超高齢化社会を迎えた今、大きな問題となっているのが、介護の担い手不足である。団塊の世代が75歳の後期高齢者になる2025年には、全国で38万人もの介護士が不足すると厚生労働省が明らかにしている。特に東京、大阪、名古屋の都市部では、深刻な人手不足が予想されている。この「2025年問題」は、政府も急務の課題に掲げており、対応を進めている状態だ。
人材不足を補うため、介護ロボットを導入したり、外国人の介護士を採用する施設も増えている。しかし、根本的な解決になっていないのが現状だ。
そんな状況を打開しようと、画期的な方法を試みている事業者がある。大阪にある『ずっとケアスクール「With YOU」』という介護専門の学校だ。
この学校では、65歳以上の元気な高齢者やシングルマザーを対象に、無料で介護士の養成コースを受講できる制度を導入している。「介護人財38万人創出プロジェクト」という、この新しいビジネスモデルを考案した、株式会社SIM・代表取締役の重松和孝さんに取材をした。
「介護に携わる人は、現在全国に200万人います。2000年以降介護職員は増え続けているのですが、それを上回るスピードで高齢者の方が増えているのが現状です。今後、介護の担い手が順調に増えても2025年には38万人が不足すると予想されています。今はどの業界も人手不足ですので、あえて介護業界に入ろうとする人は少ない状況です」(重松さん、以下同)
必要なのはコミュニケーション、アクティブシニアを戦力に
重松さんは、大手介護スクールで人材紹介や教室運営などの職を経て、5年前に独立開業。志を同じくするスタッフと共に介護業界に一石を投じようとがんばっている。
「65歳以上の方を対象としているのには理由があります。介護の業務は様々ですが、必要なのは高齢者に接する際のコミュニケーション力なのです。お年を召されている方は、人生経験が豊富ですし、共通の話題も多く会話が弾みます。介護は体力的にきついというイメージがありますが、生活支援ですと料理や洗濯、掃除、買い物といった軽作業が中心になります。元気なシニアの方は大きな戦力になるのです」
実際に介護士として働いているアクティブシニアは多い。現在、サービス付き高齢者向け住宅に介護士として勤務している男性は、75歳からスクールで勉強をし、資格を取得した。
「高齢ですが、初めての介護現場で働ける機会もいただき、少しでもお役に立てればとがんばっております」と話す。
同スクールで介護士の勉強を始めるのは、10代から70代まで、幅広い層である。手厚いケアがあるので、高齢者をはじめ、シングルマザーや障がいを持つ方でも、修了することができるという。
理にかなったプロジェクトも…どうやって運営?
現在、65歳以上の人口は約4000万人。この内、就業を希望している人が、10%の400万人。さらに10%にあたる40万人が介護職に就いてくれれば、人材不足は解消すると重松さんは話す。まさに理にかなったプロジェクトである。
とはいえ、受講料を無料にして、どうやって運営ができるのだろうか。
「スクールを卒業した方に対して、就業を希望する施設を紹介しています。その際、施設側から紹介手数料を支払ってもらっています。それが収益源です。弊社の場合、手数料は少額ですが、ここ数年、他の介護人材紹介会社では、紹介手数料が高騰しており問題になっています。人材不足に悩む施設が、70万、80万もの高額な紹介料を支払って人材確保するケースが後を立ちません」
こういった紹介料は、介護施設にとっても多大な出費になる。本来、現場の介護に充てるべき費用が高額な手数料になっているのだ。回りまわって施設運営、介護保険に影響を与え、保険料が値上がりしないとも限らない。誰にとっても迷惑な話でしかない。
こういう状況を何とか改善していきたいと言う重松さん。現在、地域の施設と連携を進めており、いずれこのプロジェクトを全国に展開していきたいと考えている。
「介護の仕事は給料が安い割にきつい、というイメージも広がってしまっていますが、実際はそうでもありません。国の補助金も増額されていますし、待遇も改善されています。希望を持って働ける世界だと考えています」
今年10月に行われる介護報酬改定では、「介護職員等特定処遇改善加算」の名目で報酬が増額されることが予定されている。
ずっとケアスクールは、文字通り、卒業した後も手厚くケアしていくのが、特徴になっている。
「介護職は精神的に厳しい時もあります。そんなとき、仕事帰りに気軽に立ち寄れて、同じ仕事をする仲間に相談できたり、ストレスを発散できるお店があればずいぶんラクになると思います。近い将来、そんな場所を作ろうと考えています」(吉田由紀子/5時から作家塾(R))