伝え方や言い回しを変えると、自分を取り巻く環境が変わり、やってくるチャンスも変わっていきます。皆さんは自分のコミュニケーションに自信がありますか? この連載ではコミュニケーション研究家の藤田尚弓が、ビジネスシーンで役立つ「最強のコミュニケーション術」をご紹介していきます。
第8回は「ひとりディベート」がテーマです。
人を思いやるための「ひとりディベート」
ディベートとは、あるテーマについて肯定派和と否定派にわかれ、ルールに沿って行う討論です。「自分の主張を通したい」「言い負かされたくない」といった動機でディベートに興味を持ったことのある人は多いのではないでしょうか。
その一方で「ルールが難しそう」「人を集めるのは面倒」という声もよく聞きます。今回はシンプルなルールで練習できる、「ひとりディベート」をご紹介します。主張を通りやすくするだけでなく人を思いやるためにも有効な、ひとりディベートを試してみませんか?
怒りに振り回されない 2つの効能
あおり運転のニュースが世間を賑わせています。常磐道の事件ように、あそこまで激高するケースは稀だと思いますが、ビジネスシーンにはストレスが多く、怒り感情を抱えてしまうこともあるでしょう。
怒りに代表されるネガティブな感情に振り回されない土台作りとしても、ひとりディベートは効果的です。ネガティブ感情に振り回されないというのは、想像以上に私たちによい影響を及ぼしてくれます。代表的な2つを見てみましょう。
1. 思考の幅を広げるための想像力を養える
私たちは誰もが「~するべき」「普通ならこうするはず」「なぜ~しないんだ」といった思い込みを少なからず持っています。この思い込みに気づき、変えていくというのは難しいものです。しかし、ひとりディベートで自分とは反対の考え方ができるようになると「こういう考え方もあるかも知れない」という想像力がはたらくようになります。想像力は思考の幅を広げてくれるので、自分の正義を盲信して他者に強要するといったことを減らしてくれます。
優しい気持ちがあっても、自分の正義を過信していては他者を思いやることはできません。生きていくうえで大切な「思いやり」を体現するためには想像力が必要なのです。こういった力を自然に養っていけるのも、ひとりディベートの醍醐味でしょう。
2.感情による判断ミスが減る
感情は私たち自身に嘘をつき、判断を間違わせることがあります。例えば「できそうにない」という不安感情や「難しそうだ」という怠け感情が、本来チャレンジすべき件に対して「どうせやっても意味がない」といった判断をさせてしまうといった具合です。
ひとりディベートによって自分の意見とは反対側からも考えるようになると、自分の最初の判断が必ずしも正しくないことに気づくことができます。ディベート思考には判断ミスを防ぐ効果もあるのです。
仕事力もUP ディベート3つのメリット
ディベートには、自分のネガティブ感情に動じなくなる訓練になるだけでなく、ビジネスパーソンにとってメリットが盛りだくさん。ディベートの主なメリット3つを見ておきましょう。
・メリット1 情報収集力が上がる
ディベートでは、テーマに関する主張を考えたり反対意見に備えたりするための情報収集が必須です。限られた時間で情報収集を行う能力が鍛えられるので、忙しい業務の中で調べものをするときのスピードと質が上がります。
・メリット2 主張が通りやすくなる
論理的に考えて主張できるようになるのはもちろん、相手からの反論にも準備することが習慣になるので、主張が通りやすくなります。
・メリット3 物事を多角的に見られるようになる
自分と反対の立場からも主張を組み立てることは、物事を違う角度から考える訓練になります。理論武装をすることができるようになるだけでなく、相手の立場にたって考え、理解する手助けになるでしょう。
その他にも様々なメリットのあるディベートですが、やはり「ルールがわかりにくい」「人を集める必要がある」「時間がかかる」といった声があるのも事実です。しかし、「ひとりディベート」なら簡単なルールを用い短時間で行うことができです。
簡単ルールで行う「ひとりディベート」のやり方
自分が賛成だと思った案があったとしたら、まずは賛成視点で主張を組み立てます。次に相手からどんな質問と反論がくるかを予想して準備をします。ここまでは、普段のビジネスシーンでもやっていることだと思います。
ひとりディベートではこの後、自分が反対する側になって主張を組み立てます。そして賛成側からどんな質問と反論がきて、それにどう対応するかも準備します。立場を入れ替えて主張と反論に対する準備をするのが、シンプルなルールを用い短時間で行うひとりディベートです。
ひとりディベートの流れ
1. 自分の主張を組み立てる
2. 相手からの質問や反論を予測して準備する
3.相手側に立って主張を組み立てる
4.「3」への質問や反論の準備をする
例えば「書類はデジタル化すべきだ」で考えてみる
オフィスのペーパーレス化が叫ばれて久しいですが、会議資料などを紙で共有する会社も少なくないでしょう。年配の社員の要望で、若手社員が会議のたびに大量の資料をプリントアウトし、ホチキスで閉じる―。ITリテラシーの高い20~30代社員の中には、この一連の作業に非効率性を感じている人も多いはずです。
会議の開始時間が迫っているのに、プリンターの調子が悪かったりトナー切れが起きた時には、「紙で配布しようとするからこうなるんだ! 紙での共有をやめればいいじゃないか!」と、ついデジタルデバイスを思ったように扱えない年配社員への怒りがわいてくるかもしれませんね。
こうして職場で感情的になる前に「書類はデジタル化するべきだ」という自分の主張について、さきほどご紹介した「ひとりディベートの流れ」に沿って賛成側と反対側の立場で考えてみましょう。PCやスマホのメモ機能などを使って書き出してみるとより効果的です。
「書類はデジタル化するべきだ」
1. 賛成側に立って自分の主張を組み立てる
- ・保管場所が節約できる
- ・紙劣化の心配がなくなる
- ・タグ付けで検索が楽
- ・他部署とも共有が簡単
2. 反対側からの反論を予測して対策を準備する
- ・感情的に紙のほうがよい
- →感情を肯定しつつメリットデメリットを伝える
- ・データ消失などの不安
- →バックアップの説明
- ・新しいシステムに移行する心理的負担感
- →簡単さの強調、マニュアル整備
- ・変える必要性を感じない
- →紙保管のデメリット
3.反対側に立って主張を組み立てる
- ・紙だからこそのメリット
- ・法的保管義務、紙保存の原則
- ・読みやすさ、見やすさ
- ・デジタルと紙 クリエイティブに与える影響
4. 賛成側からの反論を予測して対策を準備
- ・デジタルのメリット
- →デジタルデバイドにどう対処するのか
- ・デジタル保存について
- →バックアップの一つとしての紙保存
- ・必要なものはプリントアウトすればよい
- →手間、経費
- ・デジタルでの書き込みや描画について
- →誰もができるのか
こうすると、書類をデジタル化した場合、年配社員がどんなストレスを抱えるかも見えてくるでしょう。何を不安に感じていて、どこまで譲歩してもらえそうか、ということも浮かびあがってきます。
大きな武器になる
ひとりディベートを実際にやってみると自分の主張を客観的に捉えられるようになるのを体感できます。弱点に気づいて準備できるようになるのは、ビジネスパーソンにとって大きな武器といえるでしょう。しかし、ひとりディベートで身につくのは、理論武装の習慣や強さだけではありません。
立場を入れ替えることで、自分と違った考え方が理解しやすくなるというのもひとりディベートの魅力です。相手の感情を理解し、納得しやすい伝え方を選べるようになれば不必要な軋轢を減らすことができます。
また、これからグローバル化が加速するビジネスシーンにおいても、自分とは異なった考え方を理解する力はアドバンテージになることでしょう。
ひとりディベートを練習するお勧めのタイミング
ひとりディベートは、まず、休みの日などにじっくり時間をかけてやってみるのがお勧めです。ビジネスパーソンであれば1~2回で勘が掴めると思いますので、後は実践を通してトレーニングしていきましょう。
ビジネスシーンでよくある「提案」「報告」「交渉」「意見調整」の準備は、ひとりディベートを練習する絶好のチャンスです。自分の意見をしっかり構築するだけでなく、反対の立場からも準備しましょう。コツを掴めば短時間でやれるようになります。弱い部分を突かれたり、独りよがりだと思われたりといったことを減らせるトレーニングは、時間対効果でも努力対効果でも優秀です。
ビジネスシーンだけでなく、プライベートでも役立つひとりディベート。ぜひやってみてください。
【最強のコミュニケーション術】は、コミュニケーション研究家の藤田尚弓さんが、様々なコミュニケーションの場面をテーマに、ビジネスシーンですぐに役立つ行動パターンや言い回しを心理学の理論も参考にしながらご紹介する連載コラムです。更新は原則毎月第1火曜日。アーカイブはこちら