【ビジネスパーソン大航海時代】メガバンクを経てコミュニティ起業家へ 令和の新しい生き方~航海(12)

 
川元浩嗣さん

 今回は、新卒で三井住友銀行に入行し、今では起業されている川元浩嗣さん(株式会社Mi6代表取締役・一般社団法人Papa to Children 代表理事・SMBCベンチャー会 代表)についてお話させてください。

 みなさんは「起業家」と聞くとどのような印象をお持ちになるでしょうか? ソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義さんのようにビジョンを語り、規模を追求し続ける起業家、あるいは堀江貴文さんのように出る杭になることを厭わず主張し強いリーダーシップを発揮する起業家、はたまたテクノロジーを駆使したテック系の新興起業家。

 もしかするとこれらは平成の起業モデルにすぎなかったのかもしれません。

 今回の川元さんはコミュニティを通じて自分が生きる社会をより良くする活動をすることに人生を集中させています。売上を拡大させることよりもコミュニティが活性化することに重点があるようにも感じました。

 富を創造しステークホルダーに再分配するのが平成の起業モデルだとすると、信頼を創造しそのダイナミズムにより社会を変革させていくのが令和ならではの起業モデルなのかも知れないと衝撃を受けました。

 それではインタビューをご覧ください。

 銀行員から起業家になる道筋

 川元さんは2006年に三井住友銀行に入行し、約9年法人営業をやっていたそうです。

 「最初は新潟に勤務し、やがて行内で特に注目されやすい支店のひとつである新橋支店に勤務しました。融資するのが主な業務内容ですが、額は50億円超などのものも手がけさせていただきました」

 「2012年のことでした。フリークアウトというスタートアップに飛び込み営業をしたのです。当時まだ上場前の大きくはない会社でした(現在はマザーズ上場)」

 なるほど、最初は銀行員としてスタートアップに触れたわけですね。

 「ええ。自由闊達な雰囲気が、社員の方やオフィスから感じました。バンドのセットがオフィスに置いてありましたからね。我々銀行とは大きな違いです。目に映る景色もそうですが、その背景にある創造的なエネルギーを感じ、将来の可能性に衝撃を受けました」

 そうして2015年に起業されました。

 「はい。実はこの経験から起業することがワクワクするなと感じていました。そして妻が妊娠をしたことをきっかけに2013年に起業を決意したのです」

 なるほど2年間が空いたのですね。

 「はい。三井住友銀行に在職中とてもよくしてもらっており丁寧に退職時期を探していました。特に自分に期待していただいた上司から一緒に働いて自分たちの銀行をよくしようと声をかけていただいてもいました」

 しかし起業することにしたわけですね。

 「退職の相談をした時に、銀行から直接起業した人間はみたことないよ、と言われました。しかし自分がやりたいビジネスは銀行や普通の会社では出来ないものだったのです。選択肢は起業しかありませんでした」

 お金に関心が弱い 人の繋がりに関心がある

 そこまでの意志をもってMi6社を作ったわけですがどのような会社ですか?

 「社名のMi6とは“ミッションインポッシブル”という意味に由来しています。ミッションとは使命と書きますよね。命を使うということです。それに足るべき会社を作りたいと願いを込めたのです」

 どういうことでしょうか。もう少し教えてください。

 「私は銀行で大小様々な融資・投資に携わってきました。お金の良さや怖さを刻む機会が自ずと増えます。それらを経て、お金に関心を失っていったのです。銀行を退職した理由のひとつでもあります。自分が死ぬまでに何に命を使っていくべきか考えるとお金だけではないなと」

 今は何に重きを置いていらっしゃるのでしょうか。

 「一人ひとりが生き方を取り戻すきっかけ作りをし、その結果として日本から世界を変えていきたいと思っています」

  それは本気でしょうか…?

 「ええ。起業して追求していますからね。このアイデアを思いついても銀行でも、他の会社でも出来ません(笑)」

 具体的には何を手がけたのでしょうか?

