今回は、新卒で大手総合商社双日に入社し、そのあとスタートアップを経て起業、現在はリモートワークでスタートアップのハンズオン支援(スタートアップ企業に伴走する形で継続して経営課題解決を支援すること)をされている渡雄太さん(31歳・株式会社wib代表取締役)についてお話させてください。
渡さんは起業したあとに、「自分自身に期待できるようになった」といいます。しかし、起業した直後は必ずしもそうは言えない状況でした。会社の登記をしたもののどんな事業をやるべきか迷い続けていたと言います。
そこからどのように納得感がある人生を送れるようになったのか。
その経緯にはうなずかされるものがありました。
読者のみなさまにとって起業のリアルをお伝えできればと思います。
それではインタビューをご覧ください。
スタートアップの「ハンズオン支援」とは?
渡さんが創業したwib社は2018年に立ち上げた会社で、スタートアップを中心に事業や組織の課題解決に特化した事業展開を行っているそうです。
具体的に伺ってみましょう。
「スタートアップの経営者にはとにかく時間がありません。ヒト・モノ・カネといった経営リソースが足らず、メンバーと深く意思疎通する機会もなかなか作れず、特に創業期は多忙を極めます。素晴らしいビジョン・事業があっても最前線で働くメンバーに十分に言語化・可視化は出来ていないという話もよく聞きます。私たちwibはそうした経営者と現場の『橋渡し役』として、スタートアップの経営を側面サポートしています。経営者の方針を理解し、最前線のメンバーが活動しやすいように、言語化・実行を支援します」
なるほど、経営陣と現場のギャップを埋めるということですね。
「そうです。関係者が認識をすり合わせるための言語化はもちろん、具体的なタスクに落とすところまで徹底して伴走します。現在はスタートアップ・中小企業を中心に12社と契約いただいており、ここまで1社も解約が出ていません。私たちが介在することに価値を感じていただいていると考えています」
契約社数もさることながら継続率が高いと言うのは素晴らしさを感じます。
「この仕事は天職なんです。商社やその後に取締役として働いたユニラボ(受発注業者比較サイト「アイミツ」の運営企業)というスタートアップでの経験がそのまま活きていますからね」
どういうことでしょうか。
「商社はモノを持たず右から左に流す仕事と捉えると価値は乏しく感じますよね。しかし、商社の真骨頂は“トラブルが起こったときになんとかする係”だと考えています。
例えば私はレアメタルの輸入に携わっていましたが、予定していたコンテナ船がスケジュール通りに港に到着しないということもあります。お客さんの在庫が切れそうなリスクが発生したときにどう対処するか。船会社と連携して積み下ろしの業務をスピードアップさせるのはもちろんですが、自社の他拠点の在庫を融通させるなど、あらゆる手段を使ってトラブルに対処します。未経験から創業期のスタートアップに飛び込んだあとにも、この商社マン時代に培った“なんとかする力”に助けられました」
これは迫真性が感じられます。ではそのあとの取締役の経験はどう活きるのでしょうか。
「社会人5年目の頃に創業期のユニラボというスタートアップに飛び込みました。ITは素人でしたが、入社後に取り組んでいたのは、とにかくリーダーの意思を言語化し、実行可能なプランに落とし込むこと。商社時代の “なんとかする力” に助けられ、未経験ながら事業開発、採用、経営管理など様々な課題に取り組みました。結果、1年半で単月黒字化、3年で通期黒字を実現させ、取締役も経験させてもらいました」
なるほど、経営者の狙いを噛み砕いて社員を巻き込んでいらっしゃったということですね。
「はい。つまり、いまの仕事と同じなんです。あえて違いを挙げるなら、今はより幅広い会社にこの価値を提供しているということです。そして、手がけてみてわかったのは、『外部から関わった方が、かえって役に立てることも多い』ということ。経営陣でも担当者でもなく、ニュートラルな立場だからこそ気づけること・言えることもあります」
お仕事の内容や価値が見えてきました。
リスクを避けた起業はできる
渡さんのスタートアップ支援は起業前から考えていたことなのでしょうか。
「いえ、結果としていまの事業に落ち着いたのです」
どういうことでしょうか。
「実は、起業しようと思って前の会社を辞めたわけではありませんでした。あまりにもめまぐるしく日々を過ごしてきたので、少し立ち止まって自分のことを見つめ直したいと考えたのです。責任ある立場だったので当然悩みましたし、残るメンバーに迷惑もかけました。ただ、30代を迎えての『これから』について、自分の意思で再度選択したいと思ったのです」
つまり、辞めることが先だったのですね。
「はい。退職はしたもののやることは決まっていなかったです。ただ、ありがたいことに退職をSNSで報告したところ『ウチの会社を手伝って欲しい』という連絡を複数いただきました。家族もいるので、まずは業務委託で会社をお手伝いしながらゆっくり“自分のこれから”について考えることにしたんです」
どのようにスタートアップ支援事業にたどり着いたのでしょうか。
「業務委託のコンサル仕事が思いのほか増えていった一方で、事業選定は難航を極めました。投資家やスタートアップの友人の方々とあったりしながら色々と事業を模索したのですが、半年経っても『これだ!』という事業は見つかりません。その一方で、お手伝いをしている支援先からは感謝の声を日々いただき、なんとも言えないギャップが発生していました。半年くらい経った2019年1月に、『今年は市場から求められるスタートアップ支援事業に振り切ろう』と決めたのです」
なるほど。コンサルそのものを事業化したわけですね。今はどんなお気持ちですか?
「スタートアップ支援に本気で取り組んで良かったです。なにより、クライアントから感謝してもらえる。自分の得意なこと、価値が発揮できることが見つかった気がして、人生ではじめて自分に期待している気がします」
社名にも渡さんの想いが込められています。
《私たちが存在することで「あぁ、悩んでいるのは自分だけではないんだ」と勇気を感じ、エネルギーを見出し、社会をより良い方向へ導いてくれる大人が一人でも生まれてほしい。そういう想いから、“where I belong = wib”という会社名を付けました》(wib社のHPより)
“公私両立”に向けた羅針盤
起業をするうえで難しいと感じたことはありますか?
「公私の両立です。私は起業家である前に夫であり父親ですが、一人で会社をやりはじめるとどうしても会社と自宅の境目がなくなります。週末も仕事をすることが増えてきて。自分が倒れたらアウト、というのもリスクが大きいので、2019年の春頃から少しずつ業務を仕組み化したりメンバーを増やしたりして、今は週休3日で運営できるようにしました。それを支えるのがリモートワークです。クライアントにうかがわずにアウトプットに集中します。今は4名のスタッフがいますが、全員リモート。社内会議もすべてオンラインです」
家庭人と起業家の両立に挑戦される理由はどのようなことがありますか?
「父親を尊敬しているんです。父は大きな組織で勤め上げた人で、私のキャリアとは真逆ですが、スタートアップとはまた違う形で社会に大きな価値を届けていました。また家族を大切にして、子どもの挑戦を後押ししてくれました。私にも2人の息子がいますが、彼らにとって良い父でありたいと思っています」
なるほど、時代に合わせてスタイルは変えるべきということですね。
ではもう一方の起業家として目指していることを教えてください。
「日本ではここ数年、リモートワークや副業・複業というキーワードがトレンドになっていますが、これが一部の職種と特権になっていると感じています。具体的にはエンジニアやデザイナー、ライターといった職種です。彼らに比べて、私のような『ビジネス系企画職』に分類される職種の人にはリモートワークはまだまだ浸透していない。これは仕事のアウトプットを可視化しにくいからだと考えています」
「私がリモートワークで経営支援をできているのは、アドバイスに留まらずアウトプットまで徹底してフォローしている点にあります。このアウトプットを仕組み化しようと、社内で取り組んでいます。経営支援のメソッドを開放し、ビジネス系企画職の方が集まる場を作りたいと考えています。近い将来により多くのスタートアップや大企業の新規事業支援の仕組みを作りたいです」
なるほど、いま顧客から評価されている強みの仕組み化を進めることで新市場が作れると言うことですね。スケールが大きい。
最後に読者へメッセージをお願いします。
「私は起業エリートではなく、いわゆる一般家庭に生まれ育って、普通に大学・サラリーマンを経てきました。だからこそ『普通の人が、普通にがんばるだけで大きな成果が出る社会』を作りたいと思っています。起業に限らずあらゆるチャレンジを、私のような “普通の人” が取り組んでいくことを応援したいです。一緒にがんばりましょう!」
渡さん、ありがとうございました。
【ビジネスパーソン大航海時代】は小原聖誉さんが多様な働き方が選択できる「大航海時代」に生きるビジネスパーソンを応援する連載コラムです。更新は原則第3水曜日。アーカイブはこちら