経済インサイド

まだまだ厳しい高校生の就活 「1人1社」の“掟”の重圧も

 来春卒業見込みの高校生の就職活動が、本番を迎えている。9月5日に企業への応募書類の提出が解禁され、同16日に採用試験が行われた。空前の人手不足の中、大学生だけでなく高校生に向ける企業の獲得意識は高く、「金の卵」の争奪戦が例年以上に激化している。ただ、原則として1人1社しか出願できないといった大卒採用にはない独特のルールは、17、18歳の若者にとっては重荷だ。一方、企業にとっても、社歴が浅かったり、数十年ぶりに高卒採用を再開したりした場合、採用活動の厳しさに直面している。

 高卒ならではのハードル

 印刷業の日経印刷(東京都千代田区)は、来春の高卒見込み者の採用人数を例年の2倍の10人とした。

 同社では、会社を支えてきたベテラン従業員の退職が進み、人手不足感が強まっている。そこに「働き方改革」も追い打ちをかけ、「特定の社員に仕事量が片寄らない対応も必要」(同社人事総務課の明比健治課長)で、採用人数を増やしたい意向だ。とくに高卒入社の社員について、「工場など現場を支えるスペシャリスト」(明比氏)との認識を持つ。

 厚生労働省によると、平成31年3月に高校を卒業した人の求人倍率は、前年同月比0.25ポイント増の2.78倍。4年連続で2倍を超えた。現場のスペシャリストしての期待が集まる高卒者だが、その採用には独特のルールがある。原則として1人1社までしか応募できないのもその一つ。具体的には、高校に寄せられた求人票の中から、教員が学業成績などを勘案して生徒に数社ほど提示する。生徒はその中から1社を選んで応募する。何社でも自由にエントリーシート(志願書)を提出できる大卒者とは事情が異なる。

 こうした採用形態だと、教員との親交がある企業に優位に働くケースもある。20年ぶりに高卒予定者の採用を再開したソフトウェア開発のコルモ(大阪市浪速区)は、春先から大阪市内の高校数十校に人事担当者が面談を申し入れたが、ほとんど会えずじまいだった。同社の奥州正幸社長は「高卒採用はハードルが高い。(採用者には)コンピューターの基礎からみっちりと教えるなど、よそにはない我が社で働くメリットを時間をかけてでも先生に理解してもらうしかない」と話す。

 ただ、高校側からすれば、設立後間もない企業や初めて求人してきた企業の場合、生徒に責任を持って薦めることが難しいというケースもある。「従前からおつきあいがあり、すでに何人も卒業生が働いている企業を選ばざるを得ない」(学校関係者)という事情もある。

 高校生にとっては1人1社しか応募できないことによる精神的なプレッシャーも大きい。高卒後、都内の建設会社に就職した男性(22)は「落ちたことを考えると夜も眠れない日が続いた」と胸の内を明かす。

 企業研究の必要性

 厚生労働省によると、高卒者は入社3年以内に約4割が退職しているとの統計もある。授業時間との兼ね合いから就職に関する情報収集ができず、高校生自らが企業研究する機会が限られていることがその原因との指摘が出ている。

 こうした高校生の就活の課題解決に向けた動きも始まっている。

 最も多いのがインターンシップ(就業体験)だ。IT関連企業のウォンテッドリー(東京都港区)は昨夏、初めて高校1年生をインターンシップで受け入れた。この生徒は競技プログラミングの経験はあるが、ウェブサービスの開発は未経験だ。そこでメンター(世話役)となるエンジニアと人事担当者が3回面談し、現在取り組んでいるプログラミング内容やインターンで挑戦したいことを把握。「緊急度は高くないが、インターンで取り組んで意味のあること」(同社)となる機械学習の技術を活用したサービスの開発に5日間、従事してもらった。

 とはいえ、少数精鋭規模のベンチャー企業にとって、インターンを受け入れるのは容易なことではない。受け入れ準備をしっかりと行う必要があるが、ノウハウがない企業も多い。そもそも、希望者全てがインターンシップに参加できるとは限らない。

 そこで、手っ取り早く会社を研究出来るのが合同企業説明会だ。採用支援を手がけるジンジブ(東京都港区)は7月下旬、東京と大阪で高校生向けの合同企業説明会を開いた。

 このうち、東京の説明会場では、飲食や建設、介護、製造業などを中心に約100社がブースを構え、採用担当者が集まった高校生に会社の事業概要や福利厚生制度などを熱心に説明していた。ジンジブは、高校生の採用試験のピークが過ぎた10月にも東京(5日)、福岡(11日)、大阪(25日)で合同企業説明会を開く。担当者は「9月の採用試験が残念ながら不本意な結果になったとしても、絶対にあきらめないで」と話す。(松村信仁)