食糧危機の“救世主”なるか 「人工肉」の期待と課題
本物の肉の味や食感を人工的に再現した「人工肉」が注目されている。動物から採取した細胞を培養する「培養肉」の研究が本格化し、植物を材料とした食肉代替品も相次いで商品化。世界の人口増加に伴う食糧危機の“救世主”として期待されているが、味や心理的抵抗感の払拭といった課題もある。(手塚崇仁)
「将来、需要に供給が追いつかずに食肉の価格が高騰する可能性がある。肉を食べたくても食べられないときのために選択肢をつくりたい」
今年3月、培養肉の「ステーキ肉」を日清食品と共同開発した東京大生産技術研究所の竹内昌治(しょうじ)教授は、力を込めた。
開発された「ステーキ肉」は、牛の筋肉細胞を特殊な培地で育てた細長い筋繊維を層状に重ねて培養、長さ1センチ、幅0.8センチ、高さ0.7センチの弾力あるサイコロ状に固めたもの。今後は、肉本来の味を再現するのに不可欠な血液成分の注入や、細胞間の結びつきを強固にして肉自体を「大きく」していくのが課題という。
細胞培養肉の研究開発に取り組むベンチャー企業「インテグリカルチャー」(東京)も、同様の難題と格闘している。同社は平成29年、人工鶏フォアグラの試作に成功。担当者は「難しさはあるが、なんとか解決し、2025年には培養ステーキ肉を完成させたい」と展望を語った。
人工肉に脚光が集まっている背景には、将来的に発生が予想される世界規模の食糧難がある。
農水省の統計資料によると、世界の人口は現在の約70億人から2050年までに90億人以上に増加。これに伴いアジアの1人当たりGDPは10年と比べて3倍、アフリカでは5倍近くになると予想されている。経済発展に伴い、これらの国が肉を積極的に食べるようになる(欧米化する)など食習慣が変化すれば、食肉消費量が爆発的に増加することが見込まれ、対応は急務といえる。
こうした状況を受けて、海外では数年前から、植物由来の人工肉ブームが起きている。
米ファストフードチェーン大手「バーガーキング」は4月から、植物性の代用肉を製造している「インポッシブル・フーズ」と共同開発した大豆などを原料にしたパテを使ったハンバーガー「インポッシブル・ワッパー」を、米国の一部店舗で発売し始めた。「見た目だけでなく食感や味も本物のハンバーガーそっくり」と話題を呼んでいる。
国内でも、大塚食品が昨年11月から大豆をベースとしたハンバーグ状食品「ゼロミート」を、コンビニなどで発売している。同社の開発担当者は「口コミなどで販売数が大きく伸びている。(植物由来の人工肉は)欧米では巨大市場。日本でも非常に大きな成長が見込まれる」と話す。
ただ、こうした植物由来食品とは異なり、培養肉は、畜産に頼らずに食肉をつくり出す「夢の食品」といえる。海外でも研究は盛んだが、竹内教授は「日本の強みが発揮できる分野」と指摘する。再生医療の分野で行われている、細胞を増やして組織をつくる手法が転用可能だからだ。
ノーベル医学・生理学賞を受賞した京都大iPS細胞研究所所長の山中伸弥氏に代表されるように、日本はこの分野で世界トップレベル。竹内教授は、「日本の食文化やモノづくりのノウハウが合わさり、培養肉は大きなムーブメントになる」と期待する。
一方、懸念材料となりそうなのが、「肉を培養する」ということに対する、消費者の心理的抵抗感だ。インターネット上では実際、「食べるのに抵抗がある」といった意見も出ている。
竹内教授らと共同研究に取り組む日清食品ホールディングスの担当者は、「世界の人口が増加していけば、現在のやり方で食肉生産を補うのは難しい。消費者の反応に耳を傾けながら開発を行っていく」と話した。
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人工肉 大豆などの植物由来のものと、動物から抽出した細胞を培養するものの2つがある。世界の人口増に伴う新興国の経済成長で食肉の需要急増が予想されていることや、家畜肉の生産過程で大量の水や土地が必要になり二酸化炭素の排出が多くなるという環境上の理由が、開発の背景にあるとされる。