ビジネスパーソン大航海時代

世界を良くするライジングサンへ ファンド投資家という生き方~航海(9)

小原聖誉
小原聖誉

 今回は、企業・個人から7億円強を集めファンド組成し、スタートアップへ投資を行っている郡裕一さん(36歳・ベンチャーキャピタルREALITY ACCELERATOR代表パートナー)についてお話させてください。

 企業向けの投資ファンドは、2016年にソフトバンクグループの孫正義さん(会長兼社長)が作ったものがよく知られていますが、彼はなんと34歳の時にそれを実現しました。お話を伺うと、ビジョンをもちつつ現実的なカードを切り、着実に大きい成果に近づく姿を感じました。

 やがては未来の日本を背負って立つライジングサンになるのではないでしょうか。

 インタビューをご覧ください。

 ファンド投資家として13社に出資

 REALITY ACCELERATORは2017年に立ち上げたファンドで、SaaS(月額サブスクリプションでシステム提供)型やAI(人工知能)を活用したBtoBビジネスのスタートアップに特化して投資を行っているそうです。

 どのような経緯でファンドを作られたのでしょうか。

 「実はファンドをすぐに作ったわけではないのですよ。2012年からずっとスタートアップへ、投資以外の支援をしていたのです。そこから5年経ってファンドを作ることになりました」

なるほど、活動の延長にファンド作りがあったわけですね。

 「ええ。無料で相談をうけていました。最初は開発だったり、チーム作り、そして営業方法のようなものです。一定の数のスタートアップを支援したのちに、ノウハウが蓄積されてきましたのでアクセラレータープログラムを提供開始しました。3カ月をひとつの期間として、ガッチリと支援していったのです。累計で200社のスタートアップを無料で支援しました」

 今でこそアクセラレータープログラムは大企業中心に増えていますが、当時は希少だったはずです。それを無料で提供されていたということに驚きました。

 どうやって維持されていたのでしょうか。

 「私のスタートアップ支援活動を見てくれた朝日新聞社が、アクセラレータープログラム(朝日メディアアクセラレータープログラム)を提供する時にお声がけしてくれたのです。はじめて提供されるので自分の運営ノウハウが活きるのです。いくつかの大企業アクセラレータープログラムの運営も携わらせていただきました」

 なるほど、そのようなビジネスに派生するのですね。

 ところでスタートアップの課題は事業立ち上げではありませんよね?

 「はい、スタートアップの経営課題は“HOW(どうやってやるのか)”と“カネ”が非常に大きいです。アクセラレータープログラムでは“HOW”も支援しつつ、資金調達の支援もするようにしました。それもプログラムの目玉になります。スタートアップが資金調達をするためにはVCに20~30社会う必要があると思っています。紹介をしてもなかなか決まることはありません」

 なるほど、それでアクセラレータープログラムだけではなくファンドも作ったということですね。

 「はい。そうなります。5年間の活動を見てくれていた企業・エンジェル投資家が出資をしてくれました。ご縁に恵まれたと思っております」

 確かに郡さんが積み上げたスタートアップ支援活動を見れば共感する企業はあるはずでしょう。それ以外に出資企業のメリットはあるのでしょうか。

 「大企業はスタートアップとの連携をしたいと考えていますが、我々REALITY ACCELERATORを通じてスタートアップの探索・業務提携支援や、交流による社内起業マインドの醸成などが挙げられます」

 なるほど、ファンドを組成してからどれくらいに投資されたのか教えてください。

 「現在13社に投資しています。トータル25社に平均1社2000万円ほどを投資します」

 世の中を少しでもより良くしたい

 郡さんのキャリアを聞いてみました。

 「祖父と父親は医者でした。高校3年までは私もその道に行こうと思っていました。しかし、二人の話を聞けば聞くほど“医者は余っている”という理解をしました。そうすると自分が医者になってもあまり人の役には立てないのではないかと感じたのです」

 そこでアプローチを模索していったという。

 「自分はどうせやるなら“アフリカの飢えを無くす”くらい人の役に立ちたい。そう決めました。医者よりもビジネスマンのほうがその可能性はあるかも知れないと。そこで大学も東京の商学部がある大学だけ受験しました」

 そのあとはどうだったのでしょうか。

 「大学時代には企業にインターンをしてスキルを磨きました。やがて自分で起業をすることは決めていましたので成り行きでの就職はせずに、友人の会社に入って大企業とはまた違う幅広い経験を積みました。そのあと中国の会社で開発のマネージャーをしたのちに、自分で起業をしたのです」

 いよいよ起業されたのですね。

 「過去の経験を活かして大企業中心に開発・コンサルを提供しました。その最中に大学時代の知り合いなどから起業相談をうけるようになって、無料相談をしていたのです。あとは先ほどお話した通りの流れになります」

 なるほど、そういえばなぜ自社の事業ではなくスタートアップ支援するほうに重みを変えていったのでしょうか。

 「まず自社のコンサル事業は差別化が難しいですし携わる案件も多くはありません。そして、日本のベンチャーキャピタルは金融出身の方が多く、それはそれで素晴らしい価値を提供できるのですが、起業家と徹底的に向き合って現場支援するスタイルのベンチャーキャピタルは多くはありません。ファンドビジネスとして差別化ができるのです」

 「自分はファンド運営をするベンチャーキャピタリストである前に、最終的には難易度の高いことに挑戦して、世界をよりよくしたいと思っています。スタートアップ支援を通じてたくさんの事業に関われることはそこに通じるのです。1社で事業を提供するよりもその方が多くの人の役に立てると思っています」

 郡さんのトーンから充実感がにじんでくる。

 「1号目の7億円のファンドに続き、今後2号目のファンドも当然作っていくことになります。より大きい規模・広いフェーズの投資をするのが目的です。おかげさまで多くのご縁をいただいています」

 積み上げ思考でも大きな夢をリアルにする

 ひとつひとつのお話を聞くと大きくはない。

 しかし、7億円のお金を集めトータル25社に投資をすること、そして2号目のファンドを準備する事実を聞くと途端に大きな人なのだと思う。

 「私はファンドを作る前もエンジェルとして投資をしていましたが、その段階ではVCから見ると、実績・実態がないコンサルタントだと思われていた可能性もあると思います。ファンドを作ってから扱いが変わりました。私自身は何も変わっていないのですが」

 わらしべ長者のような話で面白い。

 「通常のファンドは一部の出資先だけが成功しても、ファンドのリターンとしては成功となります。しかし、私の投資先はほぼ全てを成功させたいと考えています。ファンド規模は大きくありませんでしたし、1号目が失敗すると次がありません。そこで、SaaSというビジネスやAIという領域であればうまく行きやすいと考えてそこに限定し、現場支援することで離陸するところまでは支援することにコミットしたのです。それが上手くいきました。私は結果で示していきます」

 人生とは配られたカードでいかに成果を出すのかに着きますが、郡さんはそれを最大化する人物だと理解しました。積み上げて大きなものを作っていきます。

 「いままで自分の活動の背景を語ったことはありませんでした。僕は人助けしたいのです。なぜなら生まれた世界をよくできると思っているから。シリコンバレー発の好きな言葉があります。“make the world a better place”(世界をより良い場所にする)。まさにそういうことです。つまりグローバルで良くしたい。アフリカの飢えを無くすくらいに」

 孫さんのようになれ、と言われたら想像がつかない。

 だがしかし。

 彼は規模こそ大きくはないが、孫さんと同じようなアプローチのように見える。そして着実に大きくなってきている。その姿はホラ吹きと言われながら実態を伴わせていった孫さんの姿とシンクロした。

 そこに日本から世界をより良くするライジングサンを見た。

 郡さん、ありがとうございました。

小原聖誉(おばら・まさしげ) 株式会社StartPoint代表取締役CEO
1977年生まれ。1999年より、スタートアップのキャリアをスタート。その後モバイルコンテンツコンサル会社を経て2013年35歳で起業。のべ400万人以上に利用されるアプリメディアを提供し、16年4月にKDDIグループmedibaにバイアウト。現在はエンジェル投資家として15社に出資し1社上場。
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ビジネスパーソン大航海時代】は小原聖誉さんが多様な働き方が選択できる「大航海時代」に生きるビジネスパーソンを応援する連載コラムです。更新は原則第3水曜日。アーカイブはこちら