そういえば最近、「セルフブランディング」や「パーソナルブランディング」という言葉を聞かなくなった。個人のブランド価値を高める取り組みである。
ちょうど10年前、SNSの影響力が注目され始めたばかりの頃は、プロフィール欄をやたら盛る人、名言を引用し意識高い発言を繰り返す人、人脈をひけらかす人、仕事での成功を投稿する人、やたらと派手な2枚目の名刺を持つ人などが散見された。
いや、明らかにこれらの行為に取り組んでいる様子はダサいのだが、いまや定着しているとも言える。「ブランディング」という言葉を使わずに、さらりと取り組んでいる人も散見される。最近のテクニックは、さりげない主張だ。Instagramなどに、さりげなく著名人が写り込んでいたり、一緒にいる人の手元だけ写し誰といるかを想像させたり、やはり写り込んでいるアクセサリーやクルマの鍵などで自己主張したりという手法である。
ただ、意識高い系ウォッチャーとして声を大にして言いたい。これらのテクニックはあくまで小手先のものである。結局のところ、ビジネスパーソンとしての自分をアピールする最適の手段は、仕事そのものである。
もちろん、自分の魅力を伝えるためのテクニック自体は否定しない。しかし、中身が伴わないと「香ばしいヤツ」と思われるだけだ。「盛る」にしても、自分がどうありたいかというビジョンが必要だ。
「とはいえ、その他大勢から抜け出したい!」「俺は、変わりたいんだ!」と思うアナタ。オススメの本がある。『グラビアアイドルの仕事論』(倉持由香 星海社)である。
そう、著者はあの「尻職人」「くらもっち」こと、グラビアアイドルの倉持由香である。2010年代前半から、Twitter上で「#グラドル自撮り部」を立ち上げ、大ブレークした彼女だ。最近ではタワマンを購入したことでも話題となった。この本には、雑誌不況の中、休刊・廃刊が相次いだり、グラビアページが次々と縮小されたりする中で、SNSを駆使し、成り上がった彼女の仕事論が惜しげもなく披露されている。
私は以前、『MacPeople』という雑誌の連載で、彼女と対談している。連載の最終回のご褒美で、「誰か会いたい人います?」と編集者に言われ、彼女にオファーを出したのだった。逆境を物ともしないしなやかさと強さに圧倒された。なお、余談だが、私は対談だけと聞いていたのだが、突然、その場でグラビア撮影会が始まり、度肝を抜かれた。なんと、一緒に尻職人ポーズで撮影までしてしまった。
役得話はこれくらいにして、この本のポイントは「打算」と「反骨」という2つのキーワードに尽きる。「打算」というと、いかにも計算高い、意識高い系セルフブランディングそのもののようだが、彼女の場合、コミュニケーション戦略を周到に練り、どうやったらオンリーワンになれるかを考え抜いているのがポイントだ。
なんせアゲインストな環境を勝ち抜いた「反骨」の魂が凄まじい。いや、もはや「反逆」と言っていいレベルである。グラドルというレッドオーシャンを自分流のやり方で生き抜いているのが素晴らしい。
しかも、やっていることはいわゆるPDCAサイクルの繰り返しだ。エゴサーチでの市場調査など検証も欠かさないのがポイントだ。
自撮りのノウハウも参考になる。私は言論界の自撮り王と呼ばれているが、いかに私のノウハウが浅はかだったか、猛反省した。自撮りする際のネタの仕込み方、ストーリーが感じられる構図づくりなど、いちいち参考になる。いや、ビジネスパーソンにとって自撮りする機会はほぼないだろう。しかし、これは自社や個人のストロングポイントを探し、アピールするという点で参考になる。
全体を通じて、単にどう見られたいかではなく、どうありたいかを考えている点に好感が持てた。しかも、すり減らずにしなやかに生き残る方法や、次の仕事を呼ぶ方法も。
ジャニー喜多川が逝去し、アイドル界には激震が走っている。アイドルとビジネスパーソンは真逆の世界のようで、強みを活かして生き残る、才能を活かすという点では同じだ。この本は単なる芸能本ではない。自社は、自分はどうあるべきかの指南書なのだ。
【働き方ラボ】は働き方評論家の常見陽平さんが「仕事・キャリア」をテーマに、上昇志向のビジネスパーソンが今の時代を生き抜くために必要な知識やテクニックを紹介する連載コラムです。更新は原則隔週木曜日。アーカイブはこちら