【今日から使えるロジカルシンキング】バフェット氏も実践 考えモレをあぶり出す「フレームワーク」とは
第4回 モレなく考える<基本>
会議でもっと効率的に意思決定ができたら…。上司やクライアントをもっとスムーズに説得できたら…。仕事でこんな風に思ったこと、ありませんか? この連載では、子供にロジカルシンキングを教える学習塾ロジムの主宰・苅野進が、「今日から使えるロジカルシンキング」をテーマに、ビジネスパーソンのみなさんにその基本スキルを伝えていきます。
モレてもダブってもいけない
「モレなくダブりなく」という言葉をご存知でしょうか。英語のMECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)を日本語訳したものです。物事を検討するときに、考えモレがあってはいけない。さらに、同じことを重ねて考えてしまうと非効率なのでこれも避けなければいけない。つまり「モレなくダブりなく」考えることが大事だということです。
例えば、ある企業が新製品の「売り上げ」を伸ばすことを考えて、あまりにも莫大な広告費をかけて販促していたとします。これは、企業にとって大切な利益を決める「コスト」について考えが及んでいないことになります。これが考え「モレ」です。また、同じ会社の中で「女性」を対象にした商品開発と「学生」を対象にした商品開発が同時に行われていたとすると、「女性の学生」について2つのチームが同時に商品開発していることになります。これが考えの「ダブり」です。
今回は、「モレなく考える」ためのコツを紹介していきたいと思います。さきほどの「コスト」の例のように、考えに「モレ」があると非常に危険です。場合によっては、大きな損害が発生します。それを避けるためにはどうしたらよいでしょうか? 重要な項目について考え忘れることがないようにするには、チェックリストを作っておくことが有効です。たとえば、ミスが許されない「脳死」の判定には、必ずチェックすべき5つのポイントが明確に定められています。
「フレームワーク」はビジネス界のチェックリスト
ビジネスの世界では、先人たちの経験や事例を研究することで、有効なチェックリストを作ろうという力学が大きく働いています。それは、「フレームワーク(枠組み)」と呼ばれています。フレームワークとは、ビジネスの世界で「考えモレ」をなくすために様々な業種、場面ごとに開発されたチェックリストです。経営コンサルティング会社や大学教授、ある分野を専門に扱っている企業などが開発し、発表・共有されています。有名なものを簡単に紹介します。
業界を分析する「5F」
業界内で勝ち抜こうとすると、目の前にある競合他社のことばかり考えてしまいがちです。しかし、それでは考えモレがあるのです。(1)競合他社に加えて、(2)新規参入業者(3)代替製品(4)顧客(5)原材料納品業者―の合計5つの勢力(five forces)ついて確認しようというチェックリストです。
最適なマーケティング手法を練る「4P」
物を売る時にどれだけよい(1)製品(product)を作るかということだけを考えていてはいけません。それに加えて、(2)Price:価格(3)Place:どこで売るか(4)Promotion:どう宣伝するか―の合計4つのポイントを考えようというチェックリストです。
顧客から聞き忘れてはいけない「BANT」
商談をまとめるにあたって相手から聞き出しておきたい重要な情報です。
B:budget(予算)
A:Authority(決済権限者)
N:Needs(必要性)
T:Timeframe(納期)
とくに把握することを忘れていけないのは「A:決済権限者」です。若手ビジネスパーソンのみなさんが相手企業の最終決裁者と直接交渉できる機会は少ないと思ったほうが良いでしょう。つまり、目の前の交渉相手に納得してもらうだけでなく、目の前の交渉相手が、社内に持ち帰って彼らの上司に説明をするという段階が残っているのです。
相手に「なんとなく良い気がする」と思ってもらった程度では、その後の社内での説明がうまくいかないでしょう。目の前の交渉相手が、あなたの代わりに上司にプレゼンをすることを考えて、情報の共有をしていく必要があります。
プレゼンに組み込みたい「FABE」
自社製品の機能の説明に終始していては相手は納得してくれません。
Feature (特徴)
Advantage (優位性)
Benefit (顧客利益)
Evidence(証拠)
の4つをバランスよく説明すると良いと言われています。
これらフレームワークはあくまで大きな考えモレ・ミスを避けるためのものなので、これだけで完璧というものではありませんが、書店やネット上には様々なフレームワークが紹介されています。積極的に情報を集めて、ストックしておくとよいでしょう。
また、フレームワークとして明文化されていなくても経験を積んだ経営者・ビジネスマンはそれぞれが独自のチェックリストを持っているものです。たとえば世界的に有名な投資家のウォーレン・バフェット氏は「投資を成功させるために必要なのは、ずば抜けたIQの高さではない。必要なのは意思決定を行うための健全で知的なフレームワークだ」と言っています。そして同氏が率いる米バークシャー・ハサウェイが2017年に公表した年次レポートには、同社が投資の基準として6つのチェックリストが明記されています。
最前線で様々な経営判断を毎日のようにしている人たちは、他人から見ると「独自の嗅覚」とでも言いたくなるような判断力を持っています。身近にいる優秀な先輩も経験を活かした独自の行動指針とも言えるチェックリストを持っているはずです。貪欲にコミュニケーションをとって、そういった「判断力」を自分のものにしていくとみなさんの成長は格段に早くなっていくでしょう。
点検を重ねていて遅れるのはNG
最後に、考え「モレ」を完全になくすことはほぼ不可能です。そもそも思いつかないから考え「モレ」が発生するわけですので、その性質上常に考えモレの可能性は残っています。ですから「モレなく、ダブりなく」を意識し始めの頃は、
・考えモレを怖がって、いつまでたってもチェック
・検討し続けていて物ごとを前に進めることができない
という状態に陥ることがあります。これは若手だけでなく、組織全体にもよくあることで、日本の企業では
・点検を重ねていたので物事の進行が遅くなりました
というのは大概許される文化があります。しかし、競争のあるビジネスの世界ではそのうちに相手が前進していたということがありますので、「ある程度の点検」を素早く実行して、進みながら考えるという技術も必要なのです。
そういう視点で考えると、若いみなさんの立場では、「このような項目についてチェックしました」という過程を必ず上司・顧客となるべく早い段階で共有することをおすすめします。「本当にそれだけ考えればいいのかな?」という不安はあなたひとりで抱えるものではなく、関係者全員が知識と経験を動員して対応していくものなのですから。「絶対大丈夫」と言い切れない状況を正確に受け止めていくのがビジネスの世界なのです。
次回はこの「フレームワーク」を使って、問題を解いてみましょう。
【プロフィール】苅野進(かりの・しん)
経営コンサルタントを経て、小学生から高校生向けに論理的思考力を養成する学習塾ロジムを2004年に設立。探求型のオリジナルワークショップによって「上手に試行錯誤をする」「適切なコミュニケーションで周りを巻き込む」ことで問題を解決できる人材を育成し、指導者養成にも取り組んでいる。著書に「10歳でもわかる問題解決の授業」「考える力とは問題をシンプルにすることである」など。東京大学文学部卒。
【今日から使えるロジカルシンキング】は子供向けにロジカルシンキングのスキルを身につける講座やワークショップを開講する学習塾「ロジム」の塾長・苅野進さんがビジネスパーソンのみなさんにロジカルシンキングの基本を伝える連載です。アーカイブはこちら
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