【ビジネスパーソン大航海時代】「大手企業発、起業家」のリアル RPA人材支援への道のり~航海(10)

 
藤澤専之介さん

 今回は、新卒で大手企業に入社し、そのあと2社を経て今ではスタートアップを創業されている藤澤専之介さん(32歳・Peaceful Morning株式会社代表取締役)についてお話させてください。

 最近はスタートアップの話題を日常的にニュースで見かけるようになりましたが、まだ少し縁遠い印象を持つ方がいらっしゃるかもしれません。

 今回の藤澤さんは安定感ある大企業から起業をされた分、読者のみなさまにとって手触りを感じやすく、キャリア選択の示唆に富んでいるように感じました。

 それではインタビューをご覧ください。

大企業から起業家になる道筋

 藤澤さんが創業したPeaceful Morningは2018年に立ち上げた会社で、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション=おもにホワイトカラーのデスクワーク定型業務をパソコンのなかにいるソフトウェア型のロボットが代行・自動化する概念)を活用した法人向け市場に特化した事業展開を行っているそうです。

 どのような経緯で会社を作られたのでしょうか。

 「実は会社をすぐに作ったわけではないのですよ。大学を卒業した時に入社したのは大手化学繊維メーカーである帝人でした。バックオフィスの経理業務を担当していました」

 なるほど、最初は大手企業に入社されたわけですね。

 「ええ。自分の性格的にまず社会人教育をちゃんと受けたいと思っていました。また、やがては海外向けのビジネスに携わりたいと思いましたので、自ずと大企業を目指しました」

 入ろうと思えば入れるものでしょうか(笑)。しかしその大企業の道も自ら捨て次に進まれたそうです。

 「3年経った時でした。起業に近い体験をするタイミングがきたと思って10人規模の人事コンサル会社に転職しました」

 それは思い切った決断でしたね。

 「実はそうでもないのです。高校2年生の時からやがては起業しようと思っていましたからね。帝人時代に経理の経験を活かして中小企業診断士にも挑戦するなど自分なりに準備を進めていました」

 なるほど、とはいっても会社の規模が大きく異なる環境で適応できたのでしょうか。

 「今の起業につながる経験をさせていただきました。新会社の立上げを行ったのです。実質自分だけがフルタイムでことにあたりましたので、帝人では考えられない初めての経験をいろいろとさせていただきました(笑)」

 例えばどのようなことが起業に活きていますか?

 「人材紹介会社を立ち上げようと思ったのですが、自分含め誰も経験がありません。そこで自分のバックグラウンドである経理業界に特化したのです。すでに会計士専門の人材会社は存在していましたので私はもっとニッチに行きました。会計事務所の営業スタッフに特化したのです。事業を広げるにあたり、関連する業界イベントに積極的に参加しました。我々の参入は後発ですから業界に知られていません。その場合このようなイベントでは多くの関係者に認知されやすいですからね」

 なるほど、スタートアップでも応用できそうな戦い方ですね。

 「ニッチながらも存在感は一定程度示すことはできました。ここまで任せてくれた社長に感謝しています。ただ、当時は会社を大きくする方法や視野がなかったのですよね。そこで改めてそれを学ぶために大企業を目指しました。人材に関連する会社の方が理解が深まると思い、インテリジェンス(現パーソルキャリア)に転職したのです」

 そこでは何を?

 「最初は人材紹介の企業側を担当しました。簡単にいうと法人営業です。26歳のときに『キャリア新人賞』という全社中途入社で最も活躍した人として選出していただくくらいに成果を出すことができました。マネジメントも経て、新規事業のプロデューサーになりました。飲食店アルバイトのシェアリングサービスを手がけまして最初は注目を集めることに成功しました」

 そして…。

 「ええ、起業することにしました。31歳のときでした」

RPAフリーランス人材領域のニッチNo.1を手がける

 ここまで順風満帆です。

 「ちょっと悩んでいたこともあって起業したんですよね」

 どういうことでしょうか。

 「子供との時間をもっと増やしたいと思ってもなかなか出来ませんでした。朝起きると子供が寝ている間にバタバタと家を出ていきます。自分で起業したら子供との時間も増やせるし、もともと起業したかったわけですし一石二鳥だなと。社名もそれに由来しています」

 Peaceful Morning(平和な朝)ですものね。

 当初はどんな事業を手掛けるつもりだったのですか?

 「子育てサービスを検討していました。テスト的にやってみたところ内輪では盛り上げるのですが、ビジネスとしてうまくいくイメージがないし、本当にやりたいことか腹をくくれませんでした」

なぜ今のRPA事業に辿りついたのですか?

