高論卓説

「ブラック職場だ」と感じたら “この仕事で得られるもの”を探れ

 「ブラック職場」とは、ストレス過剰な職場であるとも言える。国会議員の事務所もまたブラック職場の一つだろう。私が議員秘書のストレスについて研究した結果では、調査対象155人のうち23%の秘書が高ストレス者に該当していた(本来は10%程度になる)。

 議員秘書が抱えているストレスはとても大きいといえるのだが、極めてストレスフルな職場でも、前向きに頑張っている秘書と、逆にストレスに押しつぶされそうになっている秘書がいることに気づいた。その理由について調べたところ、ストレスが低い秘書は「首尾一貫感覚」が高いという結果が得られたが、これは議員秘書以外の職種についても言えることだろう。

 首尾一貫感覚というのは、ユダヤ系アメリカ人で医療社会学者のアーロン・アントノフスキー博士(1923~94年)が提唱した概念である。ナチスドイツの強制収容所から生還しながら、更年期に至っても心身ともに良好な健康状態を維持していたユダヤ人女性たちが持っていたのが、この首尾一貫感覚である。「首尾一貫感覚」は次の3つの感覚からなっている。

 (1)把握可能感(「だいたい分かった」という感覚)=自分の置かれている状況や今後の展開を把握できるという感覚。

 (2)処理可能感(「何とかなる」という感覚)=自分に降りかかるストレスや困難に資源(相談できる人やお金、権力、地位、知力など)を使って対処できるという感覚。

 (3)有意味感(「どんなことにも意味がある」という感覚)=自分の人生に起こることには意味があるという感覚。

 この3つの感覚は互いに補完し合う関係にある。「把握可能感」があり現在や将来を把握している感覚があれば、「処理可能感」が持てる。「処理可能感」の根拠となる人脈や知力を活用することで、「把握可能感」を高めることもできる。研究で出会ったある政策秘書は、政策に関わる仕事がしたいという希望を持って転職してきた。しかし、議員から党員獲得などで無理なノルマを課せられ、達成できないと「役立たず」と罵倒され、つらい毎日が続いたということだ。しかも議員秘書は突然解雇される可能性まである不安定な仕事である。

 自分にとって意味を見いだせない仕事や不安定な雇用状態は、「有意味感」や「把握可能感」を得にくい。議員秘書だけでなく、派遣社員や契約社員はもちろん、終身雇用が崩壊している現在では、大手企業の正社員であっても、リストラなど職を失う危険と無縁ではない。

 一方で、不安定な立場にあっても、ストレスにうまく対応し、糧にさえして着実にキャリアを重ねている人たちもいる。

 彼らに共通する点は、精神的に強いこと、つまり首尾一貫感覚が高いことである。その政策秘書に、「あなたにとって仕事とは」と質問をしたところ、「自分を新しいところに連れて行ってくれるもの」と答えた。この考え方は、ストレスフルな職場に身を置いているときに「有意味感」を高める重要な捉え方であるといえるだろう。

 もし自分が「ブラック職場」にいると感じたら、「この仕事で得られるもの」について掘り下げてみると良いかもしれない。自分の人生を高める「何か」を見つけられたら、今の仕事に「有意味感」が得られるのではないだろうか。

【プロフィル】舟木彩乃

 ふなき・あやの ストレス・マネジメント研究者。メンタルシンクタンク副社長。筑波大大学院ヒューマン・ケア科学専攻(博士課程)に在籍中。著書に『「首尾一貫感覚」で心を強くする』(小学館)がある。千葉県出身。