【ローカリゼーションマップ】「格差の象徴」ラグジュアリー企業 社会的批判は運命か

 
※画像はイメージです(Getty Images)

 先週に引き続き、ラグジュアリーという言葉を冒頭にもってくるのは気が引けるのだが、最近考え続けているテーマなのでご勘弁を。

 ラグジュアリー市場という呼び方がある。本来、他称としてラグジュアリーと呼ばれたモノよりもさらに広く、ラグジュアリーを自称している企業も含まれる。この業界の指南役とでもいうべき米国のベイン・アンド・カンパニーの2018年のレポートによれば、観光などの体験領域を入れるとグローバル市場規模は144兆円(120円/ユーロ)であるが、その中にある個人消費財に限定すると、およそ31兆円である。

 この31兆円は服やバッグなどのアクセサリー領域であり、一般の人がラグジュアリーと想像しやすいところだ。というのも、体験に入るプライベートジェットや豪華クルーザーあるいは人里離れた超高級ホテルなど、あまり一般の人には目が触れないので、実感を得にくい。

 さて、この31兆円という金額だが、トヨタの連結決算での数字と近似だ。同じようなお金が動いていて、どちらが社会的なインパクトがあるだろうか、とつらつらと考え始めた。

 4月、パリのノートルダム寺院の火災後、LVMHなどラグジュアリーを牽引するとされるグループが一斉に巨額の寄付金を決定し、今さらながらにそのビジネスの凄さに驚いた人も多かった。そのLVMHの昨年の年商は5兆6000億円だ。ラグジュアリー市場における同グループのシェアを考え、トヨタの売り上げと比較すると、なんとなく「そんなものかあ」程度にはイメージができてくる。

 社会的インパクトというのは測りにくいが、どちらが社会的な批判の対象になっているか?という見方もあるかもしれない、とふと思う。

 ラグジュアリーが批判される理由は沢山あるだろうが、何と言っても目立つことをやり、目立つ人に愛用されている風を装うのがビジネスモデルになっているので、どうしても足をひっぱられやすい。

 その筆頭が、社会的であれ経済的であれ、いずれにせよ格差社会の象徴としてのラグジュアリーである。そのブランド商品をもつ当の本人からすれば、「差をつけている」ことが大切なので、その欲求を満たすことを提供している企業が批判されやすいのは当然だ。

 存在として批判されやすいから、ラグジュアリーと他称される企業は特に、文化社会的なトレンドに敏感である必要がある。低価格品を大量に薄利で売るビジネスは「民主的」であると評価されやすいので、高い利潤を享受しているラグジュアリーは、倫理的に間違いがなく、環境問題にさらに先をいくカタチで正面から向き合わないといけない。

 「十分に利益をとったビジネスをしているのだし、社会のリーダーを相手にするのなら、当然求められる態度だろう」と消費者は思う。なにせ、ラグジュアリーとは合理性を超えたところで買われる商品である。高級ブランド企業がアートと緊密な関係であるとアピールするのも、合理性ではない世界観の定着を図っているといえる。

 合理性ではない世界観の定着を、関係企業が束になってトヨタと同じくらいのビジネス規模で図っている。それがラグジュアリー企業なのか。

 これは相当にエライことをやっている、と思う。しかも、前述したように常に社会的批判の標的になることを運命として受け入れているわけだから、胆力が必要である。

 ノートルダム寺院の火災後の対応については、その直後、「『スピード感』の罠から逃れよ ノートルダム大聖堂火災が問うもの」というコラムをぼくは、ここで書いている。

 もっと茫然自失とする時間をもったうえで、寄付を決める方が良いのではないか、とその時に思った。

 彼らのマーケティング戦略の一環であるとしても、宗教的な建物の趨勢に想いを馳せるにはもっと時間をかけ、「スピード感」「頭を素早く切り替える」といった言葉を一度は忘れるべきではないかと考えた。

 この意見は、ほぼ4カ月経た今も変わらない。ただ、ラグジュアリーのことを色々と考えているなかで、「やむにやまれず」といった表現が適切かどうかはさておいて、ラグジュアリーブランドを所有する人たちが、「即断せざるをえなかった」ほどに、普段の生活の個人的感情は、ギリギリに切羽詰まっていると想像してしまった。

 まったくご本人からすれば、余計なお世話だろうが。

【プロフィール】安西洋之(あんざい・ひろゆき)

モバイルクルーズ株式会社代表取締役
De-Tales ltdデイレクター

ミラノと東京を拠点にビジネスプランナーとして活動。異文化理解とデザインを連携させたローカリゼーションマップ主宰。特に、2017年より「意味のイノベーション」のエヴァンゲリスト的活動を行い、ローカリゼーションと「意味のイノベーション」の結合を図っている。書籍に『イタリアで福島は』『世界の中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』。共著に『デザインの次に来るもの』『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか?世界で売れる商品の異文化対応力』。監修にロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』。
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ローカリゼーションマップとは?
異文化市場を短期間で理解すると共に、コンテクストの構築にも貢献するアプローチ。

ローカリゼーションマップ】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが提唱するローカリゼーションマップについて考察する連載コラムです。更新は原則金曜日(第2週は更新なし)。アーカイブはこちら。安西さんはSankeiBizで別のコラム【ミラノの創作系男子たち】も連載中です。