データを欲しがる企業は存在する
就職情報サイト「リクナビ」が大炎上している。同サイトを運営するリクルートキャリア社が、AIを使って就活生の内定辞退率を予測し、本人の同意が不十分なまま38社にデータを販売していた問題だ。
無許可のままデータが使われた学生は約8000名だ。その他の学生も、積極的に許可したとは言い難い状態である。「リクナビは学生の味方といえるのか?」という声もある。個人情報の保護、テクノロジーと倫理、リクルートの企業としての姿勢など様々な論点が展開されている。
このデータの利活用はすでに私たちの生活にもいつの間にか入りこんでいる。すでに、入社後の離職率や、キャリア形成について予測するサービスもリリースされている。今回のリクナビ騒動は、今後、この各種サービスに関しても影響を与えるだろう。
もっとも、善悪の問題や、データの信頼性を手放して考えると、企業や運営会社も求職者がどのような価値観、思考回路、行動特性を持っているのかは知りたい情報だとは言えるだろう。求職者の側にとっても、その企業や職種とマッチするのかどうかは知りたい。
時代は採用氷河期だ。売り手市場が続いている上、今後、若者は減っていく。グローバル人材、IT人材へのニーズが高まり、人材の争奪戦が行われる中、この内定辞退率を予測するデータを欲しがる企業は存在することを今一度、確認しておきたい。
ここで、立ち止まって考えたいのは、自分の勤務先の採用活動である。ウチの会社は人が採れているのか?なぜ、採れているのか、いないのか?どのような学生に逃げられているのか?自社の課題を把握する上でも、自分がいつまでこの企業にいるべきかを考える上でも、考える価値のあることだ。社内で共有されている情報や、採用に関わっている人に聞いてみよう。
私は長年、採用活動について指南するセミナーに講師として登壇している。「今年は全然採れなくて…」という企業の方とよくお会いする。ただ、これらの企業が来年なら採れるかどうか。残念ながら、イメージできない。
基本ができていない企業はきつい
よく就活や採用は恋愛と一緒だと例えられる。企業で人事をしていた頃に登壇した人事担当者パネルディスカッションで大手自動車部品メーカーの中年採用担当者がこのことについて無駄に熱く語りだし、妙な空気になったことを思い出した。それはいいとして、恋愛と一緒だとしたら考えるべきは、相手のこと、自分のことを深く知ること、さらには、タイミング、フィーリング、アクションである。まず、この基本ができていない企業はきつい。
地方の合同説明会で基調講演をしたことが何度かあるが、その度に絶句する光景と直面してきた。企業説明のブースには中高年の社員が一人。誰も来ないので、一人でガラケーをいじっている…。このような企業に誰が行きたいと思うだろうか。
誕生日やクリスマスにもらうプレゼントに欲しくないモノを渡され、子供が「これじゃない!」と泣き叫ぶように、ややズレた訴求も迷惑だ。ふと、クリスマスプレゼントにサンタさんから『はだしのゲン』や『ノストラダムスの大予言』をもらったことを思い出してしまった。人生が変わったからよかったのだが。
特に採用がうまくいっていない中堅・中小企業が連呼する言葉は「ウチはアットホームな社風だから」である。アットホームというが、家庭の光景も様々だ。「アットホーム」という言葉は実はまったく伝わらない。仮にあたたかく人間関係の距離が近いことを言うとしても、求職者がそれを望んでいるとは限らない。
「コンサル営業」「ソリューション型営業」などと、一見すると洗練されているかのようなフレーズを使う企業も怪しい。実際はコンサルやソリューションの要素が「ないわけではない」程度であって、どぶ板営業そのものだったりする。他にも企業の紹介文や、社長の経歴などを「盛る」とバレてしまうのである。企業の実態を伝えないと採用はうまくいかない。
ズレは求職者の言動のどこかに現れる
一方、あまりに正直に企業の実態を伝えても人は採れない。ワクワク感、夢を感じなければ誰も振り向かない。このあたりのさじ加減が大切である。
このように、主に中堅・中小企業は内定辞退のその前に、振り向いてもらえるかどうか、就職先・転職先の候補の一つに入ることができるかどうかという時点で悩んでいる。大企業志向、地域からの若者の流出などの構造的な問題もあるが、そもそも努力が足りない企業、頑張る方向性が間違っている企業も散見される。
さて、内定辞退だ。内定辞退を防ぐために、懇親会や研修と称した合宿の開催、さらには経営幹部や先輩によるフォローなどの施策が行われている。これらを悪いとは言わない。
ただ、前出の恋愛に例えるならば、そもそものボタンの掛け違いが積み重なることが問題である。いくら社長が美味しいものをごちそうして口説いてきても、嫌なものは嫌なのである。
会社を認知し、採用サイトや会社説明会などで理解を深め、選考に進んでいく…。この一連のプロセスのどこかで、コミュニケーションのズレなどが起こっている可能性がある。そして、このズレは求職者の言動のどこかに現れるものである。これを採用担当者の中には職人的なスキルで察知する人がいる。もっとも、その職人芸を形式知化し、伝承できればいいのだが、採用担当者は数年に1度交代するので、うまくいくとは限らない。リクルートキャリア社のサービスについては、そもそもこれが予測として機能するのかどうかの疑問は残るが、人々が模索していたことを機械の力でサポートしてくれるなら、価値を感じる企業もいるということだろう。
なぜ求職者にスルーされるのか
採用のノウハウ話に終始してしまったが、そもそも、自社が求職者からどう思われているかを考えたい。私が採用担当者や採用コンサルをしていたころによくしていた手法は、社会における出来事と、企業と求職者の時系列を並べるものである。求職者が生まれてから今までに社会と企業に何が起こったか。求職者との接点はどうだったか。これを検証してみると、求職者と自社との接点がそもそもなかったり、今の企業像とズレていることがわかったりする。
また、今どきの求職者にとって、自社がまるで魅力的ではないことに気づくこともあるだろう。いくら業績が好調だろうと、商品・サービスが評価されようと、求職者にはスルーされてしまう。このような、ブレてはいないがズレている企業に自社がなっていないかを考えてみよう。
もちろん、採用は企業の生命線だ。自社がどうすれば採用できるのか。当事者として考えてみよう。
リクナビ内定辞退率データ問題の件について、リクルートキャリア社はまだまだ反省はたりない。しかし、倫理的にも、サービスの仕組みとしても問題が多々ありつつも、このようなサービスに注目が集まるのは、そこに企業が課題を感じているからである。そして、これからの時代、自社が採れているのかどうか、なぜ採れないのかを自覚することは極めて重要なのだ。
【働き方ラボ】は働き方評論家の常見陽平さんが「仕事・キャリア」をテーマに、上昇志向のビジネスパーソンが今の時代を生き抜くために必要な知識やテクニックを紹介する連載コラムです。更新は原則隔週木曜日。アーカイブはこちら