オフィス街に幽霊が現れる。「クールクズ」という幽霊が!
まるでマルクス、エンゲルスの『共産党宣言』のような書き出しになってしまったが、要するにクールビズが劇的に似合わない人たちのことについて熱く語りたいというだけの話である。
5月になり、クールビズが始まった。この時期、オフィス街に、まるで中学生のような半袖とパンツの人たちが現れるのである。クールビズが劇的に似合わない人たちを、私は「クールクズ」と名付けることにしたい(※過激な表現ですみません)。
クールビズというムーブメント自体を否定するつもりはない。四季があり、特に5月から9月にかけては気温や湿度が劇的に上がる日本において、スーツを着続けることは苦行そのものである。時短運動に矮小化されがちな「働き方改革」だが、働きやすい服装で仕事をする権利を労働者は主張するべきである。クールビズはもちろん省エネのための取り組みでもある(クールビズなのにも関わらず、キンキンに冷えているオフィスというものは散見されるのだが)。
ただし、機能性を重視しすぎるあまりに、楽な格好をすることを目的化したり、似合わない格好をするのも問題だ。似合わない格好で印象を悪くしていないだろうか。社内外の人から信頼を失っていないだろうか。
クールビズに関しては、襟や柄で主張しようとして過剰なまでに派手になっているシャツの人、逆に過剰なまでに安っぽい半袖白シャツを着ている人、安っぽいアクセサリーで自己主張している人などが気になってしょうがない。一部の中学生や高校生が、2年生くらいになったとたん、校則に違反するような制服を着出すが、無理していて似合わなくてダサいという光景を思い出す。
透けて見えるのは「歩くセクハラ」
いや、似合わないのはまだいい。下着を着ないで半袖のワイシャツを着る人などは、マナー違反も甚だしい。体が透けて見えるのは、歩くセクハラである。女性だけでなく、男性も不愉快にする。パンツのシワが目立つなど、服のメンテナンス不足も問題だ。
季節限定のクールビズだけでなく、最近では、いかにもカタそうな業界・企業でも、服装の自由化が進んでいる。昨年100周年を迎えたパナソニックでもデニム勤務OKの部署が登場した。
顧客と接点を持つ営業職の服装も変化が見られる。シーズンを問わず、ジャケパンスタイルや、ジャケットすら着ない営業職も現れ始めた。
服装の自由化は良いことだが、似合うかどうか、周りを不愉快にしないかどうか、信頼を勝ち得るかどうかが大きな論点だ。ラフなスタイルは、コーディネートが楽だとは限らない。
やや余談だが、最近、大手広告代理店の電通の社員から聞いた話が面白かった。同社の営業職はやや派手目なスーツやネクタイを身につけて仕事をしているというイメージを抱いている方も多いことだろう。ただ、目からウロコだったのは、同社の営業職が身にまとう服は、顧客により決まるとのことだった。メガバンク担当の営業はいまだにダークスーツが中心で、逆にウェブ企業担当の営業はTシャツにデニムという人もいる。ファーストリテイリング担当の営業は全身ユニクロだ。電通魂を感じた。
ラフなスタイル、楽な服装は結果として、似合わないスタイルを増産することにもつながる。人を見た目だけで判断してはいけないが、とはいえ、見た目をサボって良いわけでもないのだ。くれぐれも言うが、生まれつきの美醜のことを言っているわけではない。ただ、服装は努力できる範囲内のことである。そこで信頼を失うのは損なのだ。
型を覚える、型にハマるのも手
では、信頼される服装を身につけるためにはどうすればいいのか。まずは「型」を覚えること、さらには「型」にハマってみてはどうだろうか。
最近出た本、『世界で闘うためのスーツ戦略』(井本拓海 星海社)が参考になる。著者の井本氏は、国際協力事業に従事しており、25歳からヨーロッパ、中東、アジア、アフリカなどでの業務や駐在を経験。1年の4分の1は海外で仕事をしている。本書は世界で闘うビジネスパーソンのノウハウが惜しげもなく開示された1冊である。
本書は別に「オシャレ」を礼賛するものではない。ましてや、高いブランド物をすすめるものでもない。逆にまったくお金をかけずにファストファッションだけでオシャレに過ごすことをすすめる本ともちょっと違う。本書は「適切なスーツスタイル」を提唱するものである。これを身に着けなくてはビジネスパーソンとして認められないからだ。
本書が提唱する「適切なスーツスタイル」について、読者は意外に知らないことだろう。たとえば、スーツやジャケットからワイシャツはどれだけ長く出るべきか、あなたは答えられるか? 正解は1.5センチだ。このような正しいシャツ、ジャケット、ズボン、タイ、靴、小物などのルールがいちいち参考になる。たとえば、素材に関してはシャツと靴下はコットン、スーツはウール、タイはシルク、チーフはリネン、革製品は牛革というのが、ルールだ。「センスの上にルールが存在するのではない。ルールの上に、センスが存在するのだ」というのが本書の主張だ。
前述したとおり、本書は別に高いブランド物を推奨しているわけではない。輸入するためのコストや、ブランディングのための過度な広告宣伝を投じるなど、海外ブランドにありがちな問題について疑問を呈している。ファストファッションまでいかなくても、現在は紳士服チェーンが良質で納得感のある価格帯のスーツ、ジャケットを推奨している。いまやこれらのものは、上下で3~4万円程度で買うことができる。世界でビジネスをしている著者も、この価格帯の服を着ている。日本でも、海外でもだ。
靴にはお金をかける
一方、目からウロコだったのが、著者は靴にはお金をかけているということだ。靴は3万円以上ものを推奨していることだ。よく「オシャレは足元から」というが、これは単に「センス」の話ではなく、「ルール」の関係からだ。グッドイヤー製法の靴は、だいたい1足3万円以上でなければ手に入らないからである。
また、私が新入社員だった約20年前は「営業の新人は白シャツを着ろ」と上司や先輩から説教されたものだが、白シャツは紺色の上着とのコントラストがきつくなりすぎると本書は指摘している。むしろサックスブルーのシャツを着るべきだという。
「ポケットにモノを入れること」「結婚指輪と腕時計以外のアクセサリーを用いること」「景品のペンを用いること」「耳毛を伸ばすこと」「スマホの画面が割れていること」などのオシャレNG集もいちいち参考になる。いつの間にか、あなたもルールを破っていないだろうか? 私も本書を読んで猛反省した次第だ。
自己主張したい気持ち、オシャレしたい気持ちもわかるし、逆に無頓着でいたい、とことん安いもの(逆に高いもの)を買いたいという気持ちもわかる。ただ、まずはルールが大事なのだ。
なお、私がブレずに主張しているのは、「着たい服よりも期待服」である。周りが期待するかどうかということを考えて行動するべきなのだ。クールビズシーズンに突入しているが、クールクズにならないためにも、今一度、服装のルールを確認しておきたい。
【働き方ラボ】は働き方評論家の常見陽平さんが「仕事・キャリア」をテーマに、上昇志向のビジネスパーソンが今の時代を生き抜くために必要な知識やテクニックを紹介する連載コラムです。更新は原則隔週木曜日。アーカイブはこちら