働き方

植物と共生する働き方改革がオフィスを変える トヨタとパソナが共同研究

SankeiBiz編集部

 働き方改革で企業の健康経営への取り組みに関心が高まる中、トヨタ自動車とパソナグループが共同で、植物と共生する空間が人間にもたらす効果について科学的な解明を目指す研究に乗り出した。海外ではオフィス緑化が先進企業で広がるなか、日本でも自動車メーカーと人材大手という異業種のタッグとともに注目を集めそうだ。(柿内公輔/SankeiBiz編集長)

コモレビズを導入したオフィス空間のイメージ
コモレビズに関する実証実験のストレス値の測定データ
疲労感軽減が期待される植物群

 ニョキニョキと伸びる草木。デスクの端末や備品を取り囲むように所狭しと並ぶ観葉植物。働きながら視界に常にグリーンが飛び込んでくる様は、従来の無機質なオフィス空間の概念を超えている-。

 パナソニックは創立百周年の節目を迎えた昨年8月、大阪市の本社総務部でオフィスをリニューアルするともに緑化環境を導入した。従業員のストレスを軽減し、リラックスしながらお互いがFace to Faceで濃密なコミュニケーションを取りやすいよう環境を整えるのが狙いだ。

最適な「緑視率」がサービスの鍵

 緑化を手掛けたのはパソナグループとパナソニックの合弁会社「パソナ・パナソニック ビジネスサービス(PBS)」。パナソニック本社オフィスのほかにも、東京建物本社ビル、月星製作所(石川県)などの企業で納入実績を重ねている。

 総務サービスなどのアウトソーシングを手掛けるPBSは、豊橋技術科学大学の松本博豊名誉教授が発表した緑視率(人の視界占める緑の割合で緑の多さを表す指標)とストレスの関係性を調べた研究結果に基づき、オフィス緑化サービス「COMORE BIZ(コモレビズ)」を展開している。職場環境をより人間に最適な自然環境に近づける「バイオフィリックデザイン」に基づいたサービスだ。

 具体的には、実証実験に基づくストレス軽減につながる緑視率と独自の植物データベースに基づき、クライアント企業のニーズに応じて最適なオフィス緑化空間をデザインしている。興味深いのは「人は視界に占める植物が多すぎてもストレスを感じ、パフォーマンスが低下する」(PBS)としている点だ。研究を進めた結果、最適な緑視率は「10~15%」であることが分かったという。

 では、果たしてそのストレス軽減効果はいかほどのものなのか。PBSによると、コモレビズに関する実証実験で、植物なしの場合に比べて、植物ありのオフィス空間の方が在席者の平均ストレス値が11%下がった。さらに植物に自然環境音を加えると24%までストレス軽減効果が高まったとしている。PBSでは昨年4月から、JVCケンウッド・ビクターエンタテインメントの空間音響サービス「Koone(クーネ)」とも協業を始めている。

トヨタグループの従業員が実験に協力

 PBSはさらに一歩進んで、今年5月21日、トヨタと共同で植物と共生する空間が人間にもたらす効果について科学的な解明を目指す研究を行うと発表した。

 トヨタは近年、自動車以外の新しい価値創造のための基盤研究を行っており、その一環として、人の健康や心身機能の維持向上に寄与する空間設計の研究に取り組んでいる。国内有数の研究機関をもつトヨタと組むことで、「コモレビズを進化させる」(PBS)狙いだ。

 主な研究テーマの柱は2つだ。まず、バイオフィリックデザイン空間がストレスや疲労の感じ方などにおいて人間にどのような効果をもたらすかを、心拍データやストレス試験などで調べる。さらに、植物が人に与える主観的指標(暖かみ、柔らかさなど)や植物の形状などを定量評価し、これらの相関関係を「見える化」する。そして「あたかも自然の森林の中にいるように感じられる」空間設計について定量評価する手法を確立したいとしている。

 実験にあたっては、トヨタ自動車未来創生センターが保有する太陽光型環境制御温室(バイオトロン)を活用し、バイオフィリックデザインに基づく複数の実験空間を製作した。被験者はまずはトヨタグループの従業員から選ばれる予定だ。

 実験では、「疲労感軽減が期待される植物群」「集中力アップが期待される植物群」「活力アップが期待される植物群」など、さまざまな植物がテストされる。植物の選定にあたっては、都内の生花店「青山フラワーマーケット」の運営会社が協力する。

先行するシリコンバレーを追う

 PBSとトヨタは共同研究の成果に基づき、2020年代前半までに「コモレビズ」を進化させた「コモレビズ2.0」として、より高度な科学的検証に基づき、企業のオフィスなどへのサービス提供につなげたい考えだ。

 米国では、アップルやグーグル、アマゾンといったシリコンバレーなどのIT企業が、オフィス空間に大胆に植物を取り入れる動きが加速している。競争の激しい業界で日夜仕事をする従業員のストレスをやわらげ、またそうしたオフィス空間に魅せられた人材が集まってくる好循環が生まれているのだ。

 日本でも政府の掛け声で働き方改革の機運が高まり、生産性の高いオフィス空間をどうつくっていくかが企業に問われている。

 PBSの岩月隆一副社長は「トヨタの持つ研究の知見とコモレビズがオフィス向けに培ってきたナレッジの融合により、新しい空間価値を見出したい。将来的には、自然界で享受できる心身浄化作用を人工空間において科学的精緻に再現するライトプレース(人間に最適な自然環境)の提供を目指す」とコメントしている。