【ローカリゼーションマップ】ラグジュアリーブランドにも時代の試練 それでもサスティナブルな理由
「ラグジュアリーブランド」とは、毀誉褒貶が極めて激しい言葉ではないかと思われる。ものを見る目がない人が「すがる」対象である場合、往々にラグジュアリーブランドは品位のなさの証として非難される。
一方、量ではなく質を重視した商品としてのラグジュアリーブランドの評価は高い。特にファストファッションに代表される低価格帯の大量生産品は、「生活の質に貢献しているのか?」「地球の環境に多くの無駄を産んでいるのではないか?」と問われるなかにあって、ラグジュアリーブランドは1つの方向を示す。
「ラグジュアリーブランドはサスティナブル(持続可能)なビジネスである」と語る、ラグジュアリーマネジメントの専門家がいる。ミラノ工科大学のビジネススクールで教えるアレッサンドロ・ブルンである。彼と昼食を共にしながら雑談した。
アレッサンドロは「長期間の使用に耐える商品をつくることは、環境の視点からも同意を得やすい」と話す。
まず彼が強調するのは、世界どこでも通用するラグジュアリーと称されるブランドが存在するのではなく、そのブランドをラグジュアリーと見なす文化が対象とするマーケットにあるかどうかである、という点だ。ドイツのラグジュアリーと中国のラグジュアリーは違う。
「ロシア人は値段しかみない」とよく陰口を叩かれる。が、ロシア人もロシアの文化から生み出されたものが、外国で正当に評価されないとの不満があるはずだ。
日本の茶器が日本国内で高額で取引される商品であっても、それが茶の文化のない世界では高額にならないのである。
そして、一品モノではなく、ある程度の数があってラグジュアリーブランドと称される。もちろんアンティークやファインアートの作品は外れる。
繰り返しになるが、ラグジュアリーブランドとはコンテクストの共有と理解が鍵なのだ。よって文化のアンバサダーでもある。
ラグジュアリーブランドに決まった定義はない。が、そのネタとなるものは世界各地に同様にある。しかしながら、世界に多く通用するラグジュアリーブランドの多くはフランスとイタリアにある。
米国にもあるがマスマーケティングの上級版の色彩が強い。ドイツにもないわけではないが自動車産業に集中し、「彼らがラグジュアリーという観点で質を第一優先にする方角を見ているとは言い難い」(アレッサンドロ)。
スイスの時計産業もラグジュアリーのレンジである。しかし、それ以外の分野で語るべきものが少ない。そうするとライフスタイルに関わるもの、即ち「機能性を第一に問わない」ジャンルの商品での実力がラグジュアリーの見せ方になるとしたとき、仏伊がダントツということになる。
「フランスは政府とコングロマリットが、ラグジュアリーのステイタスを維持するべく必死になっている。イタリアにはフランス企業に買収される例があり、いろいろと負けがこんでいる。よって、今が踏ん張り時だ」(アレッサンドロ)
フランスと同じことをイタリアがやれば良いということではない。異なった戦略でラグジュアリーブランドのあり方を示していかないといけない、という意味である。
かつてラグジュアリーブランドとは、多くの実態をミステリアスに包みこむことで成立すると考えられてきた。
「ガバナンスが求められる社会にあって、ラグジュアリーブランドが例外とはならない。生産工程を公開すべきとの動きになりつつある」とアレッサンドロは指摘する。
これはガバナンスだけでなく、ラグジュアリーブランドのクライアントの世代交代の影響でもある。ラグジュアリーブランドはオンラインショップについても、当初、ずいぶんと腰が引けていた。しかしながら、ネットネイティブはオンラインで購入するのを望み、その人たちが企業の態度として情報公開を期待するのは自然である。
こうして、多くの点でラグジュアリーブランドの「かつての方程式」が崩れつつある。けれどもラグジュアリーブランドというカテゴリーは、時代によって意味が変化しつつも、これからも存在し続けるだろう。
長期的利益の源泉を探し求めない企業がなくなるはずがないのだ。
【プロフィール】安西洋之(あんざい・ひろゆき)
De-Tales ltdデイレクター
ミラノと東京を拠点にビジネスプランナーとして活動。異文化理解とデザインを連携させたローカリゼーションマップ主宰。特に、2017年より「意味のイノベーション」のエヴァンゲリスト的活動を行い、ローカリゼーションと「意味のイノベーション」の結合を図っている。書籍に『イタリアで福島は』『世界の中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』。共著に『デザインの次に来るもの』『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか?世界で売れる商品の異文化対応力』。監修にロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』。
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ローカリゼーションマップとは?
異文化市場を短期間で理解すると共に、コンテクストの構築にも貢献するアプローチ。
【ローカリゼーションマップ】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが提唱するローカリゼーションマップについて考察する連載コラムです。更新は原則金曜日(第2週は更新なし)。アーカイブはこちら。安西さんはSankeiBizで別のコラム【ミラノの創作系男子たち】も連載中です。
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