【東京商工リサーチ特別レポート】人気演劇集団キャラメルボックス破綻の深層 大物俳優頼み、未払いも

 
上川隆也さん

 「演劇集団キャラメルボックス」の運営母体で、東京地裁から破産開始決定を受けたネビュラプロジェクト(東京都中野区、加藤昌史社長)の破綻原因は、観客動員の減少だった。東京商工リサーチ(TSR)が独自に入手したネビュラプロジェクトの「破産申立書」でわかった。さらに、劇団員やスタッフの給与が未払いになっていることがわかった。劇団員らは劇団存続のために賃金未払いでも公演を続けていた。

大作の公演権獲得も裏目に

 申立書によると、キャラメルボックスは1986年の第1回公演以降、着実に観客動員数を伸ばしてきた。だが、2001年頃から観客動員数に陰りが見えた中、脚本・演出担当の成井豊氏の執筆も進まず、劇団外の作家の作品にシフトしていった。これが成井氏の脚本・演出で呼び込んでいたファンの離反を招いた。

 さらに、追い打ちをかけるように2008年のリーマン・ショック、看板俳優の上川隆也さんの退団もあり動員数は一気に減少した。上川さんの出演舞台が、会社の運営経費を賄う歪な収益構造だっただけに、上川さんの退団は大きな痛手になった。

 また、多額の費用を投じて「夏への扉」(著・ロバート・A・ハインライン)の公演権を獲得したが、東京公演中に東日本大震災(2011年3月)が発生。観客動員は予定の3割にも届かず、公演数の増加などで挽回策を図ったが浮上できなかった。こうした状況から2018年末、成井豊氏が加藤昌史社長にキャラメルボックス休団の意向を伝えたという。

 協議を重ねた上で2019年5月末での休団を決定すると同時に、債務を履行できないことから破産申立を決断した。

 ネビュラプロジェクトは6月19日、東京地裁から破産開始決定を受けた。

演劇界有数の知名度、ピーク時年商は10億円

 ネビュラプロジェクトは1985年創業の演劇興業会社。同社が運営するキャラメルボックスは早稲田大学の演劇サークル出身者を中心に結成された劇団で、脚本・演出家の成井氏らが旗揚げ。人気俳優の上川さんがかつて所属し、演劇界では有数の知名度を誇っていた。

 同社はキャラメルボックスの公演企画、ノベルティ製作、俳優マネジメントを手掛ける運営会社として2006年1月期は売上高約10億1000万円をあげていた。

 しかし、その後は観客動員の伸び悩みなどから売上は減少に転じ、2018年1月期は売上高約5億円に落ち込んでいた。こうしたなか、2019年5月31日にはキャラメルボックスが公式サイトで活動休止する旨を発表していた。

 なお、ネビュラプロジェクトの関連会社2社も破産開始決定を受けていたことがTSRの取材で判明している。

 東京地裁から破産開始決定を受けた2社は、公演で使用する楽曲の著作権管理などを手掛けるキャラメルボックスエンタテインメント(東京都中野区、加藤昌史社長)、劇団員のマネジメントを行うネヴァーランド・アーツ(中野区、同社長)。

 負債は両社とも100万円に満たない。あくまでネビュラプロジェクトに依存し、一部門の色彩が強い経営だったとみられる。

未払いでも公演を続けたスタッフ

 TSRの取材で、破産申請時の債権者数は228名、負債総額は5億2071万円だったことが判明している。そのうち、劇団関係の債権者数は65名で、債権額は合計1億9779万円に達する。このうち、劇団員は45名で債権総額は6318万円。1人当たり平均額は140万円に及ぶ。最高は、出演料等で790万円だった。

 また、スタッフ20名の債権総額は1億3461万円で、1人当たり平均は673万円。20名分の内訳は、未払給与9810万円、退職金3587万円、解雇予告手当63万円だった。

 未払給与は、2015年の退職者分から生じ、退職金は2014年から未払いが散見されていた。

 キャラメルボックスは2009年以降、観客動員数が落ち込み、多額の予算を投じた劇団25周年記念公演も開催中に東日本大震災が直撃し、深刻な経営不振に陥った。しかし、その後も劇団員やスタッフらは、劇団存続のために賃金が未払いでも公演を続けていた。

 国内有数の知名度を誇る劇団だったが、苦しい経営のなかで公演回数を増やすなど事態の改善を願った劇団員、スタッフの思いは通じなかった。稽古などで相当な時間を拘束される劇団員、スタッフへの賃金支払いは、演劇界にとって決して対岸の火事ではない。

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