【ローカリゼーションマップ】「我々はビジネスが下手」 イタリア人の決まり文句の裏にある自信とは

 
※画像はイメージです(Getty Images)

 イタリアのビジネスについて意見交換する機会は、言うまでもないが、もうしょっちゅうある。その際、イタリア人が持ち出すお決まりの文句がいくつかある。

 「我々はビジネスが下手だ」という。

 そりゃあ、世界に君臨する多国籍超大企業とは縁が薄い。そういう企業の現地法人はあるが、イタリア発のそのレベルはあまりない。だから、このように嘆く。

 だが、海外市場で光る存在感のある中堅どころの企業は沢山あるじゃない、とこちらが言うと、次のように答える。

 「それは、そうだ。我々はニッチな市場を狙うのは得意なのさ」

 なんだ、やっぱり自信あるじゃない。

 「うん、何かを作り出すのは得意だし、それを売るのにも積極的で、世界各国に売り歩くのを厭わないかも」

 なぜ、それでビジネスが下手だと言う?

「あるレベルまではいくのだけど、それ以上が難しい。外国の企業や投資家に買われてしまうのだ。あるいはスケールアウトに興味がもてないから、売ってしまう」

 例えば、宝飾品のブルガリなんかもそうで、2011年にフランスのLVMHに買収された。そういうことを指している。でも、その時、ブルガリは1000億円以上の年商があったじゃない。そこまでいったのはイタリアの人の力でしょう? 欲しがる企業をつくるって、すごいじゃない。

 「そう、そうなのだ。フランスには、そういう新しいものを生み出す力はなくて、我々にはある。だから、フランスとイタリアは補完的な関係にあるといえる」

 フランスの会社のマネジメント能力が高いからといって、でもそれは米国の経営とは違うよね。

 「明らかに違う。彼らは彼らなりのアプローチをとる」

 そう言いながら、こうも言う。

 「イタリアとフランスは似たところも多いから、近親憎悪的な感情もある。ドイツに対しては、『もう違う輩!』と思っているから、尊敬するか、避けるかどっちしかない」

 なかなか微妙な位置関係だ。

 そこで、ぼくは次のようなことを話す。日本の人に、あんまり自分たちはビジネスが下手だと言わないほうがいいと思うよ、と。君たちが「あるレベルまで」といっているそのレベルにどう到達するか、日本の中堅・中小企業は苦労しているのだから、とりあえずのモデルは君たちであって、フランスじゃない。

 「そうか、そうなのか。確かに日本の企業はビジネス上手くないかも。でもね、イタリアの人間は悲嘆するのが癖になっているのだ。だから、悲嘆をやめるのは難しい」

 日本の人も自虐的な性格だとの自覚がある。もういつ日本が沈んでもおかしくないと深刻な表情をする。

 どこがイタリアの人が違うかといえば、本当に深刻だと思えば、さっさと国外で仕事をする。

 どれだけのエビデンスがあるか知らないが、「欧州の医学論文で上位グループはイタリア人の研究者のものが一番多い。だが、彼らの所属組織をみると、イタリア国外の大学や研究機関である」という話を聞く。

 そして、もう1つの違いは、散々と自国のビジネスに悲嘆しておいて、その場でころりと表情を変えて、イタリア文化の素晴らしさを滔々と語り始める。

 要は頭のなかがビジネス至上主義になっていないのである。

 そういえば、昨年、都内でイタリアのスタートアップ各社のプレゼンをみたが、ここまでに書いたような交錯した彼らのメンタリティを背景に聞くと、とても納得いくことが多かった。

 今年も、在日イタリア大使館の主催で、10月9日に「イタリアン・イノベーション・デイ」と銘打って、スタートアップが15社登壇するらしい。場所は都内赤坂のJTEROだ。

 日本や米国あるいはイスラエルなど、今まで聞き慣れてきたスタートアップの構想と何が違うかを知るには良い機会ではないかと思う。確かに、イタリアの起業家も米国的な訓練を受けた人が少なくなく、似たようなセリフを盛んに吐いたりする。でも、底には前述したメンタリティが潜んでいる。

 だから「イタリア人って、マネジメントが上手くないみたいだから」という否定的な目で見るのではなく、「自分の好奇心で走れるところまで走りきる」ための智恵がどこにあるかを見極めるのが適切である。

 自分の色眼鏡を外してみると、異なった世界観が見えてくるものだ。なかなか楽しい。

【プロフィール】安西洋之(あんざい・ひろゆき)

モバイルクルーズ株式会社代表取締役
De-Tales ltdデイレクター

ミラノと東京を拠点にビジネスプランナーとして活動。異文化理解とデザインを連携させたローカリゼーションマップ主宰。特に、2017年より「意味のイノベーション」のエヴァンゲリスト的活動を行い、ローカリゼーションと「意味のイノベーション」の結合を図っている。書籍に『イタリアで福島は』『世界の中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』。共著に『デザインの次に来るもの』『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか?世界で売れる商品の異文化対応力』。監修にロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』。
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ローカリゼーションマップとは?
異文化市場を短期間で理解すると共に、コンテクストの構築にも貢献するアプローチ。

ローカリゼーションマップ】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが提唱するローカリゼーションマップについて考察する連載コラムです。更新は原則金曜日(第2週は更新なし)。アーカイブはこちら。安西さんはSankeiBizで別のコラム【ミラノの創作系男子たち】も連載中です。