【元受付嬢CEOの視線】副業容認が会社を強くする理由 解禁は本当にリスクなのか
最近は働き方改革の一環として副業をめぐる話題も多いですね。メディアでは「闇営業」というワードが取り上げられ、ネガティブなニュースも耳にします。闇営業をめぐる是非についてはいろんな見方や考え方があると思いますが、広く括ると、これも「副業」のひとつと捉えられるかもしれません。
私は受付嬢時代、派遣社員として職務にあたっていたので「副業OK」でした。今回は、受付嬢時代の私の副業、そして私が代表を勤める会社で「副業OK」にしている理由など、私が副業とどう向き合い、これからどう向き合っていくべきかをお話ししたいと思います。
受付嬢の副業事情
受付嬢の仲間の中には副業をしている人も多くいました。私たちは働いた時間や日数で賃金を頂いていたので、稼働日が少ない月(例えば、年末年始やお盆休み)は収入が下がってしまうのです。この点では「正社員の人はいいな」と思うこともありました。正社員の場合は、労働時間の増減に関わらず毎月一定の給与がもらえるからです。
受付嬢の中には、“本業”が夏休みに入ると、違う派遣先で仕事をしたり、中には常に週末だけ別の会社で受付をして週6~7日働く人もいました。
私の場合はというと、基本的に副業はしていませんでした。週5日、リーダーという立場でお仕事をしていましたが、週末はリフレッシュして頭を切り替える時間を持たないとモチベーションの維持が難しかったからです。決して収入的に余裕があったわけではありませんが、「今働かせてもらっている会社でもっと結果を出して、賃金を上げることが私にとっても会社にとってもいい結果に繋がる」と考えていました。
卒業2年前から副業を開始
しかし、そんな私も受付嬢を卒業する2年ほど前から副業を始めました。それは、とあるスタートアップ企業の「顧問」のようなお仕事です。
副業を始めたのは、当時、受付嬢を辞めた後に起業しようと決心したからでした。起業にはお金も知識も必要です。受付嬢しか経験したことがなかった私は、知り合いだけは多く(笑)、そのネットワークに魅力を感じたスタートアップの経営者から資金調達やアライアンスを実行するにあたっての“ハブ”になって欲しいと依頼を受けたのです。
多くの報酬を頂いていたわけではありませんでしたが、これから自分がやろうとしているスタートアップの経営を役員陣の中で学べるのは非常に魅力的でした。結果的にその経験は、自分が起業した際も非常に有益だと感じましたし、起業のための資金調達にもつながりました。
弊社が副業を推進する理由
そんな自分自身の経験もあって弊社では副業OKとしていますが、容認の理由としては主に3つあります。
スタートアップにとってコスト軽減につながる
副業で学んできたスキルを弊社にも生かしてくれる
「副業OK」という自由度を与えることでいい人材が採用できる
一般的にスタートアップはお金がありません。(1)本当は高い給与を払ってでも採用したい人材だけど、週に5日コミットしてもらっても給与を支払う体力がない場合。また(2)週5日ほどお願いする仕事がまだないという場合もあります。そういった時に副業先で収入を得てもらうことで、お互いの収入と支出のバランスを取ることができます。後者の場合は、弊社側が副業先になる場合もありますね。
そして、副業をしようと思う人は基本的に成長意欲や学習意欲が高い人だと思います。本来は休みに充ててもいい時間なのに、それを仕事に充てる。そういう人は副業先を選ぶ時に、本業にも役立つだろうという視点を持っているのではないでしょうか。
弊社では従業員との面談時に「副業先で今こういう仕事をしていて…」というような話が普通に出てきます。とても健全で良いことだと思います。コソコソやる副業ではなく、やはり本業先にも清々しい気持ちで話せる副業はいい効果をもたらすと思います。
成長・学習意欲が高い人は副業に興味を抱きやすいと思います。そういった人材は企業にとってはとても魅力的です。「副業がOKだから御社に興味を持ちました」と言ってくれた社員は一人や二人ではありません。それくらい多くの人が当たり前に副業について考えており、自身の成長につなげたいと思っていることを企業としては応援しない理由がありません。
副業容認の「リスク」は本当にリスクなのか
一方で、従業員の副業が会社にとってのリスクだとする声も耳にします。例えば労働時間や体調、または情報セキュリティの管理が難しいという点です。
正直、会社がいい大人を管理する時代はもう終わりを迎えていると思います。個人主義になりつつあるという意味です。体調管理についても、これは副業云々というより社会人としての意識の問題だと思います。私はこれまでたくさんの人を見てきましたし、たくさんの方とお仕事をさせていただきました。副業をしていなくても体調を崩す人は崩しますし、副業を抱えていても毎日元気にお仕事をしている人もいます。
また、労働時間の管理についてですが、本連載でも以前触れましたが、弊社は時間よりも成果物を管理(把握)するようにしています。オフィスに8時間座っていても何の成果を上げていない人、一方リモート勤務でも8時間後にきちんと成果物を届けてくれる人。企業にとってどちらが大切でしょうか。社員を管理することに時間やコストをかけるよりも、私たち経営陣は働きやすい環境を整えることや、自分にしかできない仕事にコミットするべきだと思います。
そしてセキュリティの管理についてですが、弊社はプライバシーマークを取得しています。社員教育は徹底していますし、毎月の全体会でセキュリティについての小話などを挟み、セキュリティに対する意識を常に持ってもらう環境を作っています。こういったことを地道に続けていくことが会社を守り、また副業での情報漏洩リスクを減らすことにつながると思います。
「新陳代謝」が成長につながる
こんな声もあります。
「働き手が副業先に取られてしまうのでは!?」
もちろんそのリスクはあると思います。しかし、それは副業を禁止したからと言って防げる問題ではありません。
もし、副業が本業になるのであれば、それは必然ではないかと思うのです。良い人材を流出させないために副業を禁止することは社員にとっても会社にとってもいい結果に繋がらないでしょう。
他の会社や世界を見た上で「やはり自分はこの会社でこういう仕事がしたい」「うちの会社はいい会社だ」「良いプロダクトに携われている」などと感じられれば、結果的に自社の仕事にコミットしてくれると思います。しかし、他の世界を見て「もっと違う世界でチャレンジしたい」と思うようになったのであれば、それは会社として応援すべきことだと思います。一時的に「空席」ができますが、それは新たなメンバーを迎え入れるための「空席」です。会社にとっても、働き手にとっても「新陳代謝」になり、その継続が成長につながります。
こう考えてみると、「副業を禁止する=いい人材がプールでき、会社の成長につながる」とはならないということです。
会社に頼らない生き方
トヨタ自動車の豊田章男社長が「終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と発言し、話題になりました。これは何を意味するかというと、自分のキャリアや生活は自分で作り、守っていく必要があるということだと思います。会社が人生を守り続けてくれることが当たり前の時代ではなくなってきています。私たちは自立し、会社の看板がなくても仕事を続けていけるようにならなくてはいけなりません。
働き手が少なくなる上では、働き方の柔軟性を拡張していくことはマストだと思います。
【プロフィール】橋本真里子(はしもと・まりこ)
1981年生まれ。三重県鈴鹿市出身。武蔵野女子大学(現・武蔵野大学)英語英米文学科卒業。2005年より、トランスコスモスにて受付のキャリアをスタート。その後USEN、ミクシィやGMOインターネットなど、上場企業5社の受付に従事。受付嬢として11年、のべ120万人以上の接客を担当。長年の受付業務経験を生かしながら、受付の効率化を目指し、16年にディライテッドを設立。17年に、クラウド型受付システム「RECEPTIONIST」をリリース。
【元受付嬢CEOの視線】は受付嬢から起業家に転身した橋本真里子さんが“受付と企業の裏側”を紹介する連載コラムです。更新は隔週木曜日。アーカイブはこちら
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