【話の肖像画】僕自身は「小売業の経営者」と呼ばれたい ファストリ・柳井正氏(12)
僕は「小売業の経営者」
〈転勤のない地域限定正社員制度と、週4日を「ノー残業デー」とする取り組みを平成19年に始めた。安倍政権の「働き方改革」をどう見るか〉
制度をつくる前に、実態をみて、それをひとつずつ解決していって、それの集積が制度になるべきです。それが制度をつくって解決しようとするから、制度の矛盾が出て、その制度もダメになる。もっと深く考えないと。あんまり実態を知らない学者とか経営者が入っていって話をしてもダメでしょう。政府や国会議員が、もっと実態を理解して中身をどうするか。今起きている問題をひとつずつ解決していって、そこから制度ができあがる。それに関して議論すべきです。やり方が違うと思います。
〈日本は「開国」すべきだと主張してきた。4月からは外国人労働者の受け入れ拡大を柱とした「改正出入国管理法」も施行された〉
あのような制度は、最悪の結果を招きかねないと思います。欧州のどこかの国のような状況を招いてしまう。安価な労働力として移民に頼った結果、反移民を掲げる政党が躍進して社会が不安定になり、政治が混乱してしまうような結末です。
〈日教組教育を批判して、若い人は希望を持つべきだとも主張してきた。財団で若い人を支援する活動も続けている〉
最近の若い人は、二極化ですね。「柳井正財団」では次世代のリーダーとなる若者の海外留学を奨学金などで支援する活動をしています。ある高校の方が言っていましたが、「日本人は、高校生までは世界最高の素質を持っている」と。でも、「大学に入って1年過ぎると世界最低になる」と。奨学金の応募に来る若者たちは素晴らしく、「おぉ、日本にもこういうすばらしい高校生がいたんだ」と思う。でも、一般の高校生とか大学生を見ていると「これで日本は大丈夫か」とも思います。海外に対する無関心さは、不思議を通り越して異様です。
〈住みやすい世界に変えていくという「資本主義の精神」の重要性を説く〉
ホンダの本田宗一郎、ソニーの盛田昭夫たちは、「資本主義の精神」の何たるかを理解していた。正統な起業家が何人もいたから、日本は高度経済成長という偉業を成し遂げることができました。
日本の起業家の多くは、技術信仰が根強く職人かたぎです。顧客ニーズを満たさなければ、市場では受け入れてもらえない。生産者の自己満足になってしまいます。
〈第2のユニクロを築く人材は〉
いないなあ。僕は「ベンチャー企業の経営者」は大嫌いです。99%はいいかげんで、金銭感覚のずれた人。スタートアップして、IPO(株式公開)して、会社を高く売ることばっかり。最近のIPOを「引退興行」と呼んでいます。本来は投資してもらう出発点なのに。大学生になると若者が「最低」になるのと同根です。希望が小さいんですよ。僕自身は「小売業の経営者」と呼ばれたい。(聞き手 吉村英輝)
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