共に暮らす 外国人「1千万人」青写真は 宗教や価値観、厳然と残る「壁」

 

 無邪気にポルトガル語を話す日系ブラジル人の子供たちと、その横で何を言っているか分からず、距離を置く日本人の子供たち…。

 愛知県豊田市の保見ケ丘地区にあるマンモス団地「保見団地」。地区の人口7296人(5月1日現在)のうち6割近い4075人は外国籍で、大半が日系ブラジル人だ。

 団地内の中学校は生徒の半分、地区に2校ある小学校の1校は児童の7割が外国籍。校内では、ブラジルの公用語であるポルトガル語が当たり前に飛び交っているが、一方で日本語が上達せず、授業が理解できない子供も増えている。言葉が通じず、学級崩壊に陥っているクラスもある。

 「ここは、30年前に生まれたゆがみを今も抱えているんです」。同団地に住む日系人の子供らの学習支援を行うNPO法人「子どもの国」の井村美穂理事長(57)は、こう訴える。

 きっかけは平成2年、海外にいる日系2、3世に日本の「定住者」の在留資格を与えた出入国管理法の改正だった。職を求めて日系ブラジル人らが次々と来日。豊田市は自動車メーカーのトヨタが本社を置くこともあり、保見団地には自動車関連の工場などで就労する日系ブラジル人が大勢住むように。まもなく以前からの住民との間で、軋轢(あつれき)が生じるようになった。

 井村理事長の団体など複数の民間団体が支援に乗り出し、行政や住民、警察、企業による協議会も設置された結果、目立った摩擦は影を潜めたが、今も歴然と“壁”は残っている。

 日本人として接するべきなのか、外国人として支援策を講じるべきなのか。住民の多くは戸惑っているのが実態だ。

 ある市関係者は、政府が外国人の受け入れを「移民政策」とは位置付けていないことを引き合いにし、こう話した。「根本的な対策が取れないまま、ゆがみができあがった。政府の建前が、彼らの立場をあいまいなものにしたんだ」

 日本に住む外国人は平成から令和で3倍近くになった。平成元年に98万人だった在日外国人数は、30年末の段階で273万人に。多くが「日本で働く」ためにやってきた人々だ。

 昨年12月には、一定の技能を持つ外国人を対象とした新就労資格「特定技能1、2号」を創設する改正入管法が成立。今年4月に施行され、日本は単純労働分野での外国人受け入れを明確に示した。

 外国人労働者が増える構図は、平成も令和の時代も変わらない。企業側は「安価な労働力」として期待し、外国人の側にも、自国では得られない高い水準の給与を得るというメリットがある。東南アジアを中心に外国人の日本への関心は令和に入ってさらに高まっており、日本語能力試験の受験応募者は過去最多を更新した。

 少子高齢化に伴う労働人口の減少は深刻であり、今後もその流れは加速するはずだ。信用調査会社「帝国データバンク」が4月に行った調査では、「正社員が足りない」と回答した企業は50・3%。4月としては平成18年5月以降、最高だった。

 政府は、今後5年間で約34万5千人(年間平均約7万人)の外国人労働者の受け入れを見込む。気がつけば隣人は外国人-。保見団地の光景は、やがて珍しくなくなる。

 目を見張るような“データ”がある。40年後、日本国内の10人に1人が、外国人になるかもしれないというのだ。

 総務省によると、日本の外国人人口は平成30年は前年比で6・6%(約17万人)増加。みずほ総合研究所の岡田豊主任研究員は、「新制度で1年間に7万人ほどが来日した場合、(前年比の増加数の)17万人と合わせ、単純計算で毎年25万人程度の外国人が増える可能性がある」と話す。毎年25万人の増加が仮に40年間続けば1千万人。日本の人口が細る中、相対的に数は増していくことになる。

 こうした事態を想定し、政治は具体的な議論を喚起すべきだが、参院選に向けても低調なままだ。

 多文化共生に詳しい名城大の近藤敦教授(憲法学)は、「今後、外国人住民への施策は全国各地で重要性を増してくる。ただの出稼ぎではなく、日本で暮らしたいと思う人々といかに共生するのか。国は理念を基本法としてまとめ、方向性を打ち出す必要がある」と指摘する。

 欧米各国を覆う移民問題は、決して対岸の火事ではない。宗教や価値観の違う人々との共生が、いかに難しいかを如実に物語っている。これからの「国のありよう」をどうするのか、有権者の側も真剣に答えを探さなくてはならない。(橋本昌宗)