【元受付嬢CEOの視線】部下には敬語かタメ口か 従業員との信頼関係、どう築く?

 
※画像はイメージです(Getty Images)

 「橋本さんはさ、社員全員に対して敬語なの?」

 とある会食で、会食相手のおひとりから尋ねられました。会食に同席していた弊社の従業員に、私が敬語で話しかけていたことが気になったようです。

 質問された私は自問自答しつつも、「いや、全員に敬語ではないですね…」と答えました。すると、「どうして敬語と敬語じゃない人がいるの?」とさらに質問が返ってきました。私が明確な答えを伝えることができないでいると、「従業員には全員タメ口の方がいいよ」と勧められました。

 「んー。そうなんですかねー…」

 私が少し考えてしまっているうちに、話題は移っていました。

 それ以来、私は悩んでいます。従業員(部下)に対して、敬語がいいのか、それともタメ口がいいのか…。私は何を基準に「敬語」と「タメ口(タメ語)」を使い分けていたのだろうかとも考えるようになりました。

 みなさんはいかがでしょうか。部下に対して、敬語か否かなど、言葉使いを統一していますか? もし、対応を変えているのであれば何を基準にしていますか?

「タメ口」という表現は正しいのか

 この疑問について考える際、私はまず従業員(部下)の立場になった時にどう感じるかを考えました。

 そこで最初に思ったことは、上司が「自分にはタメ口だけど、他の人には敬語」だった場合、自分と他の人は何が違うんだろうと疑問に思うかもしれないということです。同時に、「自分は上司に親近感を持ってもらっているのかな」とポジティブに思ったり、「距離を置かれているのかな」とネガティブに思ったりもするでしょう。

 一方、経営者としての立場で考えると以下のような考えが生まれました。

 「経営者なんだから、敬語じゃなくタメ口で統一したほうが従業員は立場をわきまえやすくなるのか!?」

 「いや、経営者だからと言ってタメ口にしてしまうと敬意がないような印象を持たれてしまうのでは!?」

 そんな疑問と向き合っているうちに、自分がある違和感を持っていることに気がつきました。それは、「タメ口」という表現についてです。「タメ口」という表現が正しくないのではないかということです。

 そもそもタメ口とは、敬語や「です」「ます」などの丁寧語を含まない話し方の総称です。「タメ口」は一般的にカジュアルで、友達口調といったイメージです。タメ口はビジネスシーンにおいては、少し砕け過ぎたような、相手を見下したような印象を与える話し方かもしれません。

 しかし「タメ口」を別の表現にするとこのイメージが変わると思いました。例えば「通常語」「常態語」「平語」と表現してみると、一気に友達口調といった印象がなくなるように感じます。このように表現してみると、ビジネスシーンにおいても見下しているという印象を取り除けるような気がします。

敬語とタメ口をどのように使い分けているのか

 次に、自分がどういうシーンで敬語とタメ口を使い分けているかを分析してみました。明確な答えは出なかったのですが、入社の年次が古いメンバーには基本的にタメ口で接していることに気づきました。

 しかし、彼らに入社当初からタメ口で話していたかというと、そうではありませんでした。どのタイミングでタメ口になっていったかを考えると、明確にお伝えできるポイントが1つありました。

 それは、物事を教える時です。教えるときは敬語をあえて使わないようにしていたのです。

 人に何かを教えてもらう時、例えば習い事をイメージしていただければと思うのですが、教えてくれる人が敬語でドライに説明していると、「ちょっと冷たい。怖い」といった印象を受けませんか? 仕事の引き継ぎをする際に全部敬語で伝えられるより、タメ口を含みながら柔らかい表現で伝えてあげたほうがお互いに和み、変な緊張感なくスムーズに話が入ってくると思います。教える側が敬語で事務的に伝えると少し圧迫感が出てしまい、教えられる側からすると質問もしづらいかもしれません。

 自分と弊社の古株メンバーとのやり取りを創業時から振り返ってみると、お互いの距離感を掴み、信頼関係が構築できたからこそ、タメ口で接するようになったように思います。少し砕けたような印象を与える言葉使いであっても、「ちゃんと敬意を持って接していることを理解してくれる相手だ」と安心しているからこそ、タメ口での会話が増えていったということです。

 古株のメンバーはまだ社員数が少なかった分、一緒に過ごす時間や仕事を共にする時間も多かったです。意識はしていなかったですが、このサイクルが短いスパンで繰り返され、信頼関係の構築につながっていたのだと思います。

 それと同時に思ったことがありました。それはぶっちゃけた話になりますが、「敬語を使っているほうが楽」ということです。それは当たり障りないからです。敬語を使い続けていれば、相手に悪い印象を与えるリスクは減ると思います。しかし、敬語が関係性の向上や構築にコミットしているとは思えません。

敬語で示す「対等」な姿勢

 今回お話しした私の考えの根底にあるのは「性格」です。私は経営者だからと言って、「自分が偉くて、従業員が下だ!」と思ったことは一度もありません。ですから、入社してくれた従業員に対して、いきなり「タメ口」で話すことは多分この先も無理だと思います。

 面接の際でも同じです。会社と人、面接する人とされる人。お互いが興味を持ち、時間を共有し、情報を伝え合う。これはまさに対等な立場で行われるべき行為だと思います。受付嬢だった時から、面接官になった際は意識し続けていることです。

 敬語を使っていないから「敬意がない」わけではありません。敬語を使っていれば常に敬意を表していることになるかと言われれば、そうでもありませんよね。大切なことは「言葉の表現」よりも「気持ちの表現」だと思います。それは、口先だけの表現よりも、「姿勢」を表現していくということを表すと思います。「部下には敬語で接するべきか、タメ口で接するべきか」。このテーマの正解はひとつでないと思います。上司の数だけ接し方が存在すると思いますし、部下の数だけパターンも存在すると思います。

 冒頭の会食に同席していた弊社スタッフから後日このようなことを言われました。

 「橋本さんがいつもどの社員にも敬意を払っていることは敬語でもそうでなくても伝わっていると私は思います。橋本さんが私に敬語を使っているからといって、距離があると感じたことは特にありません」

 この言葉に救われました。私もこれから先、何かをきっかけに従業員に対する言葉使いが変わることがあるかもしれません。しかし、まだしばらくこのスタンスで行こうと思います。

【プロフィール】橋本真里子(はしもと・まりこ)

ディライテッド株式会社代表取締役CEO

1981年生まれ。三重県鈴鹿市出身。武蔵野女子大学(現・武蔵野大学)英語英米文学科卒業。2005年より、トランスコスモスにて受付のキャリアをスタート。その後USEN、ミクシィやGMOインターネットなど、上場企業5社の受付に従事。受付嬢として11年、のべ120万人以上の接客を担当。長年の受付業務経験を生かしながら、受付の効率化を目指し、16年にディライテッドを設立。17年に、クラウド型受付システム「RECEPTIONIST」をリリース。

【元受付嬢CEOの視線】は受付嬢から起業家に転身した橋本真里子さんが“受付と企業の裏側”を紹介する連載コラムです。更新は隔週木曜日。アーカイブはこちら