障害者雇用、新たなひずみ 省庁が大量採用、民間企業の離職率増加
前代未聞の障害者雇用水増しを受けて再発防止策が法制化された。政府は法定雇用率の達成に向け大量採用を急いでおり、中央省庁で新たな一歩を踏み出した人もいる。しかし、早期離職や民間企業の雇用圧迫という新たなひずみも生じており、障害者雇用の課題はなお多い。働き続けるためには、活躍できる職場づくりなどの取り組みが鍵となる。
期待の人材取られる
「慣れない仕事もあるが、上司の指導を受けながら責任を持って取り組んでいる。やりがいがある。ここで働けて良かった」
春から中央省庁に勤務する40代の視覚障害の男性は、時々残業もこなしながら充実した生活を送っている。
勤めていた民間企業を事情があって辞めた後、新たな障害者限定の国家公務員試験があると知り、挑戦を決意。市販の教材で受験に備えたが、見えづらくて苦労した。だが「水増しには腹が立った。障害者の働く環境を整えたい」との思いで猛勉強した。
男性は希望した省庁に合格し、今は文書や資料の作成業務を担う。職場は、文字が見えやすいよう拡大読書器を用意するなど必要な配慮もしてくれており「満足している」と笑みを浮かべた。
水増しを受け、政府は年末までに約4000人を雇用する必要に迫られている。4月時点で28機関が2518人を採用。政府関係者は「順調に進んでいる」と胸をなで下ろす。だが民間企業では懸念していた人材の流出が続く。厚生労働省によると、国家公務員になるため企業を辞めた人は4月時点で337人に上る。
東京都内の大手企業が障害者の雇用を目的に設立した特例子会社では今春、勤続5~10年の中堅社員3人が退職し、内定者1人が辞退する「前例のない事態」(担当者)が起きた。国家公務員への採用が決まったためだ。同社から内定を得る前に就職活動を離脱する人もいつになく多い。
同社は専門職による定期的な面談を行い、多様な仕事を用意するなど障害者が働き続けられるよう積極的に支援してきた。「期待していた人材を取られてしまった」。担当者は肩を落とす。
キャリアアップ不可
だが誰もが思い描いたように中央省庁で働けているわけではない。非常勤職員で採用された身体障害の女性もその一人だ。「期待外れで間違いだった」。4月に民間から転職したばかりだが、今月退職を決意した。
以前の企業では契約社員だったため、常勤職員を目指して障害者限定の国家公務員試験を受けたが不合格に。一般事務の非常勤で働きながら、常勤になれると期待した。
だが実際の仕事は、職場の清掃や荷物の梱包など、採用面接時の説明と異なっていた。「望んだキャリアアップにつながらない。常勤なら違ったのかな」
4月までの新規採用者のうち国税庁や法務省など16機関で既に131人が退職。知的障害者の採用も依然として少ない。
このため制度を所管する厚労省は、各省庁を対象に、障害者の離職率や離職理由、職場の満足度を尋ねる「特別調査」を実施して改善につなげたい考えだ。
根本匠厚労相は「生き生きと働ける職場づくりには当事者の意見をよく聞くことが大変重要だ」と強調する。
中央省庁で4月から働く男性(46)は「私たち障害者も5年後、10年後に後輩が働いてみたいと思える職場にしていきたい」と語った。