本日、第25回参議院議員通常選挙(参院選)が公示された。噂されていた衆参W選挙は回避された。年初には改憲の国民投票を兼ねたトリプル選挙になるとの見方もあったが、これもなくなった。
解散か、4年の任期満了で行われる衆議院議員総選挙とは異なり、参院選は「通常選挙」である。議員の任期は6年で解散はない。3年に一度、半数を改選することになっている。何かのテーマについて国民に問う(はずの)衆院選とは意義が異なる。議員の任期とも相まって、中長期で我が国のことを考える選挙である(はずである)。
薄い存在感に落胆?
さて、この参院選について「働き方」という観点から考えてみよう。各党の公約をもとに論じることにする。
しかし、このお題を編集部から頂き、快諾したものの、実際に読み始めて戸惑ってしまった。「働き方」に関連する政策は各党ともにやや地味で、存在感が薄い。消費税増税が決行されることや、年金問題などから、国民の関心が生活に移っていること、「働き方改革関連法案」が成立、施行された後の選挙であることも要因としてはあげられるだろう。
ただ、ちょうど経団連会長やトヨタ自動車社長から「終身雇用はもう持たない」という発言が飛び出した時期であり、新卒一括採用を見直す動きもある。一方で、政府内では70歳までの定年延長を後押しする制度の検討も進んでいる。テレビドラマ『わたし、定時に帰ります。』がヒットするなど、相変わらず国民の関心は高いはずだ。やや寂しいと言わざるを得ない。
さらには、この「働き方」に関する政策の物足りなさが、国民に対して何かを隠したい、今はこれを論点にしたくないからというのなら、タチが悪い。2017年の衆議院議員総選挙においては、自民党は「働き方改革」と政策を総論で語っていた。もちろん、これは様々な取り組みによって成り立っているがゆえに、まとめて表記したい気持ちも分からなくはない。しかし、結果として野党が「残業代ゼロ法案」と批判することによって「高度プロフェッショナル制度」の存在が可視化された。
もちろん選挙の公約は細かくなりすぎても有権者は理解しきれない。諸々の事情はあるだろう。ただ、「解雇の金銭的解決」「高度プロフェッショナル制度の対象拡大」など、賛否を呼ぶ政策こそ公約に掲げるべきではないか。前述した、日本的雇用のこれからに関する論点もそうだ。
最低賃金の引き上げ
各党が言及している論点の一つは「最低賃金の引き上げ」である。実情に配慮しつつ年率3%を目途として、名目GDP成長率に配慮しつつ引き上げ、全国加重平均で1000円を目指すことを掲げる自民党、2020年代前半に全国平均で1000円超に、20年代半ばに47都道府県の半数以上で1000円以上に引き上げるとしている公明党など、与党は現実的な根拠と指標をもとに控えめな数字を出している。
これに対して野党は、中小零細企業の支援を拡充しつつ5年以内に1300円に引き上げるとする立憲民主党、「全国どこでも時給1000円以上」の早期実現を打ち出す国民民主党、全国一律で時給1000円とし1500円を目指すとする社民党、全国一律の最低賃金制度を創設しただちに1000円に引き上げた上で1500円を目指す他、賃上げ支援予算の増額や社会保険料の事業主負担を減免する共産党など、与党よりも高めの賃上げを目指す方針が打ち出された。
いまや日本は先進国の中では、決して労働者の収入が高い国とは言えない。賃上げは与野党ともにずっと叫んでいることである。現実路線の与党、強気な野党という色が鮮明になった。もちろん、各党が政策で言及している通り、これは労働者にとっては歓迎すべき施策ではあるが、特に中小零細企業を圧迫する施策でもあり、各党とも配慮が伺える。もっとも、野党の1,500円という金額にしても、社会運動などで叫ばれてきたことであり、切実な課題でありつつも、目新しさはない。現実的な路線とも言えるが、夢を感じられるような特色が欲しかった。
就職氷河期世代支援
選挙前に大きく話題になったのは、自民党の就職氷河期世代支援だ。今回の公約集でも打ち出されている。これは既定路線であるがゆえに、実効性が問われる。就職氷河期世代の呼び方を変更した「人生再設計第一世代」という言葉がネット炎上するなど、これは本当にこれらの世代に配慮した政策なのか疑問視する声もある。これらの世代をどう捉えるのか、打ち手に実効性があるのかも問われる。
立憲民主党は官民の非正規雇用をできるかぎり正規雇用化し、ワーキングプアを解消するとしている。正規と非正規の格差是正も課題だが、そもそも正規雇用は働きやすいのかという点が問われる。
2017年の衆院選に続き生産性革命、人づくり革命、AIなどの利活用を打ち出す自民党、1時間単位の有給取得を促す公明党、残業代完全支払い・みなし残業禁止や、LGBT(性的少数者)差別解消法の制定など多様性を打ち出す立憲民主党、雇用や賃上げに応じて法人税率に差をつけるとする国民民主党、公務員の給与カットや削減を打ち出す他、高齢者の活躍を応援する日本維新の会など、各党独自の政策や、強く打ち出している点はあるにはある。与党以外ではWi-Fi環境の強化を大きく打ち出すなど、国民生活にとって日常的に関係ある点をアピールする国民民主党の政策集は特にわかりやすいものだった。
もっとも、これらのラインナップを見ても、何か物足りなく感じる人も多いことだろう。選挙が終わった後に、国民にとって不利な政策が進む可能性だってある。
選挙には必ず行こう
選挙期間は政治家の話を身近に聞くことができる機会である。会いに行けるのだ。支持政党かどうかは別として、各地で演説などがある際に、足を止め、握手しつつ「○○はどうなっているんですか」「こんな制度を導入してほしい」など、労働者として困っていること、モヤモヤしていることをぶつけることをおすすめする。そして、選挙には必ず行くように。一票の格差の問題もあるし、無力感を抱く人もいるだろう。ただ、これは微力ではあるが、無力ではない。
むしろ、この政策集に出ていない、自分なりの問題意識を直接政治家にぶつける。最終的に投票で意思表示をする。そんな選挙期間にしよう。私も可能な限り、演説会に足を運び、必ず投票には行くつもりだ。
【働き方ラボ】は働き方評論家の常見陽平さんが「仕事・キャリア」をテーマに、上昇志向のビジネスパーソンが今の時代を生き抜くために必要な知識やテクニックを紹介する連載コラムです。更新は原則隔週木曜日。アーカイブはこちら