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中国知財、「地方保護主義」台頭の兆し

 英バード&バード北京・道下理恵子弁護士に聞く

 自動車関連会社向け訴訟セミナー出席のため、このほど帰国した英バード&バード北京のパートナー弁護士である道下理恵子氏。中国知財紛争対策の第一人者だ。知財問題を契機に続く米中紛争の影響について聞いた。

 --中国の状況はどうか

 「大都市では5月下旬から一気に不景気感が高まってきた。中国政府の米国への対応に異を唱える空気が出始めるのに伴い、各種メディア規制も強まりつつある」

 --外商投資法制定、技術輸出入管理条例、中外合弁経営企業法実施条例の改正など、中国政府は知財関連法整備を進めている

 「中国側の立場から言えば、米国の言うように改正していても、その裏には駆け引きの余地を残していると思う。例えば、強制執行には強制執行官(裁判官から任用)が必要だが、実は数が非常に少ない。人員対応には研修など時間がかかる。表面では法律ができても、実務上では動かないということ。日本企業もこのような視点で中国政府の対応を的確に捉え、賢く動くことが重要になる」

 --地方の状況はどうか

 「やはり変化を感じている。地方保護主義が再び台頭する兆しがある。最近、地方で知財侵害企業に対する行政摘発を当局へ依頼しても、なぜか対応が遅かったり、情報が相手側へ漏れていたりする。地方の行政官は地域企業の税収の上にあると考えれば、不景気感が高まる中で地域企業の肩を持つ気持ちになってもおかしくはない」

 --中国は過去、知財保護環境を改善してきたはず

 「知財保護とはエンフォースメント(権利者が権利を正当に活用)できるということ。徐々に進めてきた改善が米政府のおかげでさらに進むということは確かであり、従来は勝てる案件しか訴訟しなかった外国企業もやりやすくなるだろう」

 --グローバルな訴訟地になっていく可能性があると

 「そうなる。中国企業も外国企業などを訴える国際大型裁判で最初の訴訟地にはまず中国を選ぶようになる。日本企業も米欧での訴訟だけでなく、中国での訴訟対応の強化が必要になる。例えば現在、米国では米国の情報通信関連会社が日本を含む世界の自動車製造関連会社を特許侵害で訴え始めている。訴訟地はドイツ、欧州へ広がる予定だが、同種の訴訟が次は中国から始まるとまで考えている日本企業は少ないように思われる。これには一抹の不安を感じている」(知財情報&戦略システム 中岡浩)