設立。探求型のオリジナルワークショップによって「上手に試行錯誤をする」「適切なコミュニケーションで周りを巻き込む」ことで問題を解決できる人材を育成し、指導者養成にも取り組んでいる。著書に「10歳でもわかる問題解決の授業」「考える力とは問題をシンプルにすることである」など。東京大学文学部卒。
【今日から使えるロジカルシンキング】は子供向けにロジカルシンキングのスキルを身につける講座やワークショップを開講する学習塾「ロジム」の塾長・苅野進さんがビジネスパーソンのみなさんにロジカルシンキングの基本を伝える連載です。アーカイブはこちら
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