1日で3000本 昭和25年開業のミルクスタンドにお客が絶えない理由
JRの秋葉原駅と御徒町駅で3店舗のミルクスタンドを運営している大沢牛乳(東京都千代田区)。約50種類の牛乳やフルーツ飲料、そして菓子パンやおにぎりなどを販売している。同社は開業してから69年が経過しているが、現在でも多い日は1日に3000本以上の牛乳やコーヒー牛乳を販売しているという。
牛乳の消費量は減少傾向が続いており、スーパーでパック入りのものを買うのが一般的になった。飲料の選択肢も広がりつつある。ビンで牛乳を飲むという行為自体がどんどん減っている。そんな“逆風”だらけの状況で、大沢牛乳はどのようにしてお客の心をつかもうとしているのだろうか。支配人の稲村嘉一氏に話を聞いた。
お客が絶えないミルクスタンド
4月15日(月)の午後4時、JR秋葉原駅のホームで営業している「ミルクショップ酪」を訪ねた。まず、目に飛び込んでくるのが、まるでのれんのようにぶら下がっている短冊型ポップの数々だ。あるポップには牛乳ビンの写真とともに「酪農家を厳選した6軒に限定」「専任の獣医師が24時間体制で日々管理」といったこだわりポイントが記載されており、1本150円でも価値のある牛乳だとアピールしている。やや高価格帯のこだわり牛乳だけでなく、「明治」や「雪印メグミルク」といった大手ブランドの牛乳もそろえている。乳製品だけでなく、青汁、甘酒、にんじんジュースなども置いてある。
カウンターで商品を注文すると、店員が冷蔵庫から牛乳ビンを取り出し、蓋を取ったうえでお客に渡す。店頭でグイっと飲み干し、ビンを返却するシステムだ。駅構内で転がったり割れたりすると危険なので、ビンは持ち帰ることができない。カウンターの横には小さな台も置いてあり、落ち着いて牛乳とパンを一緒に食べられるように配慮されている。営業時間は午前6時30分から午後9時までで、最も忙しいのは朝の8時30分ごろだ。仕事に向かう人たちが朝の“エネルギー補給”をしている。
ミルクスタンドにはお客がひっきりなしに訪れる。ある中年男性は牛乳を5秒で飲み干し、無言でビンを返却し、足早に電車に乗り込んでいった。総じて、お客の滞在時間は短い。牛乳とパンを数分で口に放り込む姿を何度も見かけた。
東京では、レトロなミルクスタンドは減りつつある。稲村氏は「私が知る限りでは、かつては(JRの)新橋、池袋、品川でも駅構内で牛乳が飲めました。30年以上前には、私鉄の駅ホーム上にある売店では冷蔵庫に牛乳ビンを入れて売っていましたね」と振り返る。
創業当初は5種類ほどしか販売していなかった
大沢牛乳が創業した当初は、牛乳、コーヒー牛乳、フルーツ牛乳など5種類ほどしか販売していなかった。1950~1965年ごろには1日1万本以上売れる日もあったという。ミルクスタンドまで牛乳を入れた木箱をかついで何度も運ぶ必要があったため、従業員の肩には大きなこぶができていたと当時を知る従業員は語る。
牛乳の品ぞろえを強化し始めたのは今から20年ほど前からだ。稲村氏は「東京にはさまざまな地方から出てきたお客さまが住んでいます。地元の牛乳を飲みたいというニーズに対応するとともに、さまざまな味の違いを知ってもらう狙いがあります」と説明する。北は北海道から南は熊本県まで、さまざまなご当地牛乳を販売している。
商品を勧めて「人気」を創出する
大沢牛乳では、店員とお客のコミュニケーションを大切にしている。例えば、駅ナカという立地の特性上、通勤や通学のために毎日同じ人がミルクスタンドの前を通り過ぎる。そのため、常連が多く、毎日のように利用するお客もいる。店員はなじみ客に対して「今日はどれにする?」と声をかける。特に注文する商品が決まっていないようだと、「この牛乳がおいしいですよ」と推奨する。稲村氏は「飲んだことのない牛乳の良さを知ってもらうことで、人気を創出する狙いがあります」と説明する。
小学校や中学校の給食で提供される牛乳は高熱で殺菌されていることが多く、本来の風味が損なわれがちだ。また、酪農家が生産した生乳を集めてメーカーの製造工場に運び、牛乳が生産されるまでにはどうしても時間がかかってしまう。これは、スーパーで安売りされている牛乳も同様だ。
品質を安定させて、手ごろな価格で大量に供給するためには仕方のないことなのだが、こうした牛乳を子ども時代に飲み続けた結果「牛乳の味ってこんなものだよね」と思い込んでしまう。こういった“刷り込み”がされたお客に対し、少々高いが違う味わいの牛乳があることを伝えようとしている。
つまり、あまり流通していないこだわりの牛乳を提供することで「ミルクスタンドでおいしい牛乳を飲んで、ほっとする」という体験を提供する狙いがある。
販促のために知恵を絞る
店員による推奨だけでなく、お客を楽しませたり、季節ごとの変化を出すような取り組みもしている。
大沢牛乳は定期的に「ご当地牛乳総選挙」を実施している。これは、5種類の牛乳の試飲を実施し、お客がおいしいと思ったものに投票してもらう仕組みだ。また、夏にはラムネを販売し、冬にはあたためた牛乳を多く用意する。
ミルクスタンドの経営で知られる大沢牛乳だが、実は秋葉原駅構内で自動販売機を13台運営している。自動販売機には「酪王カフェオレファンの声から生まれた待望のカフェインレス」「ストロベリーフェア」といったポップがペタペタと貼り付けてある。品ぞろえも工夫しており、ミルクスタンドの営業時間外にもこだわりの牛乳をお客に届けようとしている。
変わらない売れ筋
牛乳関連のラインアップを増やしたり、販促を工夫したりしている大沢牛乳だが、実は売れ筋商品はあまり変化していないという。
今も昔も白い牛乳よりコーヒー牛乳のほうが出数は多い。稲村氏は駅のホームで甘いものを飲みたいというニーズが高いためではないかと分析している。また、菓子パンのラインアップ(あんぱん、ジャムパン、クリームパンなど)はほとんど変わっていないが、不動の1番人気はあんぱんだ。牛乳とあんぱんを組み合わせた注文が多いので、「あんぱん定食」という社内用語が存在するほどだという。
駅のホームで牛乳を飲むというレトロな行為は、大沢牛乳の企業努力もあって、現在でも多くのお客の支持を集めている。昭和と平成の時代を駆け抜けてきた同社は、令和の時代もこだわり牛乳のファンを増やし続けられるだろうか。
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