【5時から作家塾】英語のやり取りでは「時候」の代わりに何話す? 英会話でのビジネスマナー

 
ビジネス会話のマナーは文化によってさまざま(画像:Pixabay)

 日本語学習者に不評な「時候の挨拶」

 海外でビジネス目的の日本語を教えていて、ある程度のレベルに達した生徒からブーブー文句を言われる学習事項の一つに「時候の挨拶を含む一連のご挨拶」がある。

 簡単なメールを一本入れるだけなのになぜ「拝啓」などの意味の分からぬ頭語から始め、「貴社ますますご清栄のこととお喜び申し上げます」や「風薫る五月、貴社の皆様におかれましては…」などと今どき聞いたこともないサムライ風の挨拶をし、やっと本題を言えたと思ったら今度は「暑さ厳しき折、ご一同様のご健康をくれぐれもお祈り申し上げます」などと祈ってもいない相手の健康に結びの言葉で言及し、更にダメ押しで「敬具」などと謎の言葉(結語)を足さねばならぬのか? と、非常に不評だ。

 しかし形式と礼儀を重んじる日本語でビジネスをする際、「先週注文分の納品はいつですか? 以上」などというメールはかなり拙い。コピペでもいいからとにかく毎回入れろ、と口を酸っぱくして言うことになる。

 英文ビジネスメールの「一連の挨拶」、日本と違う点は?

 しかし一方、そんな風に日本のビジネスコミュニケーションの煩雑さに文句を言う英語圏(と言っても広いので、この稿では筆者がやり取りをした経験のある英米や英語の通じやすい西ヨーロッパあたりの、無難なビジネス文化を指すこととさせてほしい)のビジネスマンたちにメールをしたり電話をしたりする時に、いきなり要件を述べていいのか? というと、やはりそれはちょっと拙いのだ。

 端的に言うと、彼らのビジネストークは、「ちょっとした個人的なおしゃべり」を枕にすることが多い。そしてこれができるとぐっと距離感が縮まって話がスムーズになるのだが、これはつまり相手に興味を示し、そして一度聞いたことは覚えていないといけないということで、これが純日本人の筆者にはかえって難しかったりする。

 特に筆者が生活のベースとしているオランダは、皆さんビジネス好きでおしゃべり好き。「本題」しか頭に置かず取材先に電話をして気まずい思いをしたり、英語でメールを打っていて「えーっと、どうやって結ぼうかな?」と手が止まったことも一度や二度ではない。

 それでも数年の蓄積で「無難なビジネス冒頭トーク」を(主に仕事相手から)ある程度学び、かつ世界中の取引先と日々やり取りをしている会社員のヨーロッパ人の夫からも色々な体験談を聞いたので、皆さんと共有したい。

 初回は「△△という者で、○○の仕事をしているのですが」

 もちろんメールにしろ電話にしろ、初めてコンタクトを取る相手にいきなり「最近どう?」とは聞かない。ちょっとした違いがあるのは名乗り方で、日本ならば「〇〇社の△△ですが」と所属する会社名→名前の順に述べることが多いように感じるが、欧米では「Hello, my name is △△. I work as a web designer at 〇〇(私は△△です。ウェブデザイナーで、〇〇社で働いております)」などと、「名前」「自分の仕事内容」「会社名」の順で名乗るのが一般的。

 組織重視の日本文化と個人重視の欧米文化が如実に表れている気もするが、これはパーティなどで「お仕事は何ですか?」と聞かれた時も同じ。誰もが知る一流企業に勤めていようが、「〇〇の社員です」と会社名を告げると「で?(あんたは何の仕事をしているの? 何ができるの?)」という反応が返ってくる。

 自分が何者か明らかにすれば、あとは安心して「I am writing this email to~(~のためにメールしております)」などと本題に入ってよい。

 2度目以降のコンタクト(1)時候の挨拶編

 2度目以降のコンタクトの場合は、本題に入る前にちょっとした「個人的前置きトーク」が必要になる(ここを飛ばすと、いかにもぶっきらぼうで、無教養な印象を与える)。

 メールの場合は「To 〇〇」「Dear 〇〇」と親しみを込めて名前(礼儀を重んずる日本人としては相手をMr.〇〇などと姓で呼び続けても失礼には当たらないが、よそよそしい印象は与える。距離感と立場の違いが余程なければファーストネームの方が親しみが伝わる)に言及した後は、ちょっとした前置きトークを挟む。

 世界共通で無難なのは季節や天候に関すること。

 「It is boiling hot here in Tokyo, how is the weather over there?(東京は非常に暑いですが、そちらはどうですか?)」などといった季節の天候に関することや、祝日が近ければ、

 「Are you ready for Christmas?(クリスマスの準備はお済みですか?)」

 「Did you have a nice vacation?(良い休暇を過ごされましたか?)」など。

 月曜日にメールするのなら、

 「I hope you had a nice weekend.(良い週末を過ごされたことをお祈り申し上げます)」

 電話での会話だったり、メールでも特に言及したいことがなければ、

 「How is everything going?(諸々どうですか?)」

 「How are you doing?(お元気ですか?)」

 でもいいから聞こう。

 メールのやり取りが続いているのであれば、

 「Thank you for your quick (kind) reply.(早々の(ご親切な)お返事をありがとうございました)」

 などと感謝を伝えてもいい。

 2度目以降のコンタクト(2)個人的な話題編

 さて、忘れっぽく赤の他人に興味のない筆者にとって一番難しいところだが、できると気遣いと人柄が一気に伝わるのがこれ。

 手元にある相手や相手の国の情報から、ちょっとした質問をしてみるのだ。

 「注文が立て込んでいる」「こちらはすごく寒い」「もうすぐ赤ちゃんが生まれる」など、前回のコンタクトで相手が言っていたことを覚えていたら幸い、それらがどうなったか聞いてみよう。電話でもメールでも「How is it going with ~?(~はどうですか?)」でOK。

 もし最近ニュースで相手の国の情報を見ていたら、例えば

 「I saw it on the news that you are having a big heat wave in Europe, is everything ok with you?(ヨーロッパがひどい熱波に襲われているとニュースで見ましたが、そちらは大丈夫ですか?)」

 などと尋ねると、ニュースを見てその人の身を案じた思いやりが伝わる。

 ちなみに以前、同じ職場で働いていた同僚は、産休明けに取引先と電話するたびに「おめでとう」を言われ、もちろん「赤ちゃんの調子はどう?」と聞かれ、毎回いかに生まれたての自分のベビーが可愛いかを長々と語っていた。カルチャーショックであった。

 結びの文

 本題を伝えた後は「Sincerely, 」「Best regards, 」「Take care」などの敬意を表す言葉とともに自分の名前で締めてもいいのだが、できればその前にもう一言結びの文を挟んで軟着陸したい。

 「Have a nice weekend (evening)!(良い週末(晩)を!)」

 「I wish you a very merry Christmas.(良いクリスマスを)」

 など、次にコンタクトを取るであろう時まで相手が良い時間を過ごせるように願ってもいいし、もし午後にコンタクトを取った相手が忙しそうなら

 「Please take a very good rest this evening.(帰ったらよくお休みくださいね)」

 相手が体調不良を抱えていたら

 「Please take very good care of yourself.(どうぞくれぐれもご自愛ください)」

 などと、ひとこと優しさを伝えるのを忘れないようにしたい。

 一度でも相手の家族に会ったことがあったり、家族の話を聞いたことがあれば、

 「I wish you and your family a great summer!(ご家族とご一緒に素敵な夏を!)」

 と言及すると、家族のことも思いやってくれていると喜んでもらえるだろう。

 「個人的前置きトーク」ダメな例

 蛇足だが、そこそこの規模のウェブショップで仕入れ担当として勤務し、日々世界中の取引先とコンタクトを取っている筆者の夫から聞いた「ダメな例」をいくつか。

 その一は、とあるアジアの国の営業担当の女性。メールの最後をいつも「I wish you happy every day.(あなたの幸福を毎日祈っております)」という挨拶文で締める。夫いわく「いや嘘でしょ、てか本当だったら怖いし」。あまりに個人的・熱心に聞こえる挨拶、見え透いたリップサービスはさすがにNGだ。

 その二、オランダ人にありがちなパターン。礼儀として聞いた「お子さんは元気?」「ホリデーはどうだった?」という質問に、ノリノリで長い答えを返す人。夫「実は興味ないよ、本題に入らせてくれよ!」

 その三、これはビジネスに限らず一般的にタブーだが、宗教と政治の話。これらのトピックに関しては、私たち日本人には想像もつかぬほどの熱量を持つ人たちが世界には多数存在する。軽々しく挨拶には使わない方が無難だ。逆に無信心な私の夫は、悪気はなくても挨拶として「神のご加護を」などと言われると、「いえちょっとあなたの神さまどなたか存じませんし、ご加護とか結構です」と気味悪い気分になるという。まあこちらに関しては特定の宗教に入れこまない多数派の日本人はセーフだろうと思う。

 逆に聞かれた場合の返し方

 それからこれはどんな話題でも同じだが、もし向こうからこうした質問をされた場合、答えは「短く」「ちょっとしたポジティブな小ネタを入れて」返そう。

 別に特別なことでなくても、例えば「良い夏休みを過ごされましたか?」と聞かれたら、「2泊だけ高原の民宿に泊まったのですが、すごく涼しくていいところでしたよ。日本へお越しの際にはぜひ」とか、「どこへも行かずに家でゆっくりしましたよ。いい休養をとって元気いっぱいです」とか。

 日本人の礼儀として謙遜して不幸な話をすると、向こうがフォローしなくてはいけなくなり面倒な思いをさせるし、「夏休みなんか取れませんよ!」などと愚痴れば、「この国人権大丈夫?」と後進国の印象を与えかねない。

 そして最後にとても大事なこと。忙しくて時間を割きたくないのに電話口で相手に「How’s it going?(調子はどう?)」などと聞かれた時は、

 「Good, good!(良好ですよ、良好!)」

 などと短く返してもいいが、必ず「And you?」と聞き返すのを忘れずに。そうしないと「自分のことだけ話して会話を終わりにする人」という独りよがりな印象を与える。

 こうしてみると、フォーマットのある「時候の挨拶」の方が簡単で手短に終わるんじゃ? と思ってしまうが、それは筆者が日本人だからであろう。

 オランダ語では「praten over koetjes en kalfjes(牛とか子牛とかの話をする)」と表現される、アイスブレーカーとしての他愛のないおしゃべり。ぜひビジネスシーンにご活用を。(ステレンフェルト幸子/5時から作家塾(R)

 《5時から作家塾(R)》 1999年1月、著者デビュー志願者を支援することを目的に、書籍プロデューサー、ライター、ISEZE_BOOKへの書評寄稿者などから成るグループとして発足。その後、現在の代表である吉田克己の独立・起業に伴い、2002年4月にNPO法人化。現在は、Webサイトのコーナー企画、コンテンツ提供、原稿執筆など、編集ディレクター&ライター集団として活動中。▼5時から作家塾(R)のアーカイブはこちら