 「子供との時間を大切にしたい、という思いは親にとっては普遍的ですよね。自分のように子供ともっと時間を取りたいけれども取れないビジネスマンが身近にたくさんいました。RPAは人の生産性をあげます。テーマにぴったりでした。なによりRPAは成長市場だったことも大きい」

 成長市場だとなぜ有利になるのですか?

 「成長市場は情報がないのです。たとえば人材のように成熟した市場には業界カオスマップ(業界地図)は必ずあります。私が参入したRPAにはそれすらもありませんでした。ですからRPAに特化した情報を発信するとそこに興味がある人たちが集まってきます。そうなると自分がRPA情報のハブになります。その延長でRPAのニュースサイト(RPA HACK)を作りました。情報発信を通じて業界関係者と知り合えた集大成としてRPA業界カオスマップを作成して発信しました」

 すごい流れですね…。新参者なのにそんなことをやるとは。

 「過去の人材会社立ち上げの経験から、業界内に情報発信する大切さを体で理解していました。そもそもカオスマップは便利なんです。必要だけどなかった。誰もやらないなら自分がやろうというギブの精神でした。結果的にTechCrunchという大手テック系メディアにも取り上げられる反響を得ました」

 なるほど、わらしべ長者のイメージが湧きます。そしてご自身の土地勘がある人材ビジネスを掛け合わせたわけですね。

 「はい。現在、RPAエンジニアのフリーランス就業支援に特化したサービス(RPA HACKフリーランス)に注力しています。大企業を中心にRPAの導入が進んでいますし、日本ではフリーランスが増えています。なにより自分はPeaceful Morningという社名の通り、自分で時間の管理ができるビジネスパーソンが増えることはビジョンにフィットしています。そして今の時代は特にRPAのフリーランスは求められているのです」

 実績や起業後のやりがいはどうですか?

 「わかりやすい例で言いますと、Google検索で『RPA フリーランス』で検索すると自社メディアが1位に表示されています(2019年6月13日現在)。これは今までのRPA情報発信によってユーザーが定着しているからなのです。そうやって多くのRPAフリーランスの方々が我々にたどり着いて面談した時に、自分が得意なことで社会の役に立てている実感が湧きます」

今の地道な活動こそが未来にリアルにつながる

 ひとつひとつのお話を聞くと必ずしも大きい一歩ではありません。

しかし、過去を伺ってみると藤澤さんの未来への紐付きを感じさせます。

 『経理経験』『情報発信をすること』『人材ビジネス』という過去、そして、今のRPAという時代ニーズが見事に掛け合わされ、ニッチでもNo.1のビジネスを形成したのです。

 「起業したらいろいろな人が協力してくれました。昔飲み会でしか会ったことがない人もFacebookで起業したことを告知すると力になってくださいました。日常的に信頼を得ることは大切にすべきだなと起業した後に感じました」

 読者の方にお伝えしたいメッセージをお願いします。

 「カッコいい起業、目立つ起業がメディアには出やすいかもしれません。自分は起業する前にそのようなニュースを見て羨ましいなと思っていました。いざ起業してみると気になりません。自分ができることで目の前の人の役に立つことが楽しいのです。よく考えると起業とは人生の一過性のイベントではなく長く取り組むべきことです。一喜一憂することではありません。目の前の仕事に丁寧に向き合い、信頼を獲得し続けることで、いろいろな方が協力してくださるでしょう。それが山と積まれた時に『Peaceful Morningな日常にしたい』という社会の課題解決に繋がっていくと信じています。きっと今取り組んでいる仕事のその先には、あなたを応援したいファンに繋がっていると思います。少なくとも私の人生はそうでした」

 藤澤さん、ありがとうございました。

【プロフィール】小原聖誉(おばら・まさしげ)

株式会社StartPoint代表取締役CEO

1977年生まれ。1999年より、スタートアップのキャリアをスタート。その後モバイルコンテンツコンサル会社を経て2013年35歳で起業。のべ400万人以上に利用されるアプリメディアを提供し、16年4月にKDDIグループmedibaにバイアウト。現在はエンジェル投資家として15社に出資し1社上場。
Facebookアカウントはこちら
Twitterアカウント「凡人エンジェル」はこちら

ビジネスパーソン大航海時代】は小原聖誉さんが多様な働き方が選択できる「大航海時代」に生きるビジネスパーソンを応援する連載コラムです。更新は原則第3水曜日。アーカイブはこちら