東京商工リサーチ特別レポート

企業で「粉飾」発覚が急増 40年以上横行のケースも、その背景とは?

東京商工リサーチ

 ここにきて粉飾決算の発覚が相次いでいる。なかには40年も前からの粉飾を明らかにする企業も出てきた。金融機関も見破れなかった粉飾の発覚が増えた背景に何があるのか。東京商工リサーチ情報部が取材した。

ある企業の粉飾を告白する書類
リファクトリィが展開する「J.FERRY」の店舗(都内)

実態と乖離した決算書

 5月29日、カジュアルウェアブランドの「J.FERRY」を展開するリファクトリィが、東京地裁に民事再生法の適用を申請した。

 リファクトリィは、メンズ及びレディース衣料の企画販売を手掛け、20~30代の女性向けでカジュアルウェアの主力自社ブランド「J.FERRY」や、男女共通ブランドの「003 J.FERRY」を展開。ショッピングモールやアウトレットなど全国約30店舗に出店し、2015年6月期には売上高40億円を突破した。

 近年はWEB販売事業も強化し、2018年6月期は売上高44億29万円と増収を持続し、5563万円の利益をあげたと公表していた。また、ドラマ衣装として女優など芸能人に多数提供していた。

 しかし、同業他社との競合激化などから業績と資金繰りが悪化した。店舗展開で膨らんだ借入金を糊塗するため、10年前から粉飾決算に手を染めていた。

 取引先に迷惑をかけない私的整理も検討したが、弁護士は「金融機関21行、リース会社9社と取引数が多く、私的整理は難しいとの意見が出た。最終的に金融機関との交渉がまとまらず、民事再生法の適用を申請した」と説明した。

 粉飾は一度手を染めると、よほどの奇跡が起きない限り発覚する。2018年6月期の本来の純利益は7億4160万円の赤字だったが、5563万円の黒字に粉飾されていた。

取引銀行約20行、それぞれに決算書作成

 5月14日、負債90億円を抱え東京地裁に民事再生法の適用を申請した手芸用品販売のサンヒットの粉飾期間はさらに長い15年だった。

 クラフト用品や裁縫用品などの企画販売を手掛けていた。大手小売店や100円ショップへの卸とともに、直営店やネットショップでの小売りも手掛け、2017年8月期は売上高約31億5000万円をあげていた。しかし、直営店の出店費用なども含めた設備投資による借入金が重くのしかかり、窮屈な資金繰りを強いられていた。

 取引金融機関約20行のそれぞれに粉飾決算書を作成していた。手口は単純で、借入残高の操作が多かったようだ。これだけで約60億円の債務超過の企業を、約10億円の資産超過の優良企業に変貌させていた。発覚理由は、ある銀行用の決算書を、別の銀行に提出したため。15(年)×20(行)=300(通)。間違えても不思議でない。

名門企業が40年前からの粉飾を告白

 10年、15年の粉飾決算で驚くのは早い。6月に中堅のA社がバンクミーティングを開催した。そこで、衝撃的な事実が明かされた。

 粉飾決算の告白、借入元本の返済猶予と資金支援の要請はある意味、ワンパターンだ。だが、粉飾決算の期間が40年以上と聞かされ、参加者は呆気にとられたという。当初の担当者はとっくに定年退職し、金融機関も責任の所在に苦労するだろう。

「てるみくらぶ」社長逮捕も“教訓”に

 バンクミーティングは、金融機関への支援要請だけが目的とは限らない。倒産したある企業の関係者は、「最初から無理とわかっていたが、粉飾決算の責任追及を避けるために開催した」と語る。

 これは8万人の旅行者を巻き込んだてるみくらぶ(2017年3月破産)が教訓になっている。てるみくらぶの山田千賀子社長(当時)は、粉飾決算で融資を受けて詐欺容疑などで逮捕され、懲役6年の実刑判決を受けた。このため事前に金融機関に粉飾を告白し、「支援なく倒産」とのアピールでもある。

 てるみくらぶは黒字決算を装っていたが、実際は2013年9月期から当期純損失を計上し、2014年9月期には債務超過へ転落していたことが、破産管財人の調査によって明らかになっている。純資産額の水増しは、破産直前の2016年9月期で86億3000万円に上っており、この大半が旅行者から前金で集めた旅行代金で補填されていたとみられる。

 金融機関の融資審査は、財務分析中心から、企業の将来性を問う「事業性評価」にシフトしている。粉飾決算の発覚は、金融機関と企業が会話を重ねるようになり、見えなかったもの(粉飾)が浮き彫りになってきたことが大きい。そして、粉飾による逮捕を恐れ、事前に自ら公表するケースもあるようだ。

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