中国を覆う不条理を描く「神実主義」 作家が作品で指摘する現代の中国
奇想と笑いを交えながら中国社会の不条理をえぐり出す。中国人作家、閻連科(えん・れんか)さん(61)の寓意(ぐうい)に満ちた作品は、軍を侮辱したなどとして発禁処分も受けてきた。国内では「最も論争の多い作家」ともいわれるが、世界的権威のあるフランツ・カフカ賞をアジアで村上春樹さんに次いで受賞。ノーベル文学賞の有力候補との呼び声もある。
中国河南省の貧しい農村に生まれた閻連科さんは高校を中退し就労した後、20歳で人民解放軍へ。軍の創作学習班に参加し1980年代から小説を発表する。
「農村を舞台にしたものが多いが知識人が出る作品もある。変わらないのはどれも中国の現実と密接な関係があるということです」と来日時に語っていた。
等身大の軍人の欲望を描いた『夏日落』(92年)が最初の発禁処分に。身体障害者が多く住む僻村の興亡をつづる『愉楽』(2003年)など社会のゆがみを直視する作品が多い。2年前に邦訳された長編『硬きこと水のごとし』(谷川毅訳、河出書房新社)は、共産党内の路線対立に端を発し、中国を大混乱に陥れた文化大革命(文革)を背景にした物語。農民から末は高級幹部へ-。実権に近づくためには、お互いの夫婦の犠牲すらいとわない若い男女の性愛と暴力にまみれた革命闘争と転落の軌跡がコミカルなタッチで紡がれる。「革命というのは当時の彼らには宗教そのものだった。そこでは暴力すらも、信仰のステージをあがる階段として正当化された。集団の中にいる人は空気にのまれ、理性も失う。革命はある種の信仰だと思うのです」
伝統的なリアリズム小説とは一線を画す、鋭い寓意と過激さに満ちた自身の叙述方法を「神実主義」と呼ぶ。「早過ぎる経済成長により今の中国はどの国の人にも理解できない複雑さの中にいる。この現実を表現するためには新たな文学的様式が必要です」。改革開放政策の影に迫る長編『炸裂志(さくれつし)』(13年)に象徴的な記述がある。作中で、昇格を決めた主人公がその任命書を示した途端、目の前の女性が一糸まとわぬ姿で横たわる。枯れた枝にも満開の花がつく。そんな現実離れした描写が、中国では権力に不可能はないという理屈を超えた“真理”を強調する。早稲田大の千野拓政教授(中国近現代文学・文化)は「作品の核にあるのはおそらく彼が実際に見てきたこと。むちゃくちゃな話ばかりだが不思議と『これはあり得る』と感じさせる」と魅力を語る。
現代中国を覆う悲喜劇の実相は時を経ないと見えてこない。作家は未来に向けて、その判断材料を地道に積み上げる。(海老沢類)
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Yan Lianke 1958年、中国河南省生まれ。80年代から創作を本格化させ、92年の『夏日落』、2005年の『人民に奉仕する』は発禁処分に。05年に『愉楽』で老舎文学賞。13年と16年に国際ブッカー賞最終候補。14年にフランツ・カフカ賞を受けた。