【5時から作家塾】ネスレが欧州で抹茶キットカット発売 戦略から見て取れる「日本らしさ」
海外への「日本土産」として大人気のキットカット
元々伝統的な日本のお菓子というわけでもないのに、海外への「日本土産」として絶大な人気を誇るもののひとつにネスレから販売されているキットカットがある。ただし普通の茶色いキットカットではなく、色とりどりのバラエティーキットカットだ。
お菓子全般に言えることだが、日本におけるキットカットのバラエティーはぶっちぎりで世界一。現在筆者が暮らしているオランダでもキットカットは人気のチョコスナックとして根付いているが、つい昨年まではいわゆる普通のチョコのものしかなく(たまにピーナッツバター入りのものや、ホワイトチョコバージョンが加わるのみ)、春の桜味やハロウィーンのカボチャ味、沖縄の紅芋味のような、季節限定・地域限定のものなど望むべくもない。
最近和食ブームとはいえ、食に対する関心も探求心も薄い普通のオランダ人にとって、例えば「大福」などはハードルが高い。しかし、いつも見慣れたキットカットの、でもなんだか見たこともない味、というのは非常にとっつきやすく楽しいものらしく、老若男女だれにあげても喜ばれる。オランダ人の夫も日本に「帰省」するたびに色々な味のキットカット(や、その他の駄菓子)を大量に買って職場に持っていくが、かごに入れておくと午前中にはなくなってしまうという。
満を持して今春発売、「キットカット・グリーンティ・マッチャ」
しかしこの春、単調だったオランダのキットカットのラインナップに異変が起きた。昨年末に少し前から話題になっていたルビーカカオを使用したピンクキットカットが発売され、そのほんの数カ月後に緑色の抹茶キットカットも追ってリリースされたのだ(ドイツやフランスなども含め8か国でほぼ同時発売)。
「Have a ZEN break」をキャッチコピーに据えたなんとも癒される1分間のTVCMも継続的に放映中。細かいことを言えば、だいぶ中国っぽい気もするが(動画参照)、まあ目をつぶろう。
プレスリリースでは、「日本では現在までに350種類の味のキットカットが誕生し、友人同士贈りあったり、お土産として買って帰る習慣があります。抹茶とはフォーマルなセレモニーに使用される粉状の緑茶のことですが、私たちが使用する原料の緑茶は全て日本と中国で生産された本物の緑茶です」と発表。
ネスレ菓子部門グローバルヘッドであるアレクサンダー・フォン・マイヨット氏他は、「キットカットは1935年に英国で誕生してから世界中に広まりましたが、日本はその革新的な味の組み合わせと独創的な限定フレーバーの数々により、たった20年でキットカットを次の次元に押し上げました。今年、日本を最も象徴するフレーバーをヨーロッパにご紹介できることを光栄に思います」と述べた。
そして、発売にあたってオランダ支社が行ったパフォーマンスが非常に印象的だった。販売元が大企業でもあるし、タダが大好きなオランダ人相手のビジネスにおいて、新製品をアピールするには街頭での派手なサンプリングというのが通常のセオリーだろう。しかしそれは、ミステリアスな国・日本のイメージを纏う期待の新製品にはそぐわなかったのかもしれない。
ネスレは2月に行われた先行プレスリリースで、アムステルダムの決して大きくないレストランにリテール関係者、有名ブロガーなど少数の関係者をプレミア招待。抹茶の魅力に取りつかれ、オランダで唯一、京都・宇治から取り寄せた本格的な抹茶を提供する抹茶専門店「Mr. & Mrs. Tea」を経営する活動家のご夫婦による茶会で始まる、落ち着いた雰囲気の集いを開いたのだ。
実際、招待されたブロガーたちは翌日こぞって「静謐な秘密の集会で味わった抹茶味のキットカットは、経験したことのないとても特別な味がした。みなさんもぜひお試しを」と書き立てた。
発売時の一連の流れはこのようにイメージ先行の印象が強かったが、馴染みのない味なだけに受け入れられるのか、試してみる人はいても定着するのか…とハラハラしながら見守っていた。
現在までネットの声は激しく賛否両論。「やっと欧州にも! これすっごく美味しいのよ!!」という声から、「食べてみたけど激マズだった!」という声まで幅広い。しかし好意的な声が半分以上を占めており、筆者の住む田舎の街の大型スーパーでもまずはお試し風の個包装パックがレジ横に置かれ、半年以上が経過した今は3枚入りのマルチパックも通常の棚に当然のように定着している。
広報に突撃、そして撃沈の筆者
9000km離れた現地で祖国の味が話題になっていることを知った筆者は、これは本社に話を聞かねばと意気込んだ。SNSで問い合わせ、自己紹介の後に「質問があるのですが」と言ってみたら「どうぞどうぞ」とのことだったので、質問リストを送ってみた。「どのような経緯で抹茶味の発売に至ったのでしょう? プレスリリースに『日本の抹茶キットカットと同じではない』とありますが、具体的にはオランダの市場のためにどこをどう変えたのですか? 素敵なCM動画ですが、どのような狙いがあるのでしょうか?」などなど。
帰ってきた返事は「申し訳ありませんがほとんど社外秘でお答えできません。」とのことだった。ガクッ。が、追って「最初のご質問だけ。わが社のキットカットは人気商品ですが、ファンの『違う味も試してみたい』との声も根強く、最も要望の多かった抹茶味に白羽の矢が立ちました」とちょっとだけヒントをもらえた。よし、違いは自分で確かめてやろう。
さて実食。違いは?
義父母が日本人の友人に頂いて大事に持っていた日本版抹茶味キットカットと、スーパーで買ってきた欧州版のキットカット(製造工場はドイツ・ハンブルク)を比べてみる。価格は日本版がネスレ公式通販で11.3g×13枚=146.9gで324円、欧州版が41.5g×3枚=124.5gで購入時2.56ユーロ(≒302円)。ヨーロッパ版のほうがグラム当たり1割程度割高か。小分けにも便利なお上品なミニサイズがたくさん入っている日本版と、ずっしり重たい手のひらサイズが3枚入っている欧州版。中身を出してみると両者とも同じような緑色で、手触りにも変わりはない。では、食べて味の違いを暴きましょう。
………
………
……よくわからない……
ブロガーたちが大騒ぎしていた「クリーミーなホワイトチョコと抹茶の芳香のハーモニー」はどちらも同じ、間違いのない味(むしろ『どうして茶色いミルクチョコに抹茶を混ぜなかったのか?』という疑問を呈していたオランダ人ブロガーには、私のほうが色々訊きたい)。
欧州版はどうせ抹茶味などと騒いでおいて、雰囲気と色だけ抹茶なんでしょ? と思っていたが、ほぼ日本版と同じ程度に感じる抹茶風味がある。子どもたちが日本版のほうが抹茶の味が濃く、欧州版のほうがチョコレートの味がすると言ったが、あちこち調べてみたら確かにウエハースに挟まっているチョコレートの色が日本版はうぐいす色、欧州版は茶色だった。100グラム当たりのカロリーは、日本版は575kcal、欧州版が536kcalと、欧州版のほうが若干低い。原材料もほぼ同じ。うーん。
味の比較はしまらない結果になってしまったが、やっぱり一番分かりやすい違いは、そのパッケージ。日本人なら見ただけで香りが鼻を抜けそうな濃いお抹茶の写真の日本のパッケージに対し、オランダのパッケージは淡い色合いで抹茶風味のアピール弱め。大仏、お寺、さくら、鯉など仏教や自然に関係するいかにも「日本風」なイラストがアジアンテイストの地模様になっており、CM動画からも見て取れるように「Have a break」という同製品のキャッチコピーを、抹茶が持つ心癒される「禅」のイメージが後押しする形になっているのだろうなと想像できた。
抹茶キットカットに盛られていた「売れる日本」のイメージ
推測するしかない部分もあるが、抹茶キットカットが欧州での発売に押し出された背景には、新フレーバーへの要望が多かったという他に「一部の経験者の間で根強い支持があった」こと、「既存のものと全く違う」ことも大きかったようだ。そして休憩のおともという商品の性格を押し上げるための、神秘的、癒し、静謐、といった「日本のイメージ」を盛ってある印象が強い。
最後に一点、このたびの抹茶キットカット発売に関するオランダの記事を徘徊していてびっくりしたのが、あちこちで緑茶の健康効果が強調され、緑茶を日常的に飲む習慣のある私たち日本人が長寿で若々しいことに触れていたこと。日本人で健康になろうとして抹茶キットカットを食べる人は多くないように思うが、彼らにとって神秘の国・日本ではお菓子にすら健康効果が宿るらしい。
神秘的、美しい自然、癒される静謐さ、全く異なる文化、通好み、そしてなにより健康で若い。
このあたりの「売れる日本のイメージ」を盛って今のところ好評販売中の抹茶キットカットは、これから定番として長年愛されるのか、それともみなさん一度食べたら気が済んでしまうのか。
日本人として遠い異国での故郷のお菓子の成功を祈りつつ、売れ行きを見守りたい。(ステレンフェルト幸子/5時から作家塾(R))
【プロフィール】5時から作家塾(R)
1999年1月、著者デビュー志願者を支援することを目的に、書籍プロデューサー、ライター、ISEZE_BOOKへの書評寄稿者などから成るグループとして発足。その後、現在の代表である吉田克己の独立・起業に伴い、2002年4月にNPO法人化。現在は、Webサイトのコーナー企画、コンテンツ提供、原稿執筆など、編集ディレクター&ライター集団として活動中。
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