【ワークスタイル最前線】会社と「つながらない権利」注目 国内導入も定義の明確化課題

 
「山ごもり休暇」を使ってウガンダを訪れ、ナイル川でラフティングを楽しむ広遥馬さん(右端)=3月(イルグルム提供)

 休日は会社の電話やメールからすっかり解放される-。通信手段が発達し、公私の境界線があいまいになる中、勤務時間外に会社からの連絡に応じなくてよいという「つながらない権利」が注目されつつある。欧州では、この権利をめぐり労使で協議することを法律で義務付けた国がある。日本でも権利を認める仕組みを先駆的に導入する企業が現れたものの、働き方改革をにらんだ取り組みは緒に就いたばかりだ。

 ソフトウエア開発の「イルグルム」(大阪市)は、休暇の取得と業務内容の可視化を目指し、2011年に「山ごもり休暇」を導入した。9日間の期間中は会社とメールや電話、会員制交流サイト(SNS)での連絡を完全に断つ決まり。当初は「何か問題が起きたらどうするのか」との意見もあったが、始めてみたところ全員が取得。半数が旅行を楽しんでいる。仕事が忙しくなっても簡単に休みを諦めないよう、事前申請した日程を変えるときは社長決裁という“ハードル”を設けた。

 つながらない権利を可能にしているのは丁寧な引き継ぎだ。人事部の広遥馬さん(26)は今年3月、約2週間の休暇を取り、ケニアなど東アフリカを旅した。旅行前には約50の案件への対処を書いた引き継ぎ書を作成。採用や営業を担当していたため、ミーティングでは就職活動中の学生や顧客への個別対応など細かいニュアンスも伝えた。

 休みに入る1週間前から、顧客とのメールの宛先に同僚を加え、情報を共有。期間中、会社メールの送受信は同僚に託し、社用のスマートフォンは日本に置いていった。「1年に1度仕事のことを全て忘れ、リフレッシュできる機会」と話す。

 広報担当者は「連絡が取れないので、同僚に迷惑をかけないよう念入りに業務内容を伝えている。部署異動の際も引き継ぎがスムーズ」と語る。

 欧州では以前からこうした権利の必要性が指摘されていた。フランスでは、17年から従業員50人以上の会社を対象に、勤務時間外のメールの扱いなどつながらない権利の在り方を労使で協議するよう義務付けている。ただ罰則がなく、完全実現には時間がかかると言われている。イタリアも同様に法制化されている。

 三菱ふそうトラック・バス(川崎市)は休暇中の社員にメールを送ると、自動的に削除され、休暇後に送り直すよう求める機能を14年に導入。親会社のダイムラー(ドイツ)に合わせた措置。広報担当者は「選択肢としてつながらない権利を認めている。今はまだ利用者が少ない」と話す。

 日本大の神尾真知子教授(労働法)は「日本ではつながらない権利の定義を明確に示すことは難しいが、長時間勤務を防ぐ意味もあり、労働時間の管理の観点から議論する必要があるだろう」と指摘している。