【ローカリゼーションマップ】ファインアートを教育で活かす 宮山さんが「BLANCO」で目指すもの

 
BlANCOの親子ワークショップ(C)Federica Ikka Mirabelli
“il modo di scendere al cielo -空へ降りる方法-”=ベイスギャラリー 2013 東京(C)Kaori Miyayama

 宮山香里さんはファインアートの世界に生きるアーティストである。慶応大学で文化人類学を勉強し、東京で企業勤務を数年経験した後、ミラノの国立ブレラ美術大学の絵画科に入る。卒業して10数年を経て、現在、日伊半々の生活をしている。

 「イタリアのアートアカデミーは、歴史的に絵画・彫刻・装飾・舞台美術の4学科に分かれています。絵画科に入った当初は、多くの授業が重なっている絵画科と装飾学科の明確な区別が分からずにいました」と笑う。

 装飾美術はアプライドアート(応用美術)と呼ばれる領域にはいる。例えば、壁や天井に描くフレスコ画は装飾美術にあたる。

 「ファインアートは作家の人生やアートヒストリーの全てを相手にし、展覧会で展示する作品も、解説を書いてくれる批評家とじっくりと議論しあうのですね。言葉で客観化する作業を常に伴います」と語る。

 だからファインアートを舞台に活躍するアーティストは、他のアート領域に安易に足を踏み入れることはしない。批評やマーケットが、キャリアや美術史に基づいてどのように評価を下し価格設定をするか、そのシビアさを充分に承知しているからだ。

 参考までに説明すると、日本のデザイナーなどが「アートフェアやミラノのデザインウィークでアート作品を発表して、アートギャラリーで売っていきたい」と意気込んでやってきて空振りする背景は、こういうところにある。ファインアートの線引きのシビアさを知らない。

 良い悪いではなく、ファインアートとはそういう世界なのだ。

 宮山さんはナポリに近いサレルノと東京のアートギャラリーに属し、ファインアートの世界にどっぷりつかりながら、もう1つの活動軸としてアートと社会の接点をテーマにおいている。

 彼女は文化人類学を専攻したこともあり、文化の違いを理解することに関心が高く、それはファインアートの作品にもでてくる。

 日本文化の特徴としてよく言われる「内と外」は、他の文化圏にまったくないわけではない。それでは文化圏によって境界の意味がどう異なるのか、その境界がどう表現されるのか、という点に注目する。

 このようなテーマで、知的障害者や小さな子どもたちを相手にワークショップも行うことがある。

 宮山さんのイタリア人の旦那さんは、やはりブレラ美術大学の絵画科を修了したアーティストであるが、知的障害者や精神疾患者の創造を促す活動も行っている。一方、宮山さんのお姉さんは、早稲田大学の文芸学科を卒業した後にミュンヘンテレビ映画大学劇映画監督学科で勉強。現在もドイツで映画の仕事をする。

 この3人が集まって「ブランコ(BLANCO)」というグループを作っているのだ。

 コンセプトは、日本・イタリア・ドイツを拠点に教育プログラムを提案することで、さまざまな違いを越えたコミュニケーションを生む場を作ろうとしている。

 そこでアートが活きる。人々の考えや思い込みの枠を外していく役割を果していく。ふたたび宮山さんにアートとは何かを問うと、クラフトとの対比で以下のように答えてくれた。

 「ファインアートは、モノであってもモノではない、ということですね。売れるとか売れないとか、そういう次元とは離れて作家の魂が問われる、ということだと思います。他方、クラフトではモノと使う人の関係が問われるでしょう」

 

 彼女には2歳の娘がいる。今は日本とイタリアを行き来しているが、学校に通う年齢になるとどちらかの時間をもっと増やさないといけない。アーティストの親としては、今後の教育環境をどう考えているのだろうか。

 「アートに触れるためには、イタリアが良いでしょう。道端の石ころや壁ひとつとっても、歴史の刻まれたホンモノが日常生活に溢れており、身体的にそれらを経験できます。ホンモノに囲まれて生きていると、モノを見る目が自然と養われます」 

 それではイタリアなのか?

 「いや、今のところ、小学校までは日本の学校に行かせたいと考えています。日本社会や人間関係、そして言語の特殊性を考えると、まずは日本的ルールにじっくり浸かってみる。その後、状況によって日本に残るかイタリアへ基盤を移すか、決めていきたいと考えているところです」

 順序が鍵だと考えている。日本からイタリア、イタリアから日本の2つのルートを比較したとき、ラテン気質の娘さんが後者のケースでより苦労するのではないか。そう感じているのだ。

 どの順序を選ぶかは親の好みと希望である。ポイントは子どもが状況に合っていないと直感した時、迅速にどのようなアクションを親としてとるかだろう。

 他方、アーティストを親にもつ子どもは、身体も感性もかなり鍛えられるはずだ。それだけでなく、生き方についても親のそれが「生」で伝わってくる。

 教育環境の設定の仕方も、子どもが親をじっと見ている。

【プロフィール】安西洋之(あんざい・ひろゆき)

モバイルクルーズ株式会社代表取締役
De-Tales ltdデイレクター

ミラノと東京を拠点にビジネスプランナーとして活動。異文化理解とデザインを連携させたローカリゼーションマップ主宰。特に、2017年より「意味のイノベーション」のエヴァンゲリスト的活動を行い、ローカリゼーションと「意味のイノベーション」の結合を図っている。書籍に『イタリアで福島は』『世界の中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』。共著に『デザインの次に来るもの』『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか?世界で売れる商品の異文化対応力』。監修にロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』。
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ローカリゼーションマップとは?
異文化市場を短期間で理解すると共に、コンテクストの構築にも貢献するアプローチ。

ローカリゼーションマップ】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが提唱するローカリゼーションマップについて考察する連載コラムです。更新は原則金曜日(第2週は更新なし)。アーカイブはこちら。安西さんはSankeiBizで別のコラム【ミラノの創作系男子たち】も連載中です。