伝え方や言い回しを変えると、自分を取り巻く環境が変わり、やってくるチャンスも変わっていきます。みなさんは自分のコミュニケーションに自信がありますか? この連載ではコミュニケーション研究家の藤田尚弓が、ビジネスシーンで役立つ「最強のコミュニケーション術」をご紹介していきます。
第5回は「感情労働」がテーマです。5月病はみなさんもご存知かと思いますが、最近は「6月病」と呼ばれる不調が注目されています。6月病も5月病と同じく「環境変化に伴う適応障害」だとされていますが、変化に強いはずの人が不調を訴えることもあります。どちらかというと仕事もできて、気配りもできる。そんな人がこの時期になんとなく感じる心身の不具合は、無自覚でやっている「感情労働」のせいかもしれません。
真面目な人ほどハマりがちな「感情労働」とは
感情労働とは、仕事などで求められる人物像を体現するために、自分の感情を管理する労働のことです。
例えば、介護の仕事や看護師といった仕事では「温かさ」や「共感」を体現することが求められます。そのため多くの人は無理な要求をされたとしても、自分の感情を抑制し相手に共感しようとします。ふさわしくない感情を抑制するだけでなく、好まれるような感情を本当に自分が抱くように仕向けるのも感情労働の特徴です。
仕事関係で出会う人たちに対して「イラっとすることがあったとしても抑制する」「親しみを抱いているかのように振る舞う」といった行動を心がけている人は多いのではないでしょうか。これらは社会生活を送るうえで必要なことですが、自覚がないまま過度に頑張ってしまうと、心身に疲労を蓄積させることがあります。
疲労を溜める「偽りの親しさ」
本来であれば、親しい間柄の場合、お互いが「思いやりのあるコミュニケーション」を取ろうとします。しかし仕事上構築された親しさにおいては、コミュニケーションのルールが少し変わります。 感情労働の研究で有名なホックシールド氏は、航空会社の客室乗務員を例にとり、以下のように述べています。
「乗客は、家に来ている本物の友人やお客とは違って、イライラするときはその怒りを客室乗務員に表出する権利が当然あると思っている。チケットと一緒に、暗黙のうちに了解されたその権利を購入しているのだから」(*1参考文献)
自分は相手から思いやりあるコミュニケーションを求められるのに、相手は自分に対して強い主張を伴うコミュニケーションが取れる。このような状態はストレスを伴いますので、「仕事だ」とある程度割り切って行ったり、ストレスを溜めないようにしたりといった対処が必要です。
仕事として感情労働をしているという自覚を持っている人は疲労を溜めにくい傾向があります。しかし無自覚のうちに頑張りすぎる場合、燃え尽きのような症状が出てしまうこともあるので注意が必要です。
接客業にとどまらない感情労働
感情労働は主に接客業などに見られるものです。しかし筆者は多くの職種において、無自覚にやっている人が多いと考えています。
職場では周りの人との協調性が求められます。上司と飲みにいく、価値観の違う同僚の話に合わせるといった感情労働も、集中して続くと心的疲労を蓄積させる原因になるはずです。
プライベートでも、人当たりがよく、何かとお誘いが多い人は注意したほうがいいでしょう。例えば、優秀で、サービス精神の強い、若い女性などは、感情労働の罠にハマる典型だと思います。年上の人から誘われることも多く、何かとご馳走になる機会も多いと、知らず知らずのうちに感情労働の機会は増えます。自分の大事な時間だけでなく、メンタル面での労働を提供していることを自覚しないと、自分に休息を与える時間は減り続ける一方です。
心当たりがある人で、最近なんとなく調子が悪いなと感じる人は、プライベートで一人で過ごす時間を早急に作り、心身を休めてあげてください。
タイプ別 感情労働による疲弊を緩和する方法
感情労働からくる疲弊を緩和し、燃え尽きを防ぐためには、どのようなコミュニケーションを心がければよいのか。タイプ別のポイントを解説します。
《タイプ1》
感情労働による疲労を感じたことがある人
相手が喜ぶような発言を先回りして言えてしまうため、相手は感情労働を強いるお誘いを悪気なくしてきます。サービス発言を減らすようにし、迎合するようなリアクションも控えましょう。急に態度を変えるのは難しいと思いますので、まずは相手を理解しつつも、考え方の違いをマイルドに伝えるフレーズを使うところから始めてみましょう。
おすすめフレーズ:「そういう考え方もあるんですね」
相手も自分も大切にするコミュニケーションを少しずつ覚えていきましょう。
《タイプ2》
記事を読んで「自覚なく感情労働をしているかも?」と感じた人
うまく適応できているケースであれば問題ありませんが、定期的に心身の不調を感じる場合、無理をしないで済むような布石を打っておきたいところです。
おすすめフレーズ:「空気が読めなくて、すみません」
事前に言っておくことで周囲からの期待を下げる効果があります。宣言をしておくことにより、失敗した場合の自尊心の低下も抑えられるでしょう。
《タイプ3》
仕事と割り切って演技ができる人
嫌な人とでも笑顔で役割を演じることができる一方で、そんな自分が嫌になることもあるという人もいます。そんな人は自分を責めずに、むしろ誇りに感じるセンテンスを使うところからスタートしましょう。
おすすめフレーズ:「プロですから」
このタイプは燃え尽きが少ないとも言われています。演技であれ、プロとして振る舞える自分を認めてあげてもよいのではないでしょうか。
感情労働による不調に「励まし」はNG
感情労働による心身の不調は、ある程度年齢を重ね、それなりの地位に就いている人にはピンとこない話かも知れません。優秀な若手や女性社員に感情労働による疲労が溜まっていても、「頑張れ」と励ましてしまう人もいることでしょう。
感情労働による不調は、本人にとっての無理が重なって起こる症状です。さらに頑張りを求めるような声がけは逆効果だと知っておきましょう。
無理をしないで済むような環境づくりのサポートは、甘やかしとは違います。職場の生産性をあげ、長く働いてもらうためにも、励ましよりも、環境調整などを優先してください。
〈参考文献〉
*1 Arlie R. Hochschild, The Managed Heart: Commercialization of Human Feeling, University of California Press, 1982
【最強のコミュニケーション術】は、コミュニケーション研究家の藤田尚弓さんが、様々なコミュニケーションの場面をテーマに、ビジネスシーンですぐに役立つ行動パターンや言い回しを心理学の理論も参考にしながらご紹介する連載コラムです。更新は原則毎月第1火曜日。アーカイブはこちら