 「最初は起業家とサシでランチ・ディナーをマッチングするサービス “X(エックス)”を作りました。自分がフリークアウトに出会って頭をガーンと殴られた感じがありましたので、それをメンバーの方にも提供しようと。ターゲットは30歳前後の大企業に勤めている人向けでした。過去の自分自身を投影したのです」

 今も事業は変わっていませんか?

 「それが大きく広がっています。実はマッチングすることそのものはもう注力していません。なぜなら、メンバーが増えるにつれコミュニティ化し、こちらがマッチングせずに自然発生するようになったからです」

 それは素晴らしいですね。そんなに会員が自発的になるのは珍しい気がします。

 「“X”のメンバーになる時に深層対話をしているからだと思います。どんなビジネスをおこなっていらっしゃるかという表層的な話よりも、その方が人間として何を大切に生きているのかなどの深層を伺います。生き方そのものを話したい方であればメンバーになっていただいています」

 まさに一人ひとりと向き合っていらっしゃるのですね。

 「はい。私は全ての方とお話をさせていただているので自ずとどのメンバーと合うかもわかります。ですから入会当初は私から確信的にマッチング提案をさせていただきますが、何回か繰り返すとみなさん徐々に馴染んで自発的にマッチングしていきます」

 あの、聞きづらいのですが儲かっていますか?

 「事業の継続には支障がありません(笑)。コミュニティが形成されているのでみなさん継続的に参加いただけていますしその輪が広がっています。ただ、根本的に私はお金に関心が弱くなっているので輪が広がることに喜びを感じています。いまなら生きていて良かったと真っ直ぐに言えます」

 一人ひとりが生き方を取り戻し日本から世界を変えていく

 ご自身の使命をもって活動された結果どのような景色が見えてきましたか?

 「作っているのは人の繋がりだということです。自分は起業にこだわっていたわけではなく、組織の形・手段でしかないとわかってきました。ですからパパの育児コミュニティを運営する社団法人PtoC(Papa to Children)も作っていますし、銀行に感謝していますのでそれを形にする組織である“SMBCベンチャー会”というものも主宰させていただいています」

 なるほど…一見するとバラバラなように見えますが今までのお話を伺うと点が線になっている気がします。すごい。

 「PtoCもSMBCベンチャー会も、原型は“X”なんです。深層対話からの深いメンバーが集まるコミュニティ作りを通じて、深層対話せずとも共通テーマがあれば深いメンバーが集まりコミュニティは活性化しますからね」

 お金ドリブンではなく、コミュニティ起業家の真骨頂と言えますね。川元さんはこれから何を目指しますか?

 「良質なコミュニティとは、“人の深い繋がりによって創出される価値と感謝が循環する体系”だと捉えはじめました。これは仕組み化できるかもしれません。実際に他大手銀行さんでもベンチャー会が開催され始めています。そのような形で私以外でも良質なコミュニティ作りをしたい方が出てくる世の中になればと思っています。お金だけ以外の繋がりのほうが強いことはあります。そのようなコミュニティが日本に増えれば、日本から世界は変えられるかもしれません」

 最後に質問です。このような活動をなされるにあたって大切にしていらっしゃることはありますか?

 「妻です。私が銀行を辞める時も信じてくれました。家族の繋がりを深めるためにもPtoCを立ち上げました。人生を共に歩んで行きます」

 川元さんありがとうございました。

【プロフィール】小原聖誉(おばら・まさしげ)

株式会社StartPoint代表取締役CEO

1977年生まれ。1999年より、スタートアップのキャリアをスタート。その後モバイルコンテンツコンサル会社を経て2013年35歳で起業。のべ400万人以上に利用されるアプリメディアを提供し、16年4月にKDDIグループmedibaにバイアウト。現在はエンジェル投資家として15社に出資し1社上場。
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ビジネスパーソン大航海時代】は小原聖誉さんが多様な働き方が選択できる「大航海時代」に生きるビジネスパーソンを応援する連載コラムです。更新は原則第3水曜日。アーカイブはこちら