ブラック企業をやめられないのも“依存”…最新ルポ漫画の怖い中身
お酒にギャンブル、ゲームなど、さまざまな依存から抜け出した14人の体験談をつづったルポ漫画「ずっとやめたかったこと、こうしてやめられました」(サンマーク出版)が5月に刊行された。多くの人にとっては無縁と思われがちな病気だが、専門医は書中で「『やめたいのに、やめられない』ことがあれば、プチ依存の状態」と指摘。さらにはブラック企業を辞められないのも「心理的に依存に近い」とする。一冊をとおして浮かび上がるのは、依存の背景にある自己肯定感の低さや親子関係だ。(藤井沙織)
隙間時間のつもりが…
著者はイラストレーターの汐街(しおまち)コナさん。2年前には、過労自殺しかけた経験をもとに「『死ぬくらいなら会社辞めれば』ができない理由(ワケ)」(あさ出版)を執筆し、12万部超となった。
今回の著書で当事者として最初に登場するのは、汐街さん自身だ。移動中や寝る前などの「隙間時間にやっている」はずのスマートフォンの使用時間が、実際には1日6時間超と判明。依存症の専門医、大石雅之氏に「プチ依存」と指摘されるところからお話が始まる。
その後は、お酒やギャンブル、ネット、ゲームに買い物など、さまざまな依存から抜け出した人たちが登場。依存対象は異なっても、多くのケースは、最初は楽しんでいたことがいつの間にかストレス解消の手段となり、次第にそれがないと辛い現実に立ち向かえなくなる-という構図だ。また背景には、厳しかった親や世間の価値観による抑圧、自己肯定感の低さといった共通点も。だが買い物依存だった女性は「自分以外の何かのせいにしている間は、抜け出すのは難しい」と語る。
“洗脳”が入り口の依存
体験談の中でも異色なのが、ブラック企業への依存だ。登場するのは、ブラック企業を2社経験したという女性。長時間労働で外部との関係が遮断された中、上司から「無能!」「他では通用しない!」などと叱責され、たまに優しくされるという「DVと同じやり口だった」。過労による判断力の低下とパワハラによる自己肯定感の低下で、「つらい日常から抜け出せなくなっていた」と打ち明ける。
他の多くの依存と異なり、入り口は楽しさではなく洗脳だ。大石氏は「ブラック企業を辞められない」、または「DVをしてくる相手と別れられない」という状態について、「医学的に『依存』と言い切ることはできないが、心理的に非常に依存と近く、『依存的』と言って問題ない」と分析。自分のことをコントロールしようとする人▽「アメとムチ」による二重洗脳▽外部との関係を遮断してくる人-に気をつけるよう訴える。
「早く自分で」気付いて
お酒もゲームも買い物も、人生を楽しくしてくれるツール。現代ではネットも生活に必要不可欠な存在だ。誰もが依存症になり得る中で、大切なのはプチ依存の段階で「できるだけ早く、自分の状況に気付くこと」だと大石氏。そのためには、対象にかけたお金や時間などを把握して「客観的になることが大事」とアドバイスする。ブラック企業などが対象の場合は、相手にされた行動を書き出すことが効果的だという。
さまざまな体験談を聞き終え、「楽しくない現実と向き合う力になるのは、自己肯定感。簡単なことから少しずつ成功体験を積んでいくことが大切」と感じた汐街さん。依存に心当たりのある人に向けて、「この本を読んで、人生がちょっとでも良くなるキッカケになれば」と話している。
関連